自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

一部改正例規を改正する例規の立案等~改正規定の特定を中心として(9)

  イ 事例2

 前回、「平成17年法律第81号」の第49条第1項の改正規定で追加する号を枝番号にしない場合に改正規定がどのようになるか取り上げたが、今回は、その施行期日を逆にした場合、つまり、平成17年10月1日施行の部分と平成18年4月1日施行の部分を逆にした場合にどのようになるか考えてみたい。

 その場合に、平成18年4月1日施行の部分に下線を付すると、次のようになる。

 第49条第1項第1号中「この節」の下に「及び第6節」を加え、同項第4号を次のように改める。

 (4)  (略)

 第49条第1項第9号中「行うこと」の下に「(前号に掲げる業務を除く。)」を加え、同号を同項第11号とし、同項第8号を同項第9号とし、同号の次に次の1号を加える。

 (10) (略)

 第49条第1項中第7号を第8号とし、第6号を第7号とし、同項第5号中「身体障害者若しくは」を「身体障害者(重度身体障害者その他の厚生労働省令で定める身体障害者に限る。以下この号において同じ。)若しくは」に改め、同号を同項第6号とし、同項第4号の次に次の1号を加える。

 (5)  (略)

 号を繰り下げる部分については、第10号を加える部分は平成17年10月1日施行であるため、第9号を第11号とする部分は同日施行とする必要があるが、それ以外の部分は平成18年4月1日施行でよいことになる。

 そうすると、上記の改正規定だと、「同項第8号を同項第9号とし、同号の次に次の1号を加える」としている部分の施行期日の書き分けが面倒になるので、改正規定を次のようにすることが考えられる。

 第49条第1項第1号中「この節」の下に「及び第6節」を加え、同項第4号を次のように改める。

 (4)  (略)

 第49条第1項第9号中「行うこと」の下に「(前号に掲げる業務を除く。)」を加え、同号を同項第11号とし、同号の前に次の1号を加える。

 (10) (略)

 第49条第1項中第8号を第9号とし、第7号を第8号とし、第6号を第7号とし、同項第5号中「身体障害者若しくは」を「身体障害者(重度身体障害者その他の厚生労働省令で定める身体障害者に限る。以下この号において同じ。)若しくは」に改め、同号を同項第6号とし、同項第4号の次に次の1号を加える。

 (5)  (略)

 これによると、施行期日は次のようになる。

 (施行期日)

第1条 この法律は、平成18年4月1日から施行する。ただし、……第49条第1項の改正規定(同項第1号に係る部分、同項第9号に係る部分、同号を同項第11号とし、同号の前に1号を加える部分に限る。)……は、平成17年10月1日から施行する。

 この事例では、平成17年10月1日から平成18年3月31日までの間は、第49条第1項第9号は欠けていることになるが、このように一定期間、一部の号等が欠けることはよくあることであり、許容できるが、一定期間でも号等がダブルことは許されないだろう。

一部改正例規を改正する例規の立案等~改正規定の特定を中心として(8)

 (2) 施行期日の書き分けが複雑になる場合の改正規定の操作

  ア 事例1

   障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第81号)

  (略)

 第49条第1項第1号中「この節」の下に「及び第6節」を加え、同項第4号を次のように改める。

 (4)  (略)

 第49条第1項第4号の次に次の1号を加える。

 (4)の2  (略)

 第49条第1項第5号中「身体障害者若しくは」を「身体障害者(重度身体障害者その他の厚生労働省令で定める身体障害者に限る。以下この号において同じ。)若しくは」に改め、同項第8号の次に次の1号を加える。

 (8)の2  (略)

 第49条第1項第9号中「行うこと」の下に「(前号に掲げる業務を除く。)」を加える。

  (略)

   附 則

 (施行期日)

第1条 この法律は、平成18年4月1日から施行する。ただし、……第49条第1項の改正規定(同項第1号に係る部分、同項第8号の次に1号を加える部分及び同項第9号に係る部分を除く。)……は、平成17年10月1日から施行する。

