自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

条例立案時における憲法適合性及び法律適合性への配慮(2)

3 法律適合性について

 (1) ラブホテルの規制

 今回取り上げる判例は、風営法との関係が問題となることで共通している。条例及び風営法の規制対象と規制内容、そして判例の結論がどのようになっているかは、次のとおりである。

区分 規制対象 風営法の規制内容 条例の規制内容 結論
判例 パチンコ店(風俗営業 許可 許可 適法
判例 パチンコ店(風俗営業 許可 許可 違法
判例 ラブホテル(性風俗関連特殊営業) 届出 許可 適法

  規制対象は、判例①及び判例②ではパチンコ店であり、風営法では許可対象としているのに対し、判例③ではラブホテルであり、風営法では届出対象としている。一見すると、判例③における条例は、風営法より規制を強化しており、違法と判断されやすいように思うが、ラブホテルに対する規制の特殊性として次のように判断している。

 風俗営業については公安委員会の許可制を採用しているのに、風俗関連営業(現在の性風俗関連特殊営業)が届出制とされたのは、前者に比較して後者の弊害が小さいと考えられたからではなく、後者は、専ら性を商品化して営業の対象とするものであって、国が公的に許可し、適切な指導監督によって健全な営業として育成する対象とするのになじまないことから、営業自体は届出制をとって実態を把握しつつ、他方で強力な規制を施して監視し、これに違反する行為に厳しい制裁を加えるという立法態度を取ったためである。

 そして、性風俗関連特殊営業に関する風営法と条例の関係について、次のように判断している。  

風営法がどのような立法態度を取っているかについては、風営法自体が、過去において、規制の対象を順次増加させてきたことなどにかんがみると、基本的には従来の規定では規制の及ばなかった新たな形態の性風俗営業が出現した場合には、これを規制の対象に取り込む必要があると考えていることが明らかである。ラブホテル経営に関していえば、上記のような性的好奇心を高める設備を有しなくとも、異性を伴う客の出入り自体によって、周辺の生活環境、教育環境に悪影響を与えることは否定できないが、現実には、法律改正は、社会における新現象の出現に遅れがちであることは、その性質上、避けられないことであって、法律改正が完了するまでの間、これについては何らの規制を加えるべきでないというのが風営法の趣旨であると解することはできない。

 他方、普通地方公共団体は、地方自治法上、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する(2条2項)が、とりわけ、市町村は、基礎的な地方公共団体として、都道府県が処理するとされているもの以外の事務を処理するとされている(同条3項)。そして、具体的な事務内容について、「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年法律第87号)による改正前においては、地方自治法2条3項に例示されていたところ、その1号には、「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を維持すること」が、さらに7号には、「……風俗又は清潔を汚す行為の制限その他環境の整備保全、保健衛生及び風俗のじゅん化に関する事項を処理すること」が挙げられていた。そうすると、もともと、市町村などの地方公共団体が、その地域の実情に応じ、生活環境、教育環境等に悪影響を及ぼすおそれのある風俗営業に対して適切な規制を講ずることは、本来的な公共事務(固有事務)と観念されていたと考えられる。

  これを要約すると、次のとおりとなるだろう。

  1. 風営法は、これまで規制の対象を順次増加してきており、ラブホテル営業については、社会における新現象の出現に遅れがちであることからすると、法の規制以上の規制を認めない趣旨ではない。
  2. 地域の実情に応じ、生活環境、教育環境等に悪影響を及ぼすおそれのある風俗営業に対して適切な規制を講ずることは、自治体の本来的な公共事務である。

  以上により、次のとおり条例を適法としている。

  風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和59年法律76号改正後)の規制の対象外となっているラブホテル等をも規制対象とする東郷町ホテル等建築の適正化に関する条例は、同法とその目的及び規制対象においてほぼ共通し、規制手法についてはかなり異なるが重なる部分も存在するところ、同法は、それが規制の最大限であって条例による上乗せ規制・横出し規制を一切許さない趣旨とまではいえず、かえって地域の実情に応じた風俗営業の規制を行うことは地方公共団体の本来的な責務であることに照らせば、本件条例は同法の趣旨に反するとまではいえない。

 したがって、判例③によれば、ラブホテルについては、地域の実情に応じた規制の必要性を説明できれば、条例の制定が可能と一応言うことができる。