自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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施策推進条例における「総合的」の意義

 基本条例に代表される施策推進条例においては、目的規定において、対象とする施策を総合的・計画的に進めることとし、責務規定において、その施策を行う主体に、当該施策を総合的に推進する義務を課すこととすることが多い*1

 施策を計画的に進めるのであれば、文字どおり計画が必須になってくるところであり、実際、基本法等において、施策を計画的に推進することとしている場合には、例外なく政府等に計画の策定を義務付けている*2

 では、条例で施策を総合的に進めることとした場合には、当該条例でどのようなことを規定しておくべきだろうか。この種の法律の参考例は議員立法になるが、「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」を参考に考えてみたい。

 この法律は、17条から成る法律であるが、「第1章 総則」において、第3条に施策推進に当たっての「基本理念」の規定を置き、国は、この基本理念にのっとって施策を総合的に策定・実施する責務を有することとしている(第4条)。そして、「第2章 成育医療等基本方針」において、政府は、成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針を定めることとし(第11条)、第3章で基本的施策に関する規定を置いている(第12条~第16条)。

 なお、基本方針に代えて計画を策定することとしているものもある*3

 また、施策を総合的に推進するためには、組織横断的に取り組む必要があるため、国においては、関係大臣等から成る戦略本部を設置している例がよく見られるが*4自治体においては、首長制をとっているため、基本的には組織について考慮する必要はあまりない。ただし、関係者を構成員とする協議会の設置を検討する場面は多くなるかもしれない*5

 以上のとおり、条例で、目的規定において対象とする施策を総合的に進めることとし、責務規定においてその施策を行う主体に当該施策を総合的に推進する義務を課すのであれば、当該条例において、どのように推進していくかは明記すべきであり、そのための基本方針*6と基本的施策に関する事項くらいは規定すべきということになる。したがって、当該自治体の責務規定において施策を総合的に推進する旨の義務規定だけ置いているような条例も見かけるが、これでは、何となく個々の規定の書きぶりだけ真似て、全体をあまり考えていないことになってしまうだろう。

*1:責務規定においては、「総合的」とだけ記載し、「計画的」とは書かないのが通例である。

*2:計画を「戦略」としている例(サイバーセキュリティ基本法第12条の規定によるサイバーセキュリティ戦略など)もある。

*3:官民データ活用推進基本法は、官民データ活用の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進することを目的とし(第1条)、政府は、官民データ活用推進基本計画を定めることとしている(第8条)。

*4:サイバーセキュリティ基本法によるサイバーセキュリティ戦略本部(第25条~第37条)等

*5:法律の例として、アレルギー疾患対策基本法第21条・第22条等

*6:「基本指針」としている例(アレルギー疾患対策基本法第11条の規定によるアレルギー疾患対策基本指針など)や「大綱」としている例(自殺対策基本法第12条の規定による自殺総合対策大綱)もある。