3 都道府県の事務と市町村の事務
(1) 都道府県の条例に市町村について責務規定を置くことについて
自治体の条例制定は、当該自治体の事務が対象となるのであるから(地方自治法第14条第1項、第2条第2項)、都道府県は市町村の事務について、市町村は都道府県の事務について条例を制定することができないのは当たり前である。
そして、地方自治法上は、第1次地方分権改革により都道府県の事務と市町村の事務が棲み分けられた結果(同法第2条第2項~第6項)、都道府県の事務と市町村の事務との間で条例制定権の範囲の問題が生じることはないことになるが、実際には重畳的に行われる事務があることも事実である。このことに関連して都道府県の条例に市町村について責務規定を置くという問題がある。
このことについて、海老名富夫「公害防止条例に見る都道府県と市町村の関係について」人見剛ほか『公害防止条例の研究』(P270)は、当時、自治省地方分権推進室課長補佐の古田孝夫氏が雑誌「地方自治」に次のような見解を述べていたとしている。
具体的な事務の義務付けではないにせよ、市町村に対して何らかの義務付けをする点ではやはり同じ問題があり、このような規定を都道府県条例に置くことはできず、仮に置いても市町村を拘束することはできないのではないかと思われる。
こうした旧自治省筋における解釈が示されていたにもかかわらず、都道府県の条例において改正がなされたかったことについて、同論文(P271)では、次のように記載されている。
……地方分権改革における条例改正作業が……国と地方公共団体の間の問題、すなわち法律改正に伴うものを中心に進められていた結果、条例改正の検討から見落とされたか、一般的な努力義務規定は違法とまで言えず許容されると判断したか、または、都道府県と市町村の新しい関係を理解しながらも、現実的には必要との認識から具体的な義務付け等市町村に対する規定をあえて残したのか、さまざまなケースがあると思われる。
私は、当時の条例改正の作業の状況を聞く限りでは、そこまで手が回らなかったというのが正直なところではないかという感じがしているが、いずれにしろ、法制度的にはそうした規定は置くべきではないということは間違いないのだろう。それでもそうした規定が置かれるのは、第1次地方分権改革時に規定の整理を行わなかった都道府県においては、市町村についての責務規定が条例に残ってしまった結果、そうした規定を置くことに問題ないという意識が変わらなかったということだろう*1。