 第49条第1項の改正規定の施行期日は、下線の部分が平成18年4月1日、それ以外の部分が平成17年10月1日ということになる。これは、追加する号を枝番号にしているため、あまり複雑ではない。

 しかし、枝番号にしないとどのようになるであろうか。まず、第49条第1項の改正規定は、次のようになる。

 第49条第1項第1号中「この節」の下に「及び第6節」を加え、同項第4号を次のように改める。

 (4)  (略)

 第49条第1項第9号中「行うこと」の下に「(前号に掲げる業務を除く。)」を加え、同号を同項第11号とし、同項第8号を同項第9号とし、同号の次に次の1号を加える。

 (10) (略)

 第49条第1項中第7号を第8号とし、第6号を第7号とし、同項第5号中「身体障害者若しくは」を「身体障害者(重度身体障害者その他の厚生労働省令で定める身体障害者に限る。以下この号において同じ。)若しくは」に改め、同号を同項第6号とし、同項第4号の次に次の1号を加える。

 (5)  (略)

 同様に施行期日が平成18年4月1日となる部分に下線を付している。ここでは、第5号を加える部分が平成17年10月1日の施行となるため、号を繰り下げる部分は、すべて同日の施行とすることになる。

 したがって、この場合の施行期日の規定は、次のとおりとなる。

 (施行期日)

第1条 この法律は、平成18年4月1日から施行する。ただし、……第49条第1項の改正規定(同項第1号に係る部分、同項第9号に係る部分(同号を同項第11号とする部分を除く。)及び同項第8号を同項第9号とし、同号の次に1号を加える部分(同項第8号を同項第9号とする部分を除く。)を除く。)……は、平成17年10月1日から施行する。

 このように追加する号に枝番号を用いないと、施行期日の書き分けがかなり複雑になってくる。また、第49条第1項第9号は、字句の改正より前に号を移動させる必要があることから、上記の書きぶりが適切なのか悩むところでもある。

 枝番号を用いる場合として、法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務』(P449)は、条等を繰り下げることが技術的にいたずらに複雑となる場合を挙げているが、これもそのような例と言えるかもしれない。

議員報酬削減条例

長期欠席都議、報酬減額条例を提案

 都民ファーストの会は29日、東京都議会の長期欠席議員を対象とした報酬の削減条例案について、立憲民主党と共同で議会運営委員会理事会に提案したと発表した。木下富美子都議が無免許運転で当て逃げ事故を起こして書類送検されながら、議会への欠席を続けていることが念頭にある。全会派の賛同を得た上で、現在開会中の定例会での制定を目指す。

 条例案では、都議が逮捕・拘留されたら支給を停止するほか、定例会を2回欠席した場合には報酬を半額にするとしている。毎月の報酬に加え、期末手当(ボーナス)も対象とする。都民ファ伊藤悠都議(政調会長代理)は「木下氏の長期欠席に都民の怒りは大きい。都議会の信頼回復のため一刻も早く条例を成立させたい」と述べた。

産経新聞 2021年9月29日配信

 法規担当だった頃、議会事務局から、議員が不祥事を起こしたことに対し、報酬を削減する条例を制定することは可能かという相談を受けたことがある。議会事務局の念頭にあったのは、不祥事があった際に首長が条例で給与削減を行うことがあったため*1、可能であれば同様な対応ができないかということであったが、私は、首長の給与削減の場合と同様の条例とするのであれば、本件は条例に議員個人の名前を記載することになるが、それは、次の理由により適当ではないのではないかと答えた。

  1. 条例はあくまでも一般的・抽象的な規範であり、特定の個人を対象とした条例を制定することは原則として想定していない*2
  2. 特定の議員を対象にした報酬カットは懲罰的な意味合いが出てしまうが、議員に対する懲罰として報酬の減額をすることができる規定は、地方自治法にはない*3

 そのため、木下都議の報酬を削減する条例案の提出を検討しているといった報道がなされたときは、どのような条例案にするのか関心を持っていたが、その内容は、上記新聞記事によると議員が本来行うべき活動を行っていない議員に対し、一定の額の報酬を減額するというものであるため、至って穏当で常識的な内容であると感じる。

