自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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附則に規定すべき事項……その他諸々

〇〇町の再生エネ条例に不備 一部の事業者に指導や勧告できず

 〇〇町の再生エネルギー促進条例が2018年12月の改正時から、一部の発電事業者に対して処分を伴う指導や勧告ができない状態になっていたことが25日、分かった。新たな規定を加えた際に、付則の修正をしていなかったため、条例制定前に発電設備を整備した事業者が対象から外れていた。町は不備を認め、6月定例町議会に条例の一部改正案を提出する方針。

2021年5月26日 愛媛新聞

 この条例は、次の条例であると思われる。 

〇〇町豊かな自然と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する条例

(目的)

第1条 (略)

(基本理念)

第2条 (略)

(定義)

第3条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 (1) 発電設備 電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号)第2条第3項に規定する設備(設備を設置する土地を含む。)をいう。

 (2) 発電事業 発電設備を利用し、発電を行う事業をいう。

 (3) (略)

 (4) 事業者 発電事業を実施するものをいう。

 (5)~(7) (略)

(町の責務)

第4条 町長は、この条例の適正かつ円滑な運用が図られるよう必要な措置を講じなければならない。

2 町長は、地域の活性化を図り、エネルギーの供給源の多様化に資するため必要があると認める場合は、発電事業の推進に協力するものとする。

(事業者の責務)

第5条 事業者は、関係法令を遵守するほか、事業区域、周辺地域の自然、景観及び生活環境に十分に配慮するとともに、事故、公害及び災害(以下「事故等」という。)を防止し、地域の関係者の相互の密接な連携の下行わなければならない。

2 事業者は、発電事業の実施に伴い事故等が発生した場合又は地元地区若しくは関係者と紛争が生じた場合は、自己の責任において誠意をもってこれを解決し、再発防止のための措置を講じなければならない。

3 事業者は、発電事業に必要な公共施設及び公共的施設を自らの負担と責任において整備するよう努めなければならない。

4 事業者は、発電事業を終了する場合は、事業終了後直ちに発電設備を撤去しなければならない。ただし、撤去の必要がないと町長が認める場合は、この限りでない。

(協力要請区域)

第6条 町長は、必要があると認める場合は、次に掲げる区域(以下「協力要請区域」という。)において発電事業を行わないよう協力を求めることができるものとする。ただし、建築物等の屋根又は屋上に設置するものを除く。

 (1) 貴重な自然状態を保ち、学術上重要な自然環境を有している区域

 (2) 地域を象徴する優れた景観として、良好な状態が保たれている区域

 (3) 歴史的又は文化的な特色を有している区域

 (4) 農林漁業の健全な発展に必要な農林地並びに漁港及びその周辺の水域

 (5) 〇〇町景観条例……第8条第1項に規定する景観計画区域

 (6) 前各号に定めるもののほか、町長が必要と認める区域

(適用を受ける発電事業)

第7条 この条例の適用を受ける発電事業は、次の各号のいずれかに該当するものとする。ただし、他の法令等の対象となる発電事業等でこの条例の適用が不要であると町長が認めるものは除くものとする。

(1) 事業区域の土地の合計面積が500平方メートル以上である発電事業(既に完成若しくは施工中のものと一体的に行う場合、既に隣地に他の発電施設が設置されている場合又は排水施設等の関連施設を他の発電事業と共有する場合においては、合計面積が500平方メートル以上となるものを含む。)

(2) 前号の規定にかかわらず、協力要請区域で行う発電事業

(町への協議等)

第8条 事業者は、発電事業を行おうとする場合は町長と協議しなければならない。

2 事業者は、発電事業の工事の着手前に町長に届け出て、許可を得なければならない。

3 事業者は、前項の許可を得た後でなければ発電事業の工事に着手してはならない。

(地元地区への説明)

第9条 事業者は、地元地区に対して発電事業の内容等に係る説明会を開催し、地元地区の代表者である区長の同意を得なければならない。この場合において、地元地区から要望があるときは、関係者に対して同様の説明会を開催し、関係者の同意を得るものとする。

2 事業者は、前項の規定により説明会を開催するときは、事前に町長と協議しなければならない。

(審査)

第10条 町長は、第8条第2項の規定による届出があった場合は、審査を実施し、必要に応じて愛南町環境審議会の意見を聴かなければならない。

(審査結果の通知)

第11条 町長は、前条の審査の結果、発電事業の可否を決定し、事業者に通知するものとする。

2 町長は、必要に応じて前項の規定による通知に意見を付すものとする。

(着手等の届出)

第12条 事業者は、発電事業の工事の着手、完了、中止又は再開をした場合は、速やかに町長に届け出るとともに、区長へ知らせなければならない。

(完了の確認)

第13条 町長は、前条の規定による完了の届出があったときは、確認を行うものとする。

(指導、助言又は勧告)

