自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

条例の立案

人権尊重のまちづくり条例案(下)

4 おわりに 世間の風潮として、新しいこと、変わったことをするとそれだけで賞賛するようなところがある。例えば、「津久井やまゆり園事件」をヘイトクライムと明記しなかったことについては、そのように書こうが書くまいが条例でやろうとすることに何ら変…

人権尊重のまちづくり条例案(中)

3 「人権委員会」の権限等を後退させたことについて 答申では、附属機関として人権委員会を設置することとしているが、条例案骨子では、その権限等を後退させていると批判されている(弁護士ドットコムニュース2023年12月22日配信記事「津久井やまゆり園事…

人権尊重のまちづくり条例案(上)

相模原市において制定が検討されている「人権尊重のまちづくり条例案」(以下このシリーズで「条例案」又は「条例」という。)について、その骨子が、市人権施策審議会の答申から大きく後退したとして批判されている。その主な内容は報道等によると、①「津久…

施策推進条例における「総合的」の意義

基本条例に代表される施策推進条例においては、目的規定において、対象とする施策を総合的・計画的に進めることとし、責務規定において、その施策を行う主体に、当該施策を総合的に推進する義務を課すこととすることが多い*1。 施策を計画的に進めるのであれ…

許可制が許容される基準

今頃何を言っているのだという感じがするだろうが、職業について許可制を用いることが許容される基準として、薬事法距離制限違憲判決(最高裁判所昭和50年4月30日大法廷判決)*1が次のように判断している。 職業の許可制は、法定の条件をみたし、許可を与え…

許可と登録(6)

3 まとめ これまで見てきた許可と登録の規定の違い等について若干のまとめを行い、このシリーズを終了することとしたい。 登録については、許可と比べて行政機関の裁量の余地がないものとされている*1。 許可と登録で一番違いが表れるのは、それを拒否する…

許可と登録(5)

(「(2) 『フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律』の例」の続き) 「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」においても、許可又は登録の基準の一部を省令に委任している(第51条第1号、第29条第1項)。当該委任を受けた省令…

許可と登録(4)

(2) 「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律」の例 次に「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(平成13年法律第64号)」を見ることにする。 許可又は登録に関し法律で定める拒否事由についての違いはあるのだろうか。それを…

許可と登録(3)

(「(1) 『使用済自動車の再資源化等に関する法律』の例」の続き) 「使用済自動車の再資源化等に関する法律」は、許可又は登録の基準の一部を省令に委任している(第62条第1項第1号、第45条第1項)。当該委任を受けた省令の規定は、次の「使用済自動車の…

許可と登録(2)

2 許可又は登録を拒否する場合 一般的に許可の場合は、行政庁の裁量が広く、登録の場合は、それが狭いとされているが、具体的にはどのようになっているのだろうか、法令の規定を見ていくことにする。 (1) 「使用済自動車の再資源化等に関する法律」の例 「…

許可と登録(1)

法令による規制手法の代表例としては、許可を挙げることができる。許可とは、「法令による特定の行為の一般的禁止を公の機関が特定の場合に解除し、適法にこれをすることができるようにする行為をいう」*1。 その他よく用いられる規制手法に登録がある。登録…

武蔵野市住民投票条例案(下)

2 住民投票の対象事項について 住民投票の対象とする事項は、条例案の第4条に規定されているが、この規定は、武蔵野市自治基本条例(以下「自治基本条例」という。)第19条を受けた規定である。そこでまず、これらの規定を次に掲げておく。 武蔵野市自治基…

武蔵野市住民投票条例案(上)

武蔵野市住民投票条例案(以下「武蔵野市の条例案」又は単に「条例案」という。)が外国人に投票権を認めることとしていることが大きな話題になっている。一部の国会議員から、外国人に投票権を認めると外国人による意思決定がなされる危険があるという意見…

観光再興条例(下)

「新型コロナウイルス感染症の影響を受けている観光産業の再興に関する条例案」の問題点と思われる事項は、以下のとおりである。 1 条例の題名と条例の目的の不一致 この条例案の題名は、「……観光産業の再興に関する条例」である。したがって、題名から想像…

観光再興条例(上)

「観光再興条例」めぐり県議会審議進む 新型コロナの影響を受けている観光産業への支援について、県の責務を明記する新たな条例案が県議会で審議されています。 条例案は、新型コロナの影響を受けている観光関連事業者に対し、沖縄県が支援する責務を負うと…

規制手法~免許制

規制手法の代表的なものは、許可制である。「許可」とは、法令による特定の行為の一般的禁止を公の機関が特定の場合に解除し、適法にこれをすることができるようにする行為をいう(吉国一郎ほか『法令用語辞典(第9次改訂版)』 (P167))。 これと同様の意…