*1:そうした事情に鑑みて、議員自身から申出があったということだったかもしれない。

*2:厳密に言えば、首長の給与削減も特定の個人を対象にしたものということになるが、条例で定めた首長という職の給与を減額するものであるため、違法ということにはならないと思われる。

*3:地方自治法第135条第1項は、議員に対する懲罰として①公開の議場における戒告、②公開の議場における陳謝、③一定期間の出席停止、④除名を定めるのみである。なお、懲罰を科することができる事由について、地方自治法第134条第1項参照

一部改正例規を改正する例規の立案等~改正規定の特定を中心として(7)

4 一部改正例規において施行期日を書き分ける場合の改正規定の特定

 改正規定の特定は、一部改正例規について施行期日を書き分ける場合にも必要になってくる。

 (1) 施行期日を書き分けた場合における不都合なこと

 一部改正例規の一部について施行期日を書き分ける場合、一部の規定のみが施行されている状態のときはそれが元の例規に溶け込むものと考えられていることからすると、おかしな状態になっていることがある。

 例えば、次のような例がある。

   雇用対策法及び地域雇用開発促進法の一部を改正する法律(平成19年法律第79号)

 (雇用対策法の一部改正)

第1条 雇用対策法(昭和41年法律第132号)の一部を次のように改正する。

  目次を次のように改める。

  (略)

  第6章の章名中「措置」を「措置等」に改める。

  (略)

  第6章を第5章とし、同章の次に次の1章を加える。

    第6章 外国人の雇用管理の改善、再就職の促進等の措置

  (略)

   附 則

 (施行期日)

第1条 この法律は、公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。

 (1) 第1条中雇用対策法第12条を削り、第11条を第12条とし、第10条を第11条とする改正規定……、同法第6章の章名の改正規定……及び同法第6章を第5章とし、同章の次に1章を加える改正規定並びに次条、附則第6条及び第9条の規定 平成19年10月1日

  (2)  (略)

 この法律は、平成19年政令第244号により平成19年8月4日から施行されている。そうすると、目次の改正規定は、同日に施行されるのに対し、第6章の章名の改正規定及び同章を第5章とし、同章の次に1章を加える改正規定は、同法附則第1条第1号により同年10月1日から施行されるため、同年8月4日から9月30日までの間は、目次と本則とは整合がとれていないことになる。

 ただ、目次に関してだけであれば、目次は例規の検索の便宜のためのものに過ぎないとすれば、一定期間、目次と本則とで整合がとれていなくてもいいと割り切ることもありなのかもしれない。

 このように改正後の例規の中で整合がとれないもののほかに、次のように改め文自体に疑問を感じる例もある。

   地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律(平成14年法律第61号)

   (略)

 題名の次に次の目次及び章名を付する。

   (略)

 第16条中「第11条第5項」を「第24条第5項」に改め、同条を第32条とする。

 第15条を第31条とし、第14条を第30条とし、第13条を削り、第12条を第25条とし、同条の次に次の2条、1章、章名及び1条を加える。

   (略)

   附 則

 この法律は、気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書が日本国について効力を生ずる日から施行する。ただし、第16条を第32条とし、第15条を第31条とし、第14条を第30条とする改正規定、第12条の次に2条、1章、章名及び1条を加える改正規定(第26条、第27条及び第29条に係る部分に限る。)並びに第11条及び第10条の改正規定は、公布の日から施行する。

 気候変動に関する国際連合枠組条約京都議定書が日本国について効力を生ずる日は平成17年2月16日であるため、第16条の改正規定は同日に施行されることになっているが、同条はこの法律の公布日である平成14年6月7日に既に第32条になっている。この場合には、当然改正前の第16条を指していると考えるのであろうが、この改め文でよいのかという疑問は感じてしまう。この場合には、第16条の改正規定の施行期日も平成14年6月7日とし、その適用を平成17年2月16日とすれば解決するのだろうが、実際にはこのようにはやり難いのかもしれない。

