自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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目的規定(8)

3 目的規定と趣旨規定

 (1) 概要

 条例には、目的規定か趣旨規定のどちらかを置くことが通例であるが、どのような場合に目的規定を置き、どのような場合に趣旨規定を置くかという基準は明確ではない。

 むしろ、林修三『法令作成の常識』(P146~)に次のように記載されていることからすると、単に目的規定か趣旨規定を置けばいいのだという考えがあるのかもしれない。

 この目的規定と趣旨規定の2種類の規定については、目的規定を置くのが原則であるが、法律の性質や内容によっては、目的規定がうまく書けない場合があり、また、そういうものを置くことが必ずしも適当でない場合もあるので、そういう場合には趣旨規定を置くことになっている。

 それは、田島信威・高久泰文『市町村条例クリニック』(P76~)において、罰則付きの規制条例である「○○町白百合保護条例」について、「この条例は、白百合の保護(盗難の防止)と増殖を図ることを目的とする。」という目的規定を「この条例は、白百合の保護及び増殖について必要な事項を定めるものとする。」という趣旨規定とすることの方が適当であるといった記載があることからも窺える。もちろん、これは、原案の目的規定自体がいかがかという面があり、この程度の目的規定を置くくらいなら趣旨規定でも足りるという趣旨かもしれない。しかし、条例で規制を行う場合には、なぜこのような規制を行うのか明記するため、目的規定を置くことが原則だと考えるべきではないだろうか。

 また、法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務 第2版』(P81)には、「内容の極めて簡単な法律……を除いては、第1条に目的規定を設けるのが通例である」と記載されている。

 しかし、どのような場合に目的規定を置き、どのような場合に趣旨規定を置くべきかの基準については、次のように考えたらどうかと思う。

1 住民の権利・義務に直接関係のある事項を定める場合

 (1) 法律等の委任がない場合……目的規定

  (2) 法律等の委任がある場合……趣旨規定(内容が簡単な場合(条数が少ない場合)は、不要)

2 住民の権利・義務に直接関係のある事項以外の事項を定める場合……趣旨規定(内容が簡単な場合(条数が少ない場合)は、不要)

 住民の権利・義務に直接関係のある事項を定める場合は、なぜそのような事項を定めるのかという目的を明記する必要があるが、その場合であっても、石毛正純『法制執務詳解(新版Ⅱ)』(P70)で次のように記載されているように、法律等の委任に基づく場合には目的規定を置く必要はないであろう。

 法律の委任に基づく条例や、法律又は条例の施行のための規則は、既に一定の立法目的を持った法律や条例の補充的細目的なものであるから、目的規定を置く必要はなく、趣旨規定を置けば足りる。

 なお、この場合であっても、内容が簡単で条数が少ない場合には、趣旨規定を置かなくてもどのような事項を定めているかは明らかであるから(実質的な規定において委任している法令等の規定を引用するであろうから)、趣旨規定すら置く必要はないであろう。

 住民の権利・義務に直接関係のある事項以外の事項を定める場合としては、例えば組織に関する事項を定める場合等が考えられる。この事項については、自治体の場合、通常は法令の委任に基づく場合がほとんどであると思うが、目的規定をあえて置く必要がある場合はあまり考えられない。しかし、このような事項を定める条例等であっても、条数が多くなるものについては、どのような事項を定めているのか明示するという観点から、原則として趣旨規定を置くものと考えておくべきではないだろうか。