条例に規定すべき事項

自治体が条例を制定しなければいけない事項は、住民等に義務を課し、又は権利を制限することである(地方自治法第14条第2項)。したがって、条例にはそれ以外の事項を定める必要はないのであるが、義務賦課・権利制限事項しか定めていない条例はほとんど存…

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(6)

(2) 都道府県の条例に市町村について責務規定を置く問題の改善策 都道府県の条例に市町村について責務規定を置く目的は、市町村に対して協力を呼びかけることにあるとする見解がある*1。それは、市町村に一定の役割を果たして欲しいという意図とも同じであろ…

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(5)

3 都道府県の事務と市町村の事務 (1) 都道府県の条例に市町村について責務規定を置くことについて 自治体の条例制定は、当該自治体の事務が対象となるのであるから(地方自治法第14条第1項、第2条第2項)、都道府県は市町村の事務について、市町村は都道…

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(4)

(イ) 賃貸住宅紛争防止条例 東京都には「東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例」*1という条例がある。例えば、ネットにおける「2020.12.19「幻冬舎GOLD ONLINE」記事「東京ルール」に泣かされる…賃貸部屋の劣化、誰が支払う?」を一見する…

附則に規定すべき事項……その他諸々

〇〇町の再生エネ条例に不備 一部の事業者に指導や勧告できず 〇〇町の再生エネルギー促進条例が2018年12月の改正時から、一部の発電事業者に対して処分を伴う指導や勧告ができない状態になっていたことが25日、分かった。新たな規定を加えた際に、付則の修…

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(3)

イ 具体例 (ア) 消費者保護条例 具体的な例として、まず消費者保護条例を取り上げる。 消費者保護条例に規定する内容については、猪野積『条例と規則(2)』(P91)において、次のように類型化されている。 ① 事業者規制 ・ 危害発生の防止(欠陥商品、不安商…

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(2)

(2) 「私法秩序の形成等に関する事項」と条例制定権 ア 概説 前回取り上げた条例制定権が及ばないとされた成田教授の類型化のうち、「①国全体にわたって画一的な制度によることが好ましいと思われるもの」と「④その他、対象たる事項が一地方の利害にとどまら…

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(1)

<「自治体法制執務雑感」関連記事> 2008年2月29日付け記事「都道府県条例に市町村の責務を規定することについて」 2014年10月25日付け記事「続・都道府県条例に市町村の責務を規定することについて」 1 概説 自治体の条例制定に関する基本的な事項として…

規制手法~届出制(下)

2 当該行為自体が住民の生命、財産等に影響を及ぼすかどうか分からない場合 当該行為自体が住民の生命、財産等に影響を及ぼすかどうか分からない場合に、その安全性を確認するために届出制を設けることがある。 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法…

規制手法~届出制(上)

条例で規制手法を定める場合には、その性質から許可制よりも届出制を規定する場合が多いと思われる。そこで、旧ブログの記事で記載した届出制に関する記事のうち、どのような場合に届出制を用いるべきかという点に絞って、現時点での考えをまとめておくこと…

条例立案時における憲法適合性及び法律適合性への配慮(4)

4 まとめ 今回、条例の憲法適合性及び法律適合性について風営法に関する判例を題材にして取り上げてみた。 同一の法律に基づく複数の判例を取り上げたのは、判例によって異なった判断がなされているかどうかを確認するのが主眼であった。 この点、条例の憲…

条例立案時における憲法適合性及び法律適合性への配慮(3)

(2) パチンコ店の規制 パチンコ店を規制する条例については、判例①は違法、判例②は適法と結論を異にしているが、判決が述べている内容は、次のとおりである。 区分 条例と風営法の目的 風営法が条例による独自の規制を許容しているか 条例の規制方法等 判例①…

条例立案時における憲法適合性及び法律適合性への配慮(2)

3 法律適合性について (1) ラブホテルの規制 今回取り上げる判例は、風営法との関係が問題となることで共通している。条例及び風営法の規制対象と規制内容、そして判例の結論がどのようになっているかは、次のとおりである。 区分 規制対象 風営法の規制内…

条例立案時における憲法適合性及び法律適合性への配慮(1)

1 はじめに 政策法務関係の文献を見ると、条例の憲法適合性及び法律適合性について記載されていることが多い。しかし、それらの記載が条例立案時にどの程度役立つのかは疑問を感じることがある。 そこで、風営法との関係が問題となる次の3つの判例を取り上…