自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

2021-01-01から1年間の記事一覧

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(4)

(イ) 賃貸住宅紛争防止条例 東京都には「東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例」*1という条例がある。例えば、ネットにおける「2020.12.19「幻冬舎GOLD ONLINE」記事「東京ルール」に泣かされる…賃貸部屋の劣化、誰が支払う?」を一見する…

附則に規定すべき事項……その他諸々

〇〇町の再生エネ条例に不備 一部の事業者に指導や勧告できず 〇〇町の再生エネルギー促進条例が2018年12月の改正時から、一部の発電事業者に対して処分を伴う指導や勧告ができない状態になっていたことが25日、分かった。新たな規定を加えた際に、付則の修…

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(3)

イ 具体例 (ア) 消費者保護条例 具体的な例として、まず消費者保護条例を取り上げる。 消費者保護条例に規定する内容については、猪野積『条例と規則(2)』(P91)において、次のように類型化されている。 ① 事業者規制 ・ 危害発生の防止(欠陥商品、不安商…

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(2)

(2) 「私法秩序の形成等に関する事項」と条例制定権 ア 概説 前回取り上げた条例制定権が及ばないとされた成田教授の類型化のうち、「①国全体にわたって画一的な制度によることが好ましいと思われるもの」と「④その他、対象たる事項が一地方の利害にとどまら…

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(1)

<「自治体法制執務雑感」関連記事> 2008年2月29日付け記事「都道府県条例に市町村の責務を規定することについて」 2014年10月25日付け記事「続・都道府県条例に市町村の責務を規定することについて」 1 概説 自治体の条例制定に関する基本的な事項として…

自治体の組織は何でもありか

ある条例を制定するために学識者会議が置かれ、その提言において施策推進のため「〇〇センター」と称する第三者機関を置き、そこに委員、調査員等を置くことを求める内容があったことがある。 このセンターなる組織の性格は必ずしもはっきりしなかったのだが…

法文のミスと罰則

公選法の罰則、2年消えたまま 参院法制局「単純ミス」 公職選挙法の条項の一部で、本来あるはずの罰則が記載されていないことがわかった。2018年に法律が改正されて新たな条項が追加され、条項の順番が一つずれたが、罰則の方は修正されなかったため、既存の…

おかしな例規(2)

容器保安規則等の一部を改正する省令(平成30年経済産業省令第61号) (容器保安規則の一部改正) 第1条 容器保安規則(昭和41年通商産業省令第50号)の一部を次のように改正する。 次の表により、改正前欄に掲げる規定の傍線を付した部分は、これに順次対…

経過規定(10)

(5) 試験の名称を変更した場合の経過規定 平成21年4月22日に公布された「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律等の一部を改正する法律(平成21年法律第20号)」(衆法)は、あん摩マッサージ指圧師試験等の名称を、国家試験であることを…

法案のミスから思うこと

今国会における法案のミスが大きな話題になっている。その数は、24の法案等について134件であり、そのうち条文等の誤りは3法案1条約の合計12か所で、他は新旧対照表等の参考資料におけるものである。 本件については、次のような報道がなされている。 法案…

経過規定(9)

(4) 指定区域に関する経過規定 区域指定を行い、その区域内で一定の規制を行うこととする条例を制定していたが、その条例を全面的に改めた際に、旧条例に基づく指定等については、新条例に基づいて当該区域を指定するまでは旧条例はなお効力を有することとし…

経過規定(8)

ウ その他 附属機関の経過規定に関連した事項について、実際に聞かれて疑問に思ったことがある。それは、附属機関の会議の招集について「会議は、会長が招集する」といった規定を置くことがあるが、会長は委員の互選によることとしている場合には、最初の会…

経過規定(7)

イ 附属機関の性格に変更がある場合 次の法令の規定は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律の制定の際に、同法に基づく事項を審査する審査会について、従来の情報公開審査会を改組して情報公開・個人情報保護審査会とした場合における経過規定で…

経過規定(6)

3 具体的な経過規定の例 (1) 施行日前に一定の行為をすることができる旨の経過規定 ある行為等について許可制を採ることとした場合、当該行為等を施行日にしたい者もいるため、法律では次のような経過規定を置くことがある。 第○条の許可の手続は、この法律…

「新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態」の表記(下)

2 内容における不自然さ 法第31条の4第1項の新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態についての要件は、新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(令和3年政令第28号による改正後のものであり、以下「政令」という。)第5…

「新型インフルエンザ等まん延防止重点措置を集中的に実施すべき事態」の表記(上)

「新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態」がよく分からない。その理由は、単純に書き振りからくる分かりにくさと内容における不自然さがあるように思う。 1 書き振りからくる分かりにくさ 新型インフルエンザ等まん延防止等重…

自治体の機関

1 機関の性格等 機関名 性格 任命権 規則・規程制定権*1 事務局*2 附属機関の設置 所属職員への事務委任 首長 執行機関(地自法138条の4第1項・139条) 有(地公法6条1項) 規則(地自法15条1項) ― 可(地自法138条の4第3項) 可(地自法153条1項…

経過規定(5)

(3) 「経過措置の対象となっている本則の規定の書きぶりを意識すること」について 原課における経過規定に関する案は、往々にして本則の書きぶりを無視したようなものが多かった。実務では、例規そのものではなくマニュアルに頼っているということはよく言わ…

経過規定(4)

((2)「経過措置が必要な項目を具体的に拾い出すこと」についての続き) 前回の例2について具体的にどのように書くかであるが、前回記載した1から7までに該当するケースが限定されるのであれば、当該ケースごとに具体的に書いていけばいいことになる。 1…

経過規定(3)

((2)「経過措置が必要な項目を具体的に拾い出すこと」についての続き) 他の自治体の表彰規則は、次のような書きぶりになっていた。 <例2> (市政有功表彰) 第3条 市政有功表彰は、次の各号の一に該当する者に対し、その功労を表彰する。 (1) 市長とし…

「もの」

『自治実務セミナー2021.1』で北村喜宣教授が「空家等対策の推進に関する特別措置法」第2条第1項の規定に関し興味深い指摘をされている。同項の規定は、次のとおり「空家等」の定義を定める規定である。 この法律において「空家等」とは、①建築物又はこれ…

経過規定(2)

2 経過規定の書き方 (1) 総括 経過規定を書く場合には、次の事項に留意する必要がある。 ア 経過措置が必要な項目を具体的に拾い出すこと。 言うまでもないことだが、経過措置が必要かどうかは、項目ごとに検証していく必要がある。経過規定をどのように書…

新旧対照表方式と改め文方式の併用~省令改正の事例から

押印見直しを受けた省令の改正が昨年末の官報を賑わしたが、様式改正の場合は新旧対照表方式によると面倒な面があるため、一の省令の改正の中で条文の改正は新旧対照表方式を用い、様式の改正は改め文方式を用いる例が多い。このように新旧対照表方式と改め…