 例規にも意外とルーズなところがあり、一部改正例規は、最終的にきちんとした姿になればよいと考えているのだろう。

一部改正例規を改正する例規の立案等~改正規定の特定を中心として(6)

 (6) 改正規定の複雑なパターンとそのとらえ方

  ア 字句の改正+条の追加

 第○条第1項中「……」を「……」に改め、「……」を削り、同条第2項中「……」の下に「……」を加え、同条の次に次の1条を加える。

第△条 ……

 この場合について、河野久『立法技術入門講座3法令の改め方』(P229~)には、次のように記載されている。

 このようなパターンの改正規定の全体を特定する表現については、いくつかの方法があり、必ずしも一致しているわけではない。

 条単位で改正規定のセンテンス(段落)が切れる原則からいえば、上記のパターンは、「第○条の改正規定」と「第○条の次に1条を加える改正規定」とが便宜的に結合したものであると理解することができる。そこで、このパターンについては、「第○条の改正規定及び同条の次に1条を加える改正規定」という表現で特定する実例もある。しかし、このようにひとつの段落でありながら「改正規定」という用語を2回使用することには難色を示す向きも多い。そこで、「第○条を改め、同条の次に1条を加える改正規定」というように表現する例が多く、一般的だといえる。ただ、この方法では、字句を改正する部分が「第○条を改め……る改正規定」という重畳的な表現となり、あまり好ましくないとする意見もないわけではない。しかし、「……を削る改正規定」「……を加える改正規定」と並んで、本来「……を改める改正規定」があり、それが単独の場合には「第○条の改正規定」というように簡略化して表現されているにすぎないと考えれば、それほどの違和感を感じる必要はないともいえよう。

 なお、上記の例の場合に、丁寧に「第○条第1項及び第2項を改め、同条の次に1条を加える改正規定」と表現することは、もちろんかまわない。

 私は、「第○条の改正規定及び同条の次に1条を加える改正規定」とするのが一番いいような感じがする。理由は上記にもあるが、本来は『第○条第1項中「……」を「……」に改め、「……」を削り、同条第2項中「……」の下に「……」を加える。』「第○条の次に次の1条を加える。」とするべきものを便宜的に一文でもいいことにしているだけではないかと思うからである。

  イ 項・号等の削除+条の追加

 第○条第4項を削り、同条の次に次の1条を加える。

第△条 ……

 この場合には、河野前掲書(P230~)では、柱書きの表現にならって「第○条第4項を削り、同条の次に1条を加える改正規定」と表現し、項・号等を削除する部分が長くなるときは、「第○条を改め、同条の次に1条を加える改正規定」と、簡略に表現すればよいとしている。

 しかし、私は、アと同様に、「第○条第4項を削る改正規定及び同条の次に次の1条を加える改正規定」とするのがいいと思う。

  ウ 条の移動+条の追加

 第49条を第50条とし、第44条から第48条までを1条ずつ繰り下げ、第43条の次に次の1条を加える。

第44条 ……

 この場合には、河野前掲書(P231)では、条の移動が3条以上であるので「第44条から第49条までを1条ずつ繰り下げ、第43条の次に1条を加える改正規定」というように、「条の移動」部分を若干簡略化して表現することができるとしている。簡略化しないのであれば、「第49条を第50条とし、第44条から第49条までを1条ずつ繰り下げ、第43条の次に1条を加える改正規定」とすることになる*1

  エ 字句の改正+条の移動

 第○条第2項中「……」を「……」に改め、「……」を削り、同条を第△条とする。

 この場合には、河野前掲書(P231)では、「第○条を改め、同条を第△条とする改正規定」あるいは、「第○条第2項を改め、同条を第△条とする改正規定」という表現で特定するとしているが、後者でいいのではないかと思う。

 なお、この場合に、「第○条第2項の改正規定及び同条を第△条とする改正規定」としている例もあったような気がする。アの河野前掲書の引用部分にあるように、「第○条を改め……る改正規定」という表現を嫌ったことによるのかもしれないが、この場合は、アとは違って1つの改正規定と考えざるを得ないのではないだろうか。

