自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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人権尊重のまちづくり条例案(中)

3 「人権委員会」の権限等を後退させたことについて

 答申では、附属機関として人権委員会を設置することとしているが、条例案骨子では、その権限等を後退させていると批判されている(弁護士ドットコムニュース2023年12月22日配信記事「津久井やまゆり園事件が起きた相模原市、骨抜き「人権条例案」に批判の声」参照)。

 

 (1) 人権委員会の権限について

 答申では、人権委員会の職務*1を次のようなものとしている。

① 不当な差別的取扱いを受けている人の申出等(第三者による申出及び職権を含む。)を契機として、救済を行うこと。

② 不当な差別的取扱い及び不当な差別的言動の解消のため、必要な調査及び審議等を行うこと。

③ 不当な差別のない人権尊重のまちづくりの推進に関する重要事項について、市長の諮問に応じて調査審議し、その結果を答申すること。

 このうち、附属機関であることから問題となる可能性のある職務は①になるだろう。これについて人権委員会がどのような役割を果たすのかについて、答申では次のように記載している*2

① 救済

 不当な差別的取扱いを受けている人の申出等(第三者による申出及び職権を含む。)を契機として、関係者等への調査や調整、加害者への説示等を行うこと。

② 声明

 ア 市民からの情報提供に対して遅滞なく市長に通知すること。

 イ 深刻で不当な差別事案について市長が声明を発出する際、市長の諮問に応じて調査審議し、その結果を答申すること。

 ウ 市長に声明を発出するよう意見を建議すること。

 エ 必要に応じて、情報提供者が意見を述べる機会を設けること。

③ 公の施設の利用制限

 ア 市民からの情報提供に対して遅滞なく市長に通知すること。

 イ 不当な差別的言動が行われることが見込まれる場合に市長が公の施設の利用制限を行う際、市長の諮問に応じて調査審議し、その結果を答申すること。

 ウ 必要に応じて、情報提供者が意見を述べる機会を設けること。

④ 拡散防止措置

 ア 市民からの情報提供に対して遅滞なく市長に通知すること。

 イ 不当な差別的言動に関する表現活動について、市長が必要な拡散防止措置を講ずる際、市長の諮問に応じて調査審議し、その結果を答申すること。

 ウ 必要に応じて、その不当な差別的言動に関する表現活動を行った者及び情報提供者が意見を述べる機会を設けること。

⑤ 不当な差別的言動の禁止

 ア 市民からの情報提供に対して遅滞なく市長に通知すること。

 イ 市長が、不当な差別的言動を禁止することについての勧告、命令、公表及び罰則を適用する際には、市長の諮問に応じて各々の手続において調査審議し、その結果を答申すること。

 ウ 必要に応じて、その不当な差別的言動に関する表現活動を行った者及び情報提供者が意見を述べる機会を設けること。

 これを見ると、諮問機関として行うこととする職務がほとんどであり、それらの職務を附属機関が行うこととしても問題が生じないことは明らかである。

 少し気になるのは、①の加害者へ説示を行うこととしていることである。附属機関は、自ら自治体の意思を決定・表示することはできないと考えるのであれば、説示は行うことはできないことになる。しかし、必ずしもそうした附属機関を設置することを否定しないのであれば、附属機関は、あくまでも「調停、審査、諮問又は調査のための機関」であることから(地方自治法第138条の4第3項)、「説示」を「調停」ということができれば、その権限とすることは一応は可能と考えてよいことになる*3

 

 (2) 人権委員会に事務局を置くことについて

 答申では、人権委員会に独自の事務局を置くこととしている。

 しかし、地方自治法第202条の3第3項*4の規定からすると、事務局を置くことは不適切ということになる。

*1:答申では「権能」としている。

*2:答申では「人権委員会がとる手続」として記載している。

*3:自ら自治体の意思を決定・表示する附属機関の設置の可否については、拙著『基礎から分かる!自治体の例規審査』P121~参照

*4:地方自治法第202条の3第3項は、「附属機関の庶務は、法律又はこれに基く政令に特別の定があるものを除く外、その属する執行機関において掌るものとする。」という規定である。