(2) 都道府県の条例に市町村について責務規定を置く問題の改善策
都道府県の条例に市町村について責務規定を置く目的は、市町村に対して協力を呼びかけることにあるとする見解がある*1。それは、市町村に一定の役割を果たして欲しいという意図とも同じであろう。
法律では見出しを「役割」とするものがあるが、これは住民等の責務的なものを書くときに用いられることが多いようであり、書き振りも次の食品安全基本法のように「~役割を果たすものとする」(観光立国推進基本法では、次のように「果たすよう努めるものとする」としているが)というようにしているようである。
(消費者の役割)
第9条 消費者は、食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるとともに、食品の安全性の確保に関する施策について意見を表明するように努めることによって、食品の安全性の確保に積極的な役割を果たすものとする。
(住民の役割)
第5条 住民は、観光立国の意義に対する理解を深め、魅力ある観光地の形成に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。
しかし、市町村の役割を規定することは、市町村の事務を規定することと同義であり、適切とは言えないだろう。
私は、次のように「市町村と連携する」といったように書くことで、都道府県が行う形で規定することとしつつ、言外に市町村も一定の役割を負ってもらうというように考えるのがよいのではないかと感じる。
2 県は、前項の施策の実施に当たっては、市町、生産者、事業者および県民と連携するものとする。*2。
ところで、泉本和秀「自治体での立法の実際と工夫」松尾浩也ほか『立法の平易化』(P97)には、東京都の環境基本条例における市町村の責務規定について次のように記載されている *3。
最終的には、市町村の責務を「市町村は、環境の保全を図るため、その区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」と規定することとした。しかし、その内容は、実は既に環境基本法で地方公共団体の責務として定められているものの引写しであり、都の条例で特に新たな責務を定めたものではないのである。単に法律による責務を確認したにすぎない規定とすることによって、環境問題としての「わかりやすさ」だけを確保してみたのである。
考え方としては参考にあるが、使う場面はあまりないのではないかとも感じる。
(このシリーズ終わり)