  オ 項・号等の削除+条の移動

 第○条第4項を削り、同条を第△条とする。

 この場合には、河野前掲書(P232)では、項以下の単位の規定の削除であるから「第○条を改め、同条を第△条とする改正規定」と表現できるが、上記のように簡単な例では、そのまま「第○条第4項を削り、同条を第△条とする改正規定」と表現する場合が多いとしている。後者でいいのではないかと思う。

  カ 条の削除+条の移動

<例1>

 第5条を削り、第4条を第5条とする。

<例2>

 第7条を削り、第6条を第7条とし、第5条を第6条とする。

<例3>

 第9条を削り、第10条を第9条とし、第11条から第14条までを1条ずつ繰り上げる。

 この場合には、河野前掲書(P232)では、条の削除と条の移動については、その改正規定をそのままとらえて表現するしかなく、3条以上の移動について「第○条から第△条まで」と簡略できるにすぎないので、例1は「第5条を削り、第4条を第5条とする改正規定」、例2は「第7条を削り、第6条を第7条とし、第5条を第6条とする改正規定」、例3は「第9条を削り、第10条から第14条までを1条ずつ繰り上げる改正規定」というように表現するとしている。

 なお、例3は、「第9条を削り、第10条を第9条とし、第11条から第14条までを1条ずつ繰り上げる改正規定」としてもよい。

  キ 条の削除+条の移動+条の追加

 第10条を削り、第9条を第10条とし、第8条を第9条とし、第7条の次に次の1条を加える。

第8条 ……

 この場合には、河野前掲書(P233)では、条の削除・移動・追加については、そのまま特定するしかなく、「第10条を削り、第9条を第10条とし、第8条を第9条とし、第7条の次に1条を加える改正規定」と表現することになるとしている*2

*1:旧ブログでは、「第49条を第50条とし、第44条から第49条までを1条ずつ繰り下げる改正規定及び第43条の次に1条を加える改正規定」とするのがいいのではないかと記載しているが、この場合の条の繰り下げは、新第44条を追加するために行っているので、現在はあまり適当ではないだろう。

*2:旧ブログでは、「第10条を削り、第9条を第10条とし、第8条を第9条とする改正規定及び第7条の次に1条を加える改正規定」とするのがいいのではないかと記載しているが、この場合の条の繰り下げも、新第8条を追加するために行っているので、適当ではないだろう。

観光再興条例(下)

 「新型コロナウイルス感染症の影響を受けている観光産業の再興に関する条例案」の問題点と思われる事項は、以下のとおりである。

1 条例の題名と条例の目的の不一致

 この条例案の題名は、「……観光産業の再興に関する条例」である。したがって、題名から想像すると、目的規定は「この条例は、……観光産業の再興を図ることを目的とする」あるいは、「この条例は、……観光産業の再興を図り、もって……することを目的とする」といったようなものになるのではないかと考えるのであるが、そのようになっていない。

 この目的規定は、「沖縄県新型コロナウイルス感染症等対策に関する条例」の目的規定を過剰に参照しているように思われる。当該条例の目的規定は、次のとおりである。

 この条例は、県外から容易に医療等の支援を受けることができない島しょで構成される本県においては新型コロナウイルス感染症等の急速なまん延を防ぐことが重要であることに鑑み、県内において新型コロナウイルス感染症等の急速なまん延のおそれがある場合の措置を定め、県、県民及び事業者の責務を明らかにすることにより、新型コロナウイルス感染症等から県民の生命及び健康を保護し、並びに新型コロナウイルス感染症等が県民生活及び県民経済に及ぼす影響が最小となるようにし、もって安全安心の島沖縄(県民が安全に安心して生活し、及び経済活動を行うことができる社会をいう。)を実現することを目的とする。

 「再興」の意味は、「いったん衰えたものが、勢いを盛り返すこと。また、もう一度盛んにすること。」である*1。「再興」と言うのであれば、当然アフターコロナも見据えた話になると思うが、これでは単なるコロナ対策の強化である。

