自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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条例に規定すべき事項

 自治体が条例を制定しなければいけない事項は、住民等に義務を課し、又は権利を制限することである(地方自治法第14条第2項)。したがって、条例にはそれ以外の事項を定める必要はないのであるが、義務賦課・権利制限事項しか定めていない条例はほとんど存しない。

 条例は、一定の公益を実現するために制定されるものである。そして、なぜ条例を制定しなければいけないと言えば義務賦課・権利制限事項を定めるためであるから、当然、当該事項がその条例の中心的部分を占めることになる。しかし、その条例の目的とする公益を達成するためには、義務賦課・権利制限以外の事項も合わせ行うこととするのが通例である。そうした義務賦課・権利制限以外の事項も併せて条例に定めると、第1条に規定されるその条例を制定した目的を達成するための施策の全体像が明らかになり、住民にとっても分かりやすいものとなるだろう。

 以下、義務賦課・権利制限以外の事項で、条例で定めることが適当と思われる事項について、何点か取り上げる。

 1 「ごみ屋敷条例」から

 義務賦課・権利制限以外の事項を定める意義がある条例としていわゆる「ごみ屋敷条例」が挙げられることが多い。

 この条例は、言うまでもなくごみ屋敷を無くすことが直接的な目的となり、強制的なごみの撤去という措置を講ずることが条例を策定する一義的な必要性である。しかし、ごみ屋敷を無くすためには、そうした強制的な措置以上にごみ屋敷の住人に対する福祉的な措置が重要であるという事実がある。そうすると、ごみ屋敷を無くすことを目的とするごみ屋敷条例には、そうした支援措置も定めることが、条例を制定した目的を達成するために講ずる施策の全体像を明らかにするという点で適当であるということになる*1

 2 責務規定

 責務規定については、あまり深く考えることなく条例に規定することも多いと思うが、その名宛人に努力義務的なものを課すだけのものであるため、必ずしも条例で規定する必要はない。

 しかし、行政目的を達成するためには、規制するまでもないが、努力義務として一定の行為を求める必要がある場合があり、そうしたことから努力義務を定める責務規定は、条例に定める意味があることになる。

 3 経済的手法

 一定の行政目的を達成するため、補助金の交付、税の減免などの経済的手法を講じることがある。このうち、税の減免は条例事項であるが、補助金の交付は一般的には必ずしも条例で規定する必要はないと解されている。

 しかし、他の条例事項たる施策と相まって補助金の交付を行うこととする場合には、当該条例に補助金の交付に関する規定を設けることは、施策の全体像を当該条例で明らかにするという点で意味があるだろう。

 なお、税の減免については、全て税条例等で規定することをルールとしている自治体もあると思うが*2、他の条例と相まって一定の公益を実現しようとする条例を制定する場合には、その目的規定等にその旨を明記することが考えられる。

*1:板垣勝彦『「ごみ屋敷条例」に学ぶ条例づくり教室』(P82)参照

*2:国の場合は、税の特例については租税特別措置法という税に特化した法律で規定している。