自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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経過規定(3)

((2)「経過措置が必要な項目を具体的に拾い出すこと」についての続き)

他の自治体の表彰規則は、次のような書きぶりになっていた。

<例2>

 (市政有功表彰)

第3条 市政有功表彰は、次の各号の一に該当する者に対し、その功労を表彰する。

  (1) 市長として8年以上在職した者

  (2) (略)

  (3) 助役、収入役及び教育長として12年以上在職した者

  (4) (略)

 (在職年数の計算)

第6条 (略)

2 第3条各号に掲げる公職のうち2以上の職歴を有する者に対する在職年数については、在職年月数換算表(別表)に掲げる率により、最後の資格による在職年数に換算して算定するものとする。*1

別表 (略)(市長が助役又は収入役として在職したことがある場合は、その在職期間の3分の2を通算することとしている。)

 例2の場合は、例1の第11号のようないわゆるバスケットクローズ規定がなく、表彰の対象とする者を全て書ききっているため、第3条第3号の「助役、収入役」を「副市長」に改め(当然、別表も所要の改正をする必要がある)、表彰の対象としたい者をすべて網羅するように経過規定を書く必要がある。

 では、この改正関係で経過措置として表彰の対象としたい者としてどのような者がいるかというと、次の者が考えられる(なお、いわゆる三役以外の職に在職した場合も表彰の対象になることがあるのだが、それは除外することにする)。

  1. 助役として12年以上在職した者
  2. かつて助役として在職した者が副市長となった場合(地方自治法の一部を改正する法律(平成18年法律第53号)の施行の際に助役であった者が附則第2条の規定により副市長として選任されたものとみなされた場合を含む。)で、助役としての在職期間と副市長としての在職期間を通算して12年以上となる者
  3. かつて助役として在職した者(その後副市長となった者を含む。)が、市長となり、助役(及び副市長)としての在職期間の3分の2に相当する期間と市長としての在職期間を通算して8年以上となる者
  4. 1~3で、収入役としての在職期間があるときに、その期間を通算して所定の期間以上となる者
  5. 収入役として12年以上在職した者
  6. かつて収入役として在職した者が副市長となり、収入役としての在職期間と副市長としての在職期間を通算して12年以上となる者
  7. かつて収入役として在職した者(その後副市長となった者を含む。)が、市長となり、収入役(及び副市長)としての在職期間の3分の2に相当する期間と市長としての在職期間を通算して8年以上となる者

 このように書き出してみると、この事例は、あまり複雑なケースではないことが分かる。だから、このように書き出してみなくても経過規定を書くことができるだろう(具体的な書き方は次回に記載する)。

 ただし、書き出してみた結果、実際には考慮する必要がないケースも出てくるだろうから(5に該当する者はすべて表彰済みである場合など)、具体的に考慮しなければいけない場合のみ意識して、それを最低限網羅できる経過規定を書くようにすることが重要になる。例えば、処分等に関する経過規定として、「この条例による改正前の○○条例の規定によってした処分、手続その他の行為であって、この条例による改正後の○○条例の規定に相当の規定があるものは、これらの規定によってした処分、手続その他の行為とみなす。」というざっくりとした規定を置くことがあり、これは、その対象となる事項が相当数あるからこのような書き方をするのだが、具体的にどのような事項が対象になっているかは、分かりにくい感じは否めない。その対象となる事項が少なければ少ないほど該当規定を引用するなどして丁寧に書くことができるので、当然分かりやすくなり、その方が適切であることは明らかであろう。

 また、経過規定というと「従前の例による」という文言を使うことを思い浮かべるが、このように書き出してみると、2や6のケースは「従前の例による」という文言ではうまく表現できないことが分かるので、具体的に書き出してみることは訳の分からない経過規定になってしまうようなミスを防ぐ上でも有効である。

*1:「最後の資格」と「換算」という言葉があまりよくないような感じがする。きちんと書こうとすると、以前に他の職にあった場合には、その在職年数も通算する旨とその通算する方法を規定することになると思う。そして、通算する方法の書き方は、かなり複雑になるが、これ以上は本題とは関係ないので省略する。