自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(3)

  イ 具体例

   (ア) 消費者保護条例

 具体的な例として、まず消費者保護条例を取り上げる。

 消費者保護条例に規定する内容については、猪野積『条例と規則(2)』(P91)において、次のように類型化されている。

① 事業者規制

 ・ 危害発生の防止(欠陥商品、不安商品など)

 ・ 内容表示の適正化

 ・ 規格の適正化

 ・ 価格表示

 ・ 単位価格表示

 ・ 包装の適正化

 ・ アフターサービスの適正化

 ・ 緊急物価対策その他

② 住民に対するサービス行政

 ・ 被害救済

 ・ 訴訟援助制度(訴訟費用貸付制度など)

③ 条例の運用への住民参加

 ・ 審議会、委員会等への参加

 ・ モニター制度

 ・ 申出の制度

 消費者保護という観点からすると、クーリング・オフ制度のように契約の効力を否定するような方法も考えられる。しかし、それは、民法が定める契約自由の原則*1に反することになるため、条例では規定できないということになるのだろう*2

 実際の条例の例として、東京都消費生活条例の目次を次に掲げる。 

目次

 前文

 第1章 総則(第1条―第8条)

 第2章 危害の防止(第9条―第14条)

 第3章 表示、包装及び計量の適正化(第15条―第20条)

 第4章 不適正な事業行為の是正等

  第1節 価格に関する不適正な事業行為の是正(第21条―第24条)

  第2節 不適正な取引行為の防止(第25条―第27条)

 第5章 消費者の被害の救済(第28条―第38条)

 第6章 情報の提供の推進(第39条・第40条)

 第7章 消費者教育の推進(第41条―第42条)

 第8章 消費生活に関する施策の総合的な推進(第43条・第44条)

 第9章 東京都消費生活対策審議会(第45条)

 第10章 調査、勧告、公表等(第46条―第51条)

 第11章 雑則(第52条・第53条)

 第12章 罰則(第54条・第55条)

 例えば第4章第2節の「不適正な取引行為の防止」について、不適正な取引行為の効力を否定するのではなく、当該行為を行った事業者に対する勧告、命令、罰則等を規定することにより実現しようとしている。 

*1:民法第521条が「何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる」(第1項)、「契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる」(第2項)と規定している。

*2:阿部泰隆『行政の法システム(下)(新版)』(P725)は、「商品の品質保証の内容は契約の自由の問題で、条例では規制できないので、消費者保護条例では、品質保証の内容を規制するのではなく、保証する内容の表示を義務づけているだけである。……取引の私法上の効力を否定することは、条例のなしうるところではないからである」とする。なお、猪野積『条例と規則(2)』(P60)は、「取引の私法上の効力を否定するようなことは、個人の財産権を著しく制限するものであり、また、取引の安定性を損なうおそれがあるものである。したがって、このような手法の導入は、財産権の内容の制限にわたるものとして、法律により行われるべきものであろう」とするが、個人の財産権を制限することなどは、条例事項となり得ないということはないだろう。