自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

都道府県条例に市町村の責務を規定することについて(下)

 都道府県条例に市町村の責務を規定することについて、少なくとも私の周囲では、それが適当でないという意見を言う人は少なく、むしろ規定すべきだと言う人が多い。市町村の職員からも、「都道府県の条例で規定してもらったほうが、事務をやりやすい」という意見を聞くことがある。

 これは、地方自治法上は、都道府県の事務と市町村の事務は棲み分けがなされることが前提となっているのにかかわらず(同法第2条第2項から第6項)、実際には重畳的に事務が行われることが多いので、その事務の一環をなす市町村についての責務規定を置くべきという発想になるのも当然という面もあるのだろう。

 そこで、あえて市町村の責務的な規定を置く方法を考えてみることにする。

 泉本和秀「自治体での立法の実際と工夫」松尾浩也ほか『立法の平易化』(P97)*1は、次のとおり東京都の環境基本条例において市町村の責務規定を置いた経過を説明している。

 最終的には、市町村の責務を「市町村は、環境の保全を図るため、その区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」と規定することとした。しかし、その内容は、実は既に環境基本法地方公共団体の責務として定められているものの引写しであり、都の条例で特に新たな責務を定めたものではないのである。単に法律による責務を確認したにすぎない規定とすることによって、環境問題としての「わかりやすさ」だけを確保してみたのである。

 上記の表現は「責務を有する」となっているが、「~責務を有するものとする」とすれば、市町村が果たす役割としてある程度一般的な考え方があり、それを確認的に書いたということがより明確になるだろう。

 また、「責務」とせずに「役割」とする例もある。例えば、「福井県地産地消の推進に関する条例」第5条は、市町の役割として次の規定を置いている。

 (市町の役割)

第5条 市町は、県、生産者、事業者および住民と協力しながら、地域の実情に応じた地産地消の推進に積極的に取り組むよう努めるものとする。

 見出しを「責務」とせずに「役割」としているのは、市町村に対する義務付けの規定が適当ではないという判断なのかもしれないが、規定振りを見ると「努める」としているとはいえ、通常の責務規定と同じような形になっているため、結果としてあまり適当とは言えないのではないかと思う*2

 むしろ、上記条例は第4条に県の責務として「県は、前条に定める基本理念にのっとり、市町、生産者、事業者および県民と連携し、地産地消の推進に関する施策を総合的かつ計画的に実施するものとする」という規定を置いているが、「市町、生産者、事業者および県民と連携し」という部分は、第2項として次のように規定すれば、言外に市町村も一定の役割を果たしてもらうという意味を持たせることができるのではないかと思う。

2 県は、前項の施策に当たっては、市町、生産者、事業者および県民と連携するものとする。*3

 

*1:この論文は、分権前に書かれたものであるが、その当時でも、地方自治法上、県の条例で市町村の事務について定めることができると規定されているのは、市町村の行政事務についての統制条例のみであり、他の場合は市町村の事務処理について規制することは適当でないという考え方に基づいている。

*2:ちなみに、法律では、見出しを「役割」とする場合には、住民等の責務的なものを書くときに用いられることが多いようであり、書き振りも「~役割を果たすものとする」としている例が多い(例えば、食品安全基本法第9条は、「消費者は、食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるとともに、食品の安全性の確保に関する施策について意見を表明するように努めることによって、食品の安全性の確保に積極的な役割を果たすものとする」としている。

*3:最近は、よく「協働」という言葉が使われるので、「連携」に代えてそのような言葉を使うことも考えられる。