自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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目的規定(5)

  ウ 条例相互間の整合

 目的規定を書く際には、当該自治体内の他の条例の規定との整合を図るべき場合がある。

 次の規定は、『自治体法務研究(No.20)』に、弁護士であり大学院教授である方が、「公文書等の管理に関する法律」(以下「公文書管理法」という。)の制定を受けて提示された公文書管理に関するモデル条例案の目的規定である。

 (目的)

第1条 この条例は、○○市及び地方独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である○○市民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、○○市及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の市民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。

 上記のモデル条例案は、基本的には、公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)をベースにしており、この目的規定もそうである。

 一般的に公文書の管理は、情報公開と車の両輪と言われている。そうすると、自治体の公文書管理条例においては、公文書管理法の書きぶりを参考にするよりも、自身の自治体の情報公開条例を意識する必要があることになる。

 事実、公文書管理法第1条と行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)第1条は次のとおりであり、公文書管理法の衆議院における修正により追加された太字の部分を除くと、公文書管理法が情報公開法を意識していることは明らかであろう。

   公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号)

 (目的)

第1条 この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ国民主権の理念にのっとり、公文書等の管理に関する基本的事項を定めること等により、行政文書等の適正な管理、歴史公文書等の適切な保存及び利用等を図り、もって行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに、国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする。

   行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)

 (目的)

第1条 この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。

 そうすると、条例案で適当でない部分として、まず「国民主権の理念にのっとり」としている部分は、自治体の情報公開条例では「地方自治の本旨にのっとり」とか「住民自治の理念にのっとり」といった書きぶりをしているところが多いのではないかと思われるので、そのような文言を使うべきであるということになる。

 次に、「○○市及び地方独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である○○市民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ」としている部分は、条例で「国民共有」と言われてもしっくりこないし、「主権者」という言葉も条例では不適当であろう。このようなことを何か書きたいのであれば、やはり地方自治とか住民自治という言葉を使って考えていくことになるのだろうが、いずれにしろ、この部分は条例ではちょっと使えない部分である。

 条例の立案においては、法律の規定を参考にすることが多いが、法律を参考にすべきでないことがあることは留意すべきだろう。