自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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執行機関(13)

 (2) 必ずしも条例事項とはされていない出先機関

 前回(2022年5月21日付け記事「執行機関(12)」)、松本・逐条の引用部分で触れているが、いわゆる土木事務所は、条例で設置する必要はないとされている*1

 しかし、実際には、土木事務所に一定の許認可権限等を地方自治法第153条第1項*2の規定により委任している場合もある。そのような土木事務所は、条例で設置すべき行政機関と考えなければいけないのだろうか。

 例えば、保健所、税に関する事務所、家畜保健所等は、条例で設置しなければならない機関であり、保健所長は、直接法律の規定によって公権力を行使する場合があるが、税に関する事務所の長や家畜保健衛生所の長には、次のとおり公権力を行使する権限を長が委任することとされている。

   地方税法

 (地方団体の長の権限の委任)

第3条の2 地方団体の長は、この法律で定めるその権限の一部を、当該地方団体の条例の定めるところによつて、地方自治法(昭和22年法律第67号)第155条第1項の規定によつて設ける支庁若しくは地方事務所、同法第252条の20第1項の規定によつて設ける市の区の事務所又は同法第156条第1項の規定によつて条例で設ける税務に関する事務所の長に委任することができる。

 

   家畜保健衛生所法

 (設置)

第1条 家畜保健衛生所は、地方における家畜衛生の向上を図り、もつて畜産の振興に資するため、都道府県が設置する。

2 家畜保健衛生所の位置、名称及び管轄区域は、条例で定める。

3 家畜保健衛生所には、その名称中に「家畜保健衛生所」という文字を用いなければならない。

 

   家畜伝染病予防法

 (家畜保健衛生所長への事務の委任)

第61条 都道府県知事は、第4条第1項、第4条の2第1項及び第3項、第7条(第31条第2項において準用する場合を含む。)、第8条(第31条第2項において準用する場合を含む。)、第9条、第13条第1項及び第2項、第15条、第21条第1項ただし書、第24条ただし書、第26条第1項及び第3項、第30条、第31条第1項、第50条並びに第52条の規定によりその権限に属する事務の一部を家畜保健衛生所長に委任することができる。

 これらの規定を見ていると、当該機関が現に有している権限の性質によって、行政機関かどうか判断するべきであるようにも思える。そうすると、上記のような土木事務所は、本来は、行政機関であるべきであるとも言える。

 しかし、地方自治法第153条第1項からは、機関の長でない職員に権限を委任することも可能であるので、行政機関でない機関の長に公権力の行使という権限を委任しても、違法とまでは言えないだろう*3

 したがって、条例で公権力の行使に係る事務を直接出先機関の所掌事務とするのであれば、当該出先機関は条例で設置しなければいけないのであろうが、条例上は長の権限とした上で、地方自治法第153条第1項の規定によって委任するのであれば、条例設置でない機関の長に委任することも、一応許されるのということになる。そうすると、結局法律において条例で定めることとされている機関以外の機関は、あえて条例で設置する必要はないと考えても間違いではないだろう。

*1:土木事務所は、旧地方自治法第158条第6項の分課であるとする行実(昭29.5.12)があるが、このことからすると法的には条例設置を要しない機関は、長の内部組織と考えることになる。

*2:地方自治法第153条第1項は、「普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務の一部を当該普通地方公共団体の吏員に委任し、又はこれをして臨時に代理させることができる。」としている。

*3:この場合に、地方税法第3条の2や家畜伝染病予防法第61条は、これらに規定する権限の委任先を税務に関する事務所の長又は家畜保健衛生所長に限定するという意味で、地方自治法第153条第1項の特別法と考えるのであろう。