自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(1)

<「自治体法制執務雑感」関連記事>

  • 2008年2月29日付け記事「都道府県条例に市町村の責務を規定することについて」
  • 2014年10月25日付け記事「続・都道府県条例に市町村の責務を規定することについて」

 1 概説

 自治体の条例制定に関する基本的な事項として、地方自治法第14条第1項は、「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる」と規定している。同法第2条第2項は、自治体の事務の範囲を定めた規定であるため、同法第14条第1項は、自治体の条例は、①自治体の事務に関して定めることができること、②法令に違反してはならないこと、を定めていることになる。

 条例は自治体のそれである以上、当該自治体の事務に関してのみ制定することができ、国や他の自治体の事務に関して定めることができないことは当たり前ではあるのだが、実際には判断に悩むところがある。

2 国の事務

 (1) 地方分権前の地方自治法の規定等について

 第1次地方分権前の旧地方自治法第2条第10項は、「普通地方公共団体は、次に掲げるような国の事務を処理することができない」として、次の事務を列挙していた。

  1. 司法に関する事務
  2. 刑罰及び国の懲戒に関する事務
  3. 国の運輸、通信に関する事務
  4. 郵便に関する事務
  5. 国立の教育及び研究施設に関する事務
  6. 国立の病院及び療養施設に関する事務
  7. 国の航行、気象及び水路施設に関する事務
  8. 国立の博物館及び図書館に関する事務

 上記の事務は、旧地方自治法第2条第10項が「……次に掲げるような……」としているようにあくまでも例示ということになるのであるが、条例を制定できない国の事務については、成田頼明教授による次の類型化が引用されることが多い。

  1. 国全体にわたって画一的な制度によることが好ましいと思われるもの
  2. 私法秩序の形成等に関する事項
  3. 刑事犯の創設等に関する事項
  4. その他、対象たる事項が一地方の利害にとどまらず全国民の利害に関係のあるもの又は規制の影響の及ぶ範囲が一地方を超えて全国にわたるもの

 しかし、現行の地方自治法第1条の2第2項の規定は国の役割について規定するが、同項の規定はあくまでも国が重点的に担う事項を定めたものであり*1、実際には国との間で重畳的に行っている事務もある。

 そうすると、自治体の事務は広く考えることができ*2、例え対象たる事項が全国民の利害に関係のあるもの であっても、その地域における住民の利害に関係があれば条例事項となり得ると考えてよいだろう*3

 つまり、上記の成田教授の類型化した事項は、法律事項となっていることが多い事項であることが多いと考えればよく*4、条例制定に当たって国の事務かどうかの判断は、法令に違反するかどうかの判断とほぼ同様と考えればいいことになる。

*1:地方自治法第1条の2第2項は「国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。」という規定である。

*2:永邦男ほか『自治立法』(P64)は「現に地方公共団体でそれを処理しなければならない必要性がある事務であれば、それが憲法や法令の規定に違反しない限り、広く「地域における事務」であると推定されると考えることとなるのではないかと思われる」としている。

*3:例えば青少年保護に関する事項や暴力団対策に関する事項は、全国民の利害に関係のあるものであるが、実際には都道府県の条例で規制されている部分がある。

*4:門山泰明『条例と規則』(P42)は「国の法令が規制することが多い、あるいは、国の法令で規制するのが通例である事項を類型化したものと捉えれば、参考になるであろう」とする。