 前回、この条例案が目的としていることは、新型コロナウイルス感染症により影響を被っている観光産業に関し、「観光関連事業者等支援施策」を積極的に実施することにより、観光の再興を図るということではないかと記載したが、その認識は間違いなのだろうか。

2 「観光関連事業者等支援施策」条例の構成等

 この条例案が「観光関連事業者等支援施策」を積極的に実施することを意図していることは明らかだと思う。そして、条例案第3条第1項は、「県は、観光関連事業者等支援施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。」としている。

 しかし、この規定だけでは、なぜ「総合的に」策定・実施をしなければいけないのか、また執行機関としてはどのように実施することを求められているのかよく分からない。

 このように責務規定で特定の施策を総合的に策定し、及び実施することを謳う規定は法律でもよく見られるところである*2。しかし、法律の場合は、責務規定の前に基本理念の規定を置き、当該施策は当該基本理念にのっとって行うといった規定とするのが通例である*3。さらに、総合的に施策を実施するために、方針や計画を策定することとすることがある*4。そして、基本的な施策については、定義規定で書くのではなく、条例の実質的な規定として(条例案によれば第5条の前辺り)に定めるべきだろう。

3 その他

 (1) 第4条第1項

 第4条第1項の規定は、県民、来訪者及び観光関連事業者等の責務をまとめて規定しているが、立場がそれぞれ違うのであるから、まとめて規定することには無理があると思う。

 (2) 第6条

 条例案の題名及び第1条からすると、この条例は観光産業を対象として考えているので、第6条の規定は、不適当ということになる。

 

 以上であるが、この条例案は、結局のところ「再興」と言いながら、今以上にコロナ対策をやっていきましょうという内容に過ぎないように思われる。そうすると、題名と内容が一致していない条例案になってしまったということになる。

*1:デジタル大辞泉

*2:地域再生法第3条、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」第4条など

*3:地域再生法第3条は、「国は、前条に規定する基本理念にのっとり、地方公共団体の自主性及び自立性を尊重しつつ、地域再生に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。」と規定している。

*4:地域再生法は、政府に基本方針の策定義務を課している(第4条)。また、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」は、法律で基本方針を定め(第11条)、政府に基本計画の策定義務を課している(第12条)。ただし、第3条第1項の規定には「計画的」という文言がないので、必須となるものではない。

観光再興条例(上)

「観光再興条例」めぐり県議会審議進む

新型コロナの影響を受けている観光産業への支援について、県の責務を明記する新たな条例案が県議会で審議されています。

条例案は、新型コロナの影響を受けている観光関連事業者に対し、沖縄県が支援する責務を負うと明記するもので、自民、公明の2つの会派の21人が提出しました。

提出した議員らは、条例は支援に必要な予算を国から獲得する際に後ろ盾となるものとして早期の施行を求めています。

ただ、条例案は、業種を具体的に規定しない「理念条例」となっていて、県の執行部は対応に苦慮しています。

「宿泊業に納入している生産者、例えばそれが農業者という場合に、そこを観光関連産業と捉えるかは、個々に判断することになると思います」(宮城嗣吉部長)

県の執行部は、観光関連産業は裾野が広く、支援する事業者を線引きするのは複雑になるとして、与野党での慎重な審議を要望しました。

 一方で、観光業の支援に国の予算が確保できれば、既存の臨時交付金を医療人材の確保などに回すことができると期待する意見も出ていて、委員会では26日に採決が行われる見通しです。

琉球放送ホームページ2021年8月25日掲載

 上記の条例案は、次の「新型コロナウイルス感染症の影響を受けている観光産業の再興に関する条例案」であると思われる*1

   新型コロナウイルス感染症の影響を受けている観光産業の再興に関する条例

 (目的)

