5 事務分掌
(1) 各執行機関における事務
ア 原則
自治体が処理する事務については、執行機関ごとに法定されている。ただし、首長が担任する事務について規定する地方自治法第149条の規定は例示規定となっており*1、他の執行機関が処理することができない事務は、首長が所掌することになる。
なお、人事委員会が処理する事務については、地方公務員法第8条第1項に規定があるが、同項第12号は「前各号に掲げるものを除く外、法律又は条例に基きその権限に属せしめられた事務」と規定している。条例で人事委員会に権限付与できる規定となっているが、当然、人事機関として適切な事務に限られるものと解される*2。
イ 首長の事務か行政委員会の事務か迷う事例
執行機関の権限は、原則として法定されているため、新たな事務が生じた場合、その事務をどの執行機関で執行するかは、法律の規定によって決することになる。しかし、実際には、疑問が生じることもある。
私の所属する自治体には、歴史資料等を収集し、住民の利用に供すること等を目的とした施設があるが、これは、博物館法に基づく博物館という位置付けをしており、その管理等は教育委員会の所掌事務になっている。
教育委員会の職務権限に関する規定は、次に掲げるとおりである。
(教育委員会の職務権限)
第23条 教育委員会は、当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で、次に掲げるものを管理し、及び執行する。
(1) 教育委員会の所管に属する第30条に規定する学校その他の教育機関(以下「学校その他の教育機関」という。)の設置、管理及び廃止に関すること。
(2) 学校その他の教育機関の用に供する財産(以下「教育財産」という。)の管理に関すること。
(3) 教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関すること。
(4) 学齢生徒及び学齢児童の就学並びに生徒、児童及び幼児の入学、転学及び退学に関すること。
(5) 学校の組織編制、教育課程、学習指導、生徒指導及び職業指導に関すること。
(6) 教科書その他の教材の取扱いに関すること。
(7) 校舎その他の施設及び教具その他の設備の整備に関すること。
(8) 校長、教員その他の教育関係職員の研修に関すること。
(9) 校長、教員その他の教育関係職員並びに生徒、児童及び幼児の保健、安全、厚生及び福利に関すること。
(10)学校その他の教育機関の環境衛生に関すること。
(11)学校給食に関すること。
(12)青少年教育、女性教育及び公民館の事業その他社会教育に関すること。
(13)スポーツに関すること。
(14)文化財の保護に関すること。
(15)ユネスコ活動に関すること。
(16)教育に関する法人に関すること。
(17)教育に係る調査及び指定統計その他の統計に関すること。
(18)所掌事務に係る広報及び所掌事務に係る教育行政に関する相談に関すること。
(19)前各号に掲げるもののほか、当該地方公共団体の区域内における教育に関する事務に関すること。
博物館法に基づく博物館であれば、同法第1条の規定*3からすると、第12号該当と考えるのであろうが、この施設に、公文書館法に基づく公文書館としての機能も持たせようとして当該施設の設置条例の改正案が教育委員会から持ち込まれたことがあった。もちろん、歴史資料の中には文書も含まれるため、公文書館としての機能も持たせること自体は合理的な考え方であると思うが、公文書館の設置・管理については、地教法上の教育委員会の権限と読むことには無理があり、地方自治法第149条第8号の規定*4をみると、公文書館の管理は、長の権限に属する事務と考えざるを得ず、教育委員会の権限であることを前提とした条例改正は、不適切であるとした。
このように、一見すると類似する権限であっても、所管する執行機関が異なってしまうこともある。
*1:地方自治法第149条の柱書きは、「普通地方公共団体の長は、概ね左に掲げる事務を担任する。」と規定している。
*2:地方公務員法第8条第1項第12号のように条例で執行機関の事務を創設することができる規定は珍しいが、これは人事機関としては、人事委員会と公平委員会のほかに任命権者があることから(地方公務員法第6条)、任命権に係る事項についても人事委員会に権限を付与した方が適切なものもあることから、このような規定が置かれたのではないかと思われる。
*3:「この法律は、社会教育法(昭和24年法律第207号)の精神に基き、博物館の設置及び運営に関して必要な事項を定め、その健全な発達を図り、もつて国民の教育、学術及び文化の発展に寄与することを目的とする。」という規定である。