自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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都道府県条例に市町村の責務を規定することについて(上)

 1999年の地方分権改革により、都道府県条例に市町村の責務を規定することは否定的な意見が多い反面、それを明確に否定する規定がないため、当該規定が存置されたほか、新たに規定する例も見られるところである。

 最近は、その問題に対する意識が薄れているような感じも受けているところであり、改めて当該規定の問題点を取り上げておくこととする。

 <「自治体法制執務雑感」関連記事>

  • 2008年2月29日付け記事「都道府県条例に市町村の責務を規定することについて」
  • 2014年10月25日付け記事「続・都道府県条例に市町村の責務を規定することについて」

  1999年に公布された地方分権一括法により、都道府県と市町村は対等な関係になったにもかかわらず、都道府県条例に市町村の責務を規定する規定が見られるが、それは問題がないのだろうか。

 海老名富夫「公害防止条例に見る都道府県と市町村の関係について」人見剛ほか『公害防止条例の研究』(P270~)によると、当時、自治省の職員による次の見解が発表されたとのことである。

 (「市町村は当該地域の実情に即した消費生活の安定及び向上に関する施策を策定するとともに、これを実施する責務を有する。」という条例の規定に対して)、具体的な事務の義務付けではないにせよ、市町村に対して何らかの義務付けをする点ではやはり同じ問題があり、このような規定を都道府県条例に置くことはできず、仮に置いても市町村を拘束することはできないのではないかと思われる。(中略)このような内容を条例という権力的な法規範形式で定めると、都道府県の意思を市町村に押し付けるという印象を拭い切れない。市町村の責務等に関する規定を都道府県の条例に置く目的は、市町村に対して協力を呼びかけることにあると思われるが、そうだとすれば、助言・勧告(地方自治法245条の4)という穏やかな形で示せばたりるのではないか。

 実際、市町村の責務規定を全て削った県もあったのであるが*1、こうした自治省筋の解釈が公表されていたにもかかわらず、そうした対応がなされなかった都道府県が多かった理由として、前掲書(P271)は次のように記載している。

 ……地方分権改革における条例改正作業が……国と地方公共団体の間の問題、すなわち法律改正に伴うものを中心に進められていた結果、条例改正の検討から見落とされたか、一般的な努力義務規定は違法とまで言えず許容されると判断したか、または、都道府県と市町村の新しい関係を理解しながらも、現実的には必要との認識から具体的な義務付け等市町村に対する規定をあえて残したのか、さまざまなケースがあると思われる。

 私は、当時の条例改正の作業の状況を聞く限りでは、そこまで手が回らなかったというのが正直なところではないかという感じがしているが、多くの都道府県において整理がなされなかったのは、一見すると地方自治法に明文の規定がないことによるのだろう。

 しかし、地方自治法第14条第1項は、「普通地方公共団体は、……第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる」とし、同法第2条第2項は、「普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する」とされていることからすると、同項の事務は、都道府県にとってみればあくまでも都道府県が処理する事務ということである。したがって、都道府県の条例は、都道府県の事務に関して定めることができるのみであるから、仮に市町村の責務を定めるのであれば、それは市町村の事務を定めることになり、違法ということになるのではないだろうか。

*1:三重県がそうであったと聞いたことがある。