第1条 この条例は、新型コロナウイルス感染症が、特に、本県の基幹産業として極めて重要な地位を占め、県民生活の向上と県民経済の発展に大きく貢献している観光産業に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、新型インフルエンザ等対策特別措置法平成24年法律第31号。以下「法」という。)及び沖縄県新型コロナウイルス感染症等対策に関する条例(令和2年沖縄県条例第41号。以下「対策条例」という。)と相まって、新型コロナウイルス感染症に対する対策としての観光産業の再興に関する措置の強化を図ることにより、新型コロナウイルス感染症から県民の生命及び健康を保護し、並びに新型コロナウイルス感染症が観光産業に及ぼす影響、ひいては県民生活及び県民経済に及ぼす影響が最小となるようにし、もって観光産業の再興と安全安心の島沖縄(県民が安全に安心して生活し、及び経済活動を行うことができる社会をいう。)を実現することを目的とする。

 (定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

⑴  (略)

⑵ 観光関連事業者 観光に関する事業及び観光と密接に関連する事業を営む者をいう。

⑶ 旅客施設設置者等 旅客施設(公共交通機関を利用する旅客の乗降、待合いその他の用に供する施設をいう。以下同じ。)を設置し、又は管理する者をいう。

⑷ 観光関連事業者等支援施策 県民の生命及び健康を保護し、並びに新型コロナウイルス感染症が観光産業に及ぼす影響、ひいては県民生活及び県民経済に及ぼす影響が最小となるようにするため、新型コロナウイルス感染症が観光産業に及ぼす影響等に関する実態の把握、観光関連事業者及び旅客施設設置者等が実施する新型コロナウイルス感染症に対する対策に必要な支援その他の観光産業の再興に関し、県が実施する施策をいう。

 (県の責務)

第3条 県は、観光関連事業者等支援施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。

2 県は、観光関連事業者等支援施策を総合的に策定するに当たっては、法の規定により作成された沖縄県行動計画及び対策条例の規定により作成された対処方針並びにこれらに基づく新型コロナウイルス感染症に対する対策との整合性の確保その他の必要な措置を講ずるものとする。

3 県は、観光関連事業者等支援施策を実施するに当たっては、情報通信技術の活用等を通じて、その的確かつ迅速な実施が図られるように配慮しなければならない。

4 県は、観光関連事業者等支援施策を実施するに当たっては、国、他の都道府県、市町村、大学等( 大学若しくは高等専門学校又はこれらに附属する研究機関等をいう。)、観光関連事業者及び旅客施設設置者等と連携協力し、その的確かつ迅速な実施に万全を期さなければならない。

 (県民、来訪者及び観光関連事業者等の責務)

第4条 県民、来訪者、観光関連事業者及び旅客施設設置者等は、新型コロナウイルス感染症の予防に努めるとともに、法及び対策条例に基づく新型コロナウイルス感染症に対する対策及び観光関連事業者等支援施策の実施に協力するよう努めなければならない。

2 観光関連事業者は、新型コロナウイルス感染症のまん延により生ずる影響を考慮し、その事業の実施に関し、適切な措置を講ずるよう努めなければならない。

3 旅客施設設置者等は、新型コロナウイルス感染症のまん延により生ずる影響を考慮し、その設置し、又は管理する旅客施設に関し、適切な措置を講ずるよう努めなければならない。

 (財政上の措置)

第5条 県は、観光関連事業者等支援施策を積極的に推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

 (その他の産業のための支援)

第6条 県は、この条例に定めるもののほか、県民の生命及び健康を保護し、並びに新型コロナウイルス感染症が県民生活及び県民経済に及ぼす影響が最小となるようにするため、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている本県の産業に対する支援の強化その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

 この条例案が目的としていることは、新型コロナウイルス感染症により影響を被っている観光産業に関し、「観光関連事業者等支援施策」(第2条第4号参照)を積極的に実施することにより、観光の再興を図るということではないかと思うが、コロナ対策に引っ張られていろいろ書いていくうちに、何を言いたいのかよく分からない条例になってしまっていると思う。

 この条例案の問題点と思われる事項について、次回に触れることにする。

*1:この条例案は、一部修正の上、8月31日に可決されている。