自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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観光再興条例(下)

 「新型コロナウイルス感染症の影響を受けている観光産業の再興に関する条例案」の問題点と思われる事項は、以下のとおりである。

1 条例の題名と条例の目的の不一致

 この条例案の題名は、「……観光産業の再興に関する条例」である。したがって、題名から想像すると、目的規定は「この条例は、……観光産業の再興を図ることを目的とする」あるいは、「この条例は、……観光産業の再興を図り、もって……することを目的とする」といったようなものになるのではないかと考えるのであるが、そのようになっていない。

 この目的規定は、「沖縄県新型コロナウイルス感染症等対策に関する条例」の目的規定を過剰に参照しているように思われる。当該条例の目的規定は、次のとおりである。

 この条例は、県外から容易に医療等の支援を受けることができない島しょで構成される本県においては新型コロナウイルス感染症等の急速なまん延を防ぐことが重要であることに鑑み、県内において新型コロナウイルス感染症等の急速なまん延のおそれがある場合の措置を定め、県、県民及び事業者の責務を明らかにすることにより、新型コロナウイルス感染症等から県民の生命及び健康を保護し、並びに新型コロナウイルス感染症等が県民生活及び県民経済に及ぼす影響が最小となるようにし、もって安全安心の島沖縄(県民が安全に安心して生活し、及び経済活動を行うことができる社会をいう。)を実現することを目的とする。

 「再興」の意味は、「いったん衰えたものが、勢いを盛り返すこと。また、もう一度盛んにすること。」である*1。「再興」と言うのであれば、当然アフターコロナも見据えた話になると思うが、これでは単なるコロナ対策の強化である。

 前回、この条例案が目的としていることは、新型コロナウイルス感染症により影響を被っている観光産業に関し、「観光関連事業者等支援施策」を積極的に実施することにより、観光の再興を図るということではないかと記載したが、その認識は間違いなのだろうか。

2 「観光関連事業者等支援施策」条例の構成等

 この条例案が「観光関連事業者等支援施策」を積極的に実施することを意図していることは明らかだと思う。そして、条例案第3条第1項は、「県は、観光関連事業者等支援施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。」としている。

 しかし、この規定だけでは、なぜ「総合的に」策定・実施をしなければいけないのか、また執行機関としてはどのように実施することを求められているのかよく分からない。

 このように責務規定で特定の施策を総合的に策定し、及び実施することを謳う規定は法律でもよく見られるところである*2。しかし、法律の場合は、責務規定の前に基本理念の規定を置き、当該施策は当該基本理念にのっとって行うといった規定とするのが通例である*3。さらに、総合的に施策を実施するために、方針や計画を策定することとすることがある*4。そして、基本的な施策については、定義規定で書くのではなく、条例の実質的な規定として(条例案によれば第5条の前辺り)に定めるべきだろう。

3 その他

 (1) 第4条第1項

 第4条第1項の規定は、県民、来訪者及び観光関連事業者等の責務をまとめて規定しているが、立場がそれぞれ違うのであるから、まとめて規定することには無理があると思う。

 (2) 第6条

 条例案の題名及び第1条からすると、この条例は観光産業を対象として考えているので、第6条の規定は、不適当ということになる。

 

 以上であるが、この条例案は、結局のところ「再興」と言いながら、今以上にコロナ対策をやっていきましょうという内容に過ぎないように思われる。そうすると、題名と内容が一致していない条例案になってしまったということになる。

*1:デジタル大辞泉

*2:地域再生法第3条、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」第4条など

*3:地域再生法第3条は、「国は、前条に規定する基本理念にのっとり、地方公共団体の自主性及び自立性を尊重しつつ、地域再生に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。」と規定している。

*4:地域再生法は、政府に基本方針の策定義務を課している(第4条)。また、「成年後見制度の利用の促進に関する法律」は、法律で基本方針を定め(第11条)、政府に基本計画の策定義務を課している(第12条)。ただし、第3条第1項の規定には「計画的」という文言がないので、必須となるものではない。