自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

法案のミスから思うこと

 今国会における法案のミスが大きな話題になっている。その数は、24の法案等について134件であり、そのうち条文等の誤りは3法案1条約の合計12か所で、他は新旧対照表等の参考資料におけるものである。

 本件については、次のような報道がなされている。

法案に単純ミス多発、なぜ?「人手不足と働きすぎ」

 政府が提出した法案にミスが次々判明。霞が関で、何が起きているのでしょうか。 

 (略)

 その多くが単純なミス、例えば…。

 「激甚じん→激甚」

 「若(も)ししくは→若しくは」

 「海上保安長長官→海上保安庁長官」

 なかには文脈が変わってくるような間違いも…。

 「英国軍隊→カナダ軍隊」

 「電子通信回線→電気通信回線」

 今のところミスが見つかっていない国土交通省の幹部はこう話しています。

 国交省幹部:「ありえないですね。我々役人は法案の作成や確認、読み合わせを徹底的にたたき込まれていますから、なんで多発するんだろうとびっくりしています。マンパワー不足と働き過ぎ…これに尽きるんじゃないかと思います」

 萩生田文科大臣:「すべて読み合わせを確認するという再発防止策を直ちに講じて参りたいなと思っています」

 梶山経済産業大臣:「原因については様々あると思いますけれども、しっかりと確認をするということ」

 厚生労働省で働いていた元官僚は新型コロナ対応が人手不足に拍車をかけ、ミスを生んでいるとみています。

 加藤官房長官は府省庁横断のチームを作って原因究明や再発防止策を検討するとしています。

テレビ朝日 3月26日配信

 国における法案作成の方法は十分に承知していないのだが、新旧対照表及び改め文の作成はシステムによる自動生成機能を用いているということも耳にする。そうすると、ミスの内容を見ると、その原因は、業務過多ということもあるのだろうが、システムが十分機能していないことも大きいのではないだろうか。上記の「激甚じん」、「若(も)ししくは」といったミスは、システムによる法令データの保有の仕方が起因しているように感じる。

 そうであれば、システムの機能の精度を上げることが本件における絶対の解決策であって、再発防止策として読み合わせを徹底すると言っているが、一方でデジタル化と言っていながら、事務処理のチェックをアナログな方法で行うというのはいたってナンセンスである。大体、本件におけるミスの多くは参考資料におけるものであり(3法案1条約の合計12か所という数が少ないと言えるかは分からないが)、逐条審議を行っていない国会が殊更問題とするのは筋違いのように思う。いずれにしろ、デジタル化を進める過渡期に生じた問題として、ある程度大目に見ることができないものかと感じる。そもそも、参照条文などはタブレットなどがあれば容易に確認できるのであるから、参考資料として作成する必要もないのではないだろうか。

 ところで、デジタル化が進むと、法制執務の在り方も変わっていくように思う。細かいことでは、配字へのこだわりはデジタル化にはそぐわないだろう。さらに、そもそもできるだけ文字数を少なくするための改め文方式は、変化を余儀なくされるのだろう*1。では、現在の新旧対照表方式がデジタル化に適しているかと言えば、そうでもないように感じる。むしろ、改め文方式を改良していく方向を模索した方が適当とも思ったりする。法制執務も過渡期に向かっていくのではないだろうか。

*1:片山善博市民社会地方自治」(P46~)は、「法令改正における内部作業としての資料作りの場面でのツールは明治時代の墨に始まり、その後は『ガリ版』に進化した。墨なりガリ版の時代に大切なことは、できるだけ字数を少なくすることである。特に、法令改正途中の内部作業では幾度となく内容の変更があるが、その際一からガリ版を切り直すのは実に難儀なことである。それでわかるとおり、いかに字数を節約できるかということは法令改正作業の過程においては切実な問題だったのである。従来の一部改正方式とは、この字数の節約という命題に有効かつ的確に応えるものであった。」とする。