自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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「新型インフルエンザ等まん延防止重点措置を集中的に実施すべき事態」の表記(上)

 「新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態」がよく分からない。その理由は、単純に書き振りからくる分かりにくさと内容における不自然さがあるように思う。

1 書き振りからくる分かりにくさ

 新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施すべき事態に関する規定は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(令和3年法律第5号による改正後のものであり、以下「法」という。)第31条の4第1項に規定されているが、この規定を新型インフルエンザ等緊急事態に関する規定である法第32条第1項の規定と比較してみる。

法第31条の4第1項

 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章及び次章において同じ。)が国内で発生し、特定の区域において、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある当該区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるときは、当該事態が発生した旨及び次に掲げる事項を公示するものとする。

 (1)~(3) (略)

法第32条第1項

 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第5項及び第34条第1項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。

 (1)~(3) (略)

  現在なされている緊急事態宣言の解除後には新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施すべき事態に移行するといった報道も見受けられるが、そうした場合を想定した書き方になっていないように思われる。ただ、それは触れないこととする。

 法第31条の4第1項は、私には読みにくい文書だが、その原因は2点あるように感じる。

 1点目は、法第31条の4第1項の書き振りは当然法第32条第1項を参考にしているのだろうが、法第32条第1項の「おそれがあるもの」の「もの」は「事態」を指しているのに対し、法第31条の4第1項は「おそれがある……まん延」となってしまったことによる不自然さである。

 2点目は、「……防止するため、」という文言はその直後の「新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要がある」にかかっていくのであろうが、読点で文章を切ってしまっているため、どこにかかっていくのか分かりにくくなっている点である。

 以上の点を考慮して、次のように書けば少しは分かりやすくなるのではないかと思う。

 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等……が国内で発生し、特定の区域において、それがまん延すると国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがあり、そのまん延を防止するためには新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるときは、当該事態が発生した旨及び次に掲げる事項を公示するものとする。

 (1)~(3) (略)