自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(4)

   (イ) 賃貸住宅紛争防止条例

 東京都には「東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例」*1という条例がある。例えば、ネットにおける「2020.12.19「幻冬舎GOLD ONLINE」記事「東京ルール」に泣かされる…賃貸部屋の劣化、誰が支払う?」を一見すると住宅の賃貸借において独自ルールを定めているように見えるが、条例上は、次のとおり宅地建物取引業者に説明義務を課しているだけである。   

   東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例

 (宅地建物取引業者の説明等の義務)

第2条 宅地建物取引業者は、住宅の賃貸借の代理又は媒介をする場合は、当該住宅を借りようとする者に対して法第35条第1項(同条第6項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定により行う同項各号に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の説明に併せて、次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明しなければならない。ただし、当該住宅を借りようとする者が宅地建物取引業者である場合は、当該書面についての説明を要しないものとする。

 (1) 退去時における住宅の損耗等の復旧並びに住宅の使用及び収益に必要な修繕に関し東京都規則(以下「規則」という。)で定める事項

 (2) 前号に掲げるもののほか、住宅の賃貸借に係る紛争の防止を図るため、あらかじめ明らかにすべきこととして規則で定める事項

 

   東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例施行規則

 (宅地建物取引業者の説明事項等)

第2条 条例第2条第1号の規則で定める事項は、次に掲げる事項とする。

 (1) 退去時における住宅の損耗等の復旧については、当事者間の特約がある場合又は賃借人の責めに帰すべき事由により復旧の必要が生じた場合を除き、賃貸人が行うとされていること。

 (2) 住宅の使用及び収益に必要な修繕については、当事者間の特約がある場合又は賃借人の責めに帰すべき事由により修繕の必要が生じた場合を除き、賃貸人が行うとされていること。

 (3) 当該住宅の賃貸借契約において賃借人の負担となる事項

2 条例第2条第2号の規則で定める事項は、賃借人の入居期間中の設備等の修繕及び維持管理等に関する連絡先となる者の氏名(法人にあっては、その商号又は名称)及び住所(法人にあっては、その主たる事務所の所在地)とする。

3 (略)

  ウ まとめ

 以上のとおり、私法上の取引関係に問題があり、条例で何らかの規制を行おうとするのであれば、条例ではその効力を否定するという内容は規定できないので、当事者の一方、すなわち不適正な行為を行う者を規制する内容を規定することになる。

*1:一般的には「賃貸住宅紛争防止条例」と言われているようである。