6 出先機関に関する条例事項
(1) 条例事項とされている出先機関とその考え方
出先機関について法律で条例に委任する事項は、その位置、名称及び管轄区域であることが通例であるが、自治体独自で設置する出先機関にあっては、その所掌事務も併せて定めることになる。
自治体の長が条例で設置しなければならない出先機関としては、まず地方自治法第155条第1項又は第156条第1項に規定する行政機関が挙げられるが、その他に公の施設や大学を設置した場合はこれらの施設を出先機関として位置付けるであろうから、これらも条例で設置する必要があることになる。参考までに関係規定を引用しておく。
第155条 普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務を分掌させるため、条例で、必要な地に、都道府県にあつては支庁(道にあつては支庁出張所を含む。以下これに同じ。)及び地方事務所、市町村にあつては支所又は出張所を設けることができる。
② 支庁若しくは地方事務所又は支所若しくは出張所の位置、名称及び所管区域は、条例でこれを定めなければならない。
③ (略)
第156条 普通地方公共団体の長は、前条第1項に定めるものを除く外、法律又は条例の定めるところにより、保健所、警察署その他の行政機関を設けるものとする。
② 前項の行政機関の位置、名称及び所管区域は、条例でこれを定める。
③〜⑤ (略)
(公の施設の設置、管理及び廃止)
第244条の2 普通地方公共団体は、法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。
2〜11 (略)
(長の職務権限)
第24条 地方公共団体の長は、次の各号に掲げる教育に関する事務を管理し、及び執行する。
(1) 大学に関すること。
(2)〜(5) (略)
(教育機関の設置)
第30条 地方公共団体は、法律で定めるところにより、学校、図書館、博物館、公民館その他の教育機関を設置するほか、条例で、教育に関する専門的、技術的事項の研究又は教育関係職員の研修、保健若しくは福利厚生に関する施設その他の必要な教育機関を設置することができる。
これらのうち、地方自治法第156条第1項の行政機関に当たるかどうかの判断には難しい面がある。この点について、松本英昭『新版逐条地方自治法(第4次改定版)』(P497)には、次のように記載されている。
直接公権力の行使そのものには関係しなくても一般関係住民の権利義務に密接な関係のある機能を担当する機関であれば「行政機関」と解される(行実 昭25.12.5)。一方、学校、病院等のような公の施設*1又は出先機関的性格を全く有しない直轄機関は含まれず、さらには、住民との間に行政関係をもたない河川の改修工事その他の土木工事等の現場の工事事務所のようなもの等もおよそ行政機関の所管区域の観念とも相容れないものであり、含まれないと解する。
上記のとおり、教育機関や公の施設は行政機関には含まれないのであるが、別の規定によって条例で設置することとされているので、これらも含めて条例で設置する必要がある出先機関であるかどうかのメルクマールは、その機関として住民に関係があるかどうかということであると考えればよいことになる。
例えば、従来は条例で設置することとされていた、農業改良助長法第12条に規定する普及指導センター(平成16年の同法改正前は、地域農業改良普及センター)は、平成16年の同法改正によりその必要はなくなったのであるが、この施設は公権力の行使に関係するわけでもなく、また、そこに所属する普及指導員(平成16年の同法改正前は、専門技術員及び改良普及員)は住民と関係があるとしても、相談所等とは違い機関として住民と関係を持つというわけではないので、この改正は適当だと思う。
なお、都道府県知事は、労政事務所を置く場合には、条例で定めることとされている(地方自治法附則第4条第2項)。この規定は昭和31年の改正法において追加された規定であるが、従前は、官制を根拠としていたためにこれを廃止することもできず、実情に即していなかったため、任意設置による建前を明らかにしたものである*2。条例事項とされたのは、労政事務所の所掌事務は、労働組合及び労働関係調整に関する事務とすることが想定されており、住民の権利義務と関係があるからであると思われるが、現在の状況からすると条例事項とする意味はない。