3 賃金条項の適法性
公契約条例の賃金条項について、最低賃金法における地域別最低賃金額を上回る最低賃金額を定めることに関する質問主意書が提出されている*1。これに対し政府は、「当該条例において、地方公共団体の契約の相手方たる企業等の使用者は、最低賃金法(昭和34年法律第137号)第9条第1項に規定する地域別最低賃金において定める最低賃金額……を上回る賃金を労働者に支払わなくてはならないこととすることは、同法上、問題となるものではない」と答弁している*2。*3
これは、いわば自治体とその相手方との契約条件の問題にすぎないので、当然と言えば当然のことであろう。
4 公契約条例に罰則規定を設けることの適否
奈良県公契約条例は、受注者が知事に条例の規定に基づく報告をせず、または虚偽の報告をした場合等に5万円以下の過料を科すこととしているが(第16条)。公契約条例において罰則規定を置く唯一の条例となっている(一般財団法人地方自治研究機構HP参照)。
前記質問主意書において、公契約条例において罰則を課すことが可能かといった質問がなされており、それに対し、「具体的にどのような行為に対して罰則を課すこととなるのか必ずしも明らかでないが、一般に、地方公共団体は、地方自治法(昭和22年法律第67号)第14条の規定に基づき、条例を制定し、当該条例中に罰則を設けることができる」との答弁がなされてはいる。
しかし、公契約といっても、自治体が私人と対等の立場で締結する私法上の契約であることには変わりがない*4。そうすると、この条例案は、契約違反という私法上の行為に対し過料という罰則を科すことになる。
もちろん、私法上の行為に対し罰則を科すことができないというものではないのだが、公契約条例に罰則を設けるということは、契約の当事者である自治体が、その契約の枠内での措置にとどまらず、罰則まで科そうというものであり、行き過ぎた措置ではないかと感じる。
5 指定管理者との協定等を公契約条例の対象とすることについて
公契約条例の中には、その対象となる公契約に、公の施設の管理を指定管理者に行わせる場合に指定管理者と締結する協定を含めているものがある。
指定管理者制度は官製ワーキングプアを生んでいるという批判があるところであり、公契約条例を制定しようとするときには、指定管理を対象とするかどうかについては、当然検討される事項であろう。しかし、指定管理を公契約条例の対象とするのであれば、契約とは性格が違うため、その書きぶりは工夫する必要がある。
自治体が指定管理者に公の施設を管理させようとする場合の手続は、まずその候補者を選定し、議会の議決を経て指定管理者の指定をした後、協定を締結するという流れになる*5。つまり、指定管理者を誰にするかを決めるのは、あくまでもその指定である。したがって、例えば指定管理者の雇用者の最低賃金の額を定めたいのであれば、それは指定管理者の指定要件とすべきということになり、その指定後に締結すべき協定の内容とするのは筋が違うように思う。
指定管理の場合に協定を対象としているのは、契約との性質の類似性に着目したことによるのではないかと思うが、少なくともその協定を対象とするのは適切ではないのではないだろうか。
*1:最低賃金法と公契約条例の関係に関する質問主意書(平成21年2月24日付け質問第64号、参議院議長あて尾立源幸)
*2:参議院議員尾立源幸君提出最低賃金法と公契約条例の関係に関する質問に対する答弁書(平成21年3月6日付け内閣参質171第64号)
*3:なお、この答弁書では、地域別最低賃金額を上回る独自の最低賃金額を規定した条例を制定することは可能かという質問に対し、「最低賃金法上の地域別最低賃金は、労働者の労働条件の改善を図るとともに、事業の公正な競争の確保に資すること等を目的として、地域の経済状況等を踏まえつつ、一方で全国的に整合性のある額を設定するものであり、御指摘のような条例は、このような地域別最低賃金の趣旨に反するものであることから、これを制定することは、地方自治法第14条第1項の規定に違反するものであると考える」と答弁している。これは、当該事項が地域における事務に当たらないということを理由にしているのだと思われるが、当該事項は私法秩序に関わる事項であり、条例で私法秩序に関わる事項を定めることができないと考えるのであれば当然であろう。