第14条 町長は、次の各号のいずれかに該当するときは、事業者に対して、指導、助言又は勧告を行うものとする。

 (1) 正当な理由なく第5条の規定を遵守しないとき。

 (2) 正当な理由なく第8条の規定による協議等を行わず、又は虚偽の届出をしたとき。

 (3) 第11条の規定による通知を受ける前に発電事業の工事に着手したとき。

 (4) 前3号に定めるもののほか、町長が必要と認めるとき。

2 事業者は、前項の指導、助言又は勧告について、その処理の状況を町長に報告しなければならない。

(公表)

第15条 町長は、事業者が正当な理由なく前条第1項の指導、助言又は勧告に応じないときは、その事実を公表するものとする。

(届出事項等の変更)

第16条 第8条から第12条までの規定は、町長に届け出た事項を変更する場合について準用する。

(委任)

第17条 (略)

   附 則

(施行期日)

1 この条例は、公布の日から施行する。

(第5条、第11条並びに第15条第1項第2号及び同条第2項の適用)

2 第5条、第11条並びに第15条第1項第2号及び同条第2項の規定については、次に定める場合を除き、全ての発電事業に適用する。

 (1) 他の法令等に基づく手続を行っている場合

 (2) 条例の規定の適用の必要がないと町長が認める場合

 上記の記事の趣旨は、附則第2項に指導、勧告等の規定である第14条が規定されていないため、条例の施行前に発電設備を整備した事業者については、第14条を根拠とした指導、勧告等ができないため、第15条の公表ができないことになり、それが条例の不備と言っているのだと思われる。

 しかし、この条例における「事業者」は、「発電事業を実施するものをいう」とされているため(第3条第4号)、附則第2項がなければ何の問題もなく全ての事業者が対象になってくる*1

 この条例で適用関係が問題になるのは、条例施行の際既に発電事業に係る工事に着手している事業者が事前協議(第8条)等の対象となるかどうかであり、通常は、事業者に不利益となる事項の遡及適用を避けるため、附則に事前協議等の対象を条例施行日以後に着手する工事に係る発電事業とする旨の規定を置くことになる。そして、既存事業者については、一定期間内に届出をさせる旨の規定を併せて置くのが*2、このような条例における附則の規定のスタンダードな例だろう。

 上記記事に関連した事項は以上であるが、この条例は、それ以外にも不適当な事項が散見される。この条例は、発電事業を行う事業者に町長への協議という事前手続等を課し、行政指導を通じて意図する効果を上げようと考えて制定したように思われる。この種の条例は、行う手続をきちんと規定することが肝心であるところ、その手続の規定が甘いため、結果として問題が多い条例となってしまっている。

 上記以外に気になる事項を次に記載しておく。

 〇 第5条

 責務規定は、通常は総論の規定として抽象的に義務付けを行う場合に置かれるものであり、具体的に義務付けを行うのであれば、実体的な規制を規定する箇所において規定すべきである。この条例では、勧告等の対象に第5条違反の場合を規定しているが(第14条第1項第1号)、そうするのであれば、遵守事項として第14条の前辺りに規定すべきである。その場合に、第3項のような規定は不適切だろう。

〇 第6条

 協力要請区域内で行う発電事業は、条例の適用対象事業となるため(第7条第2号)、第1号から第4号までの区域は、規則等で具体的に定めることとすべきである。

〇 第7条

 第3条第2号に発電事業の定義があるが、この条例が適用される発電事業は第7条に定めるものであるのなら、第7条を置くのではなく、第2条の定義規定で書き切れば十分である。仮に、第5条を事業者に対する抽象的な義務付けとして全ての発電事業を行う場合に適用があることとし、協議等の対象となる発電事業は限定するというのであれば、定義とは別に第7条を規定する意味もある。

〇 第8条

 第2項と第3項の許可の意図が不明

〇 第9条

 住民等の同意の義務付けは、一般的には適当でないとされているが、区長等の同意がなかった場合にどうなるのか条例に規定はないので、あえてそのようにしているのであれば、これも有りなのだろう。なお、第2項の規定は、説明会開催前に届出をさせる位であれば分かるのだが、協議までさせる意図はよく分からず、過重な手続になっていると思う。

〇 第11条

 事業者が第2項の意見に従わない場合にどうなるのか規定がないため、同項は、全く意味のない規定になっている。その場合には、行政指導の対象になるように規定すればよいのにと思う。

〇 第16条

 「町長に届け出た事項」が何を指しているのか不明

〇 附則第1項

 制定当初の条例の規定がどのようなものであったかによるが、基本理念の規定等を除き、公布日施行とするのはいかがかと感じる。 

*1:この条例では、規制対象とする者について全て「事業者」としており、そうした条例の規定は他でもよく見かけるが、本来であれば、事業を行う前であればまだ「事業者」ではないので、その時点に応じた適切な用語を選択していくべきである(例えば第8条第1項は、「発電事業を行おうとする者は、〇〇について町長と協議しなければならない。」といった規定にすべきである。)。

*2:もちろん既存業者を全て把握していれば、この届出の規定は不要になるが、そのようなケースはほとんどないのではないかと思われる。