自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

法制執務

略称を置く位置

法文に置かれる略称は、略称の対象となる言葉が初出する場所に置かれるのが通常であるが、初出する場所には置かない方がいいと思われる場合もある。 次の規定は、「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律(平成28年法律第12号)」第3条第2項の規定である。 …

「附則」とあえて表記している例

天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成29年法律第63号) 附 則 (施行期日) 第1条 この法律は、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第1条並びに次項、次条、附則第8条及び附則第9条の規定は公布…

立入検査時の身分証明書の提示

法令における立入検査の規定においては、立入検査を行う職員は身分証明書を携帯しなければならないこととする規定を置くことが通例であるが、その書きぶりは、次のとおり、関係人の請求に応じて提示すべきこととするものと、関係人の請求がなくても提示を義…

地方自治法の規定修正案(8)~第3編第3章

○第285条 市町村及び特別区の事務に関し相互に関連するものを共同処理するための市町村及び特別区の一部事務組合については、市町村又は特別区の共同処理しようとする事務が他の市町村又は特別区の共同処理しようとする事務と同一の種類のものでない場合にお…

地方自治法の規定修正案(7)~第2編第9章

○第210条 一会計年度における一切の収入及び支出は、すべてこれを歳入歳出予算に編入しなければならない。 「一会計年度における一切の」は不要だと思う。納まりが悪いのであれば、「収入及び支出は、全て当該会計年度の歳入歳出予算に……」とすればいい。 ○…

地方自治法の規定修正案(6)~第2編第8章

○第203条の2第1項 普通地方公共団体は、その委員会の非常勤の委員、非常勤の監査委員、自治紛争処理委員、審査会、審議会及び調査会等の委員その他の構成員、専門委員、監査専門委員、投票管理者、開票管理者、選挙長、投票立会人、開票立会人及び選挙立会…

地方自治法の規定修正案(5)~第2編第7章②

○第177条第1項 「普通地方公共団体の議会において次に掲げる経費を削除し又は減額する議決をしたときは、その経費及びこれに伴う収入について、当該普通地方公共団体の長は、理由を示してこれを再議に付さなければならない。」 →「……、理由を示して再議に付…

地方自治法の規定修正案(4)~第2編第7章①

○第142条 普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人(当該普通地方公共団体が出資している法人で政令で定めるものを除く。)の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこ…

憲法に自衛隊を位置付ける規定

ある憲法学者が、憲法に自衛隊を位置付ける規定として、第72条*1に第2項として次の規定を設けることを提案しているのを目にした。 内閣総理大臣は、法律に基づいて設置される自衛隊を内閣を代表して指揮監督する。 もちろん、こうした規定を設けることの適…

遡及適用した場合における立法上の手当て

令和2年4月から令和3年9月の間、岩手県大槌町において議会が議決した条例46件と町長が決裁した規則36件を公布していなかったことについて、『自治体法務雑記帳』(「立法の過誤と遡及立法―大槌町条例未公布問題に寄せて」)において、詳細な検討がなされ…

地方自治法の規定修正案(3)~第2編第6章

○第90条第2項 前項の規定による議員の定数の変更は、一般選挙の場合でなければ、これを行うことができない。 この規定の意味は、議員の定数を変更した場合には、その適用は次の一般選挙からであるということである(松本英昭『新版逐条地方自治法(第4次改…

地方自治法の規定修正案(2)~第2編第5章

○第74条第1項・第5項 「選挙権を有する者」の略称は、第5項で置く方が適当。したがって、第1項の「(以下この編において「選挙権を有する者」という。)」は削り、第5項の「第1項の選挙権を有する者」→「第1項の選挙権を有する者(以下この編において…

地方自治法の規定修正案(1)~第2編第1章

地方公務員がある意味一番知っていなければいけない法律が地方自治法であるが、古い法律であるため、法制執務的には参考にすべきでない規定も多い。そのような規定のうち主なものを取り上げて、修正案を記してみたい。 ○第6条第1項 「都道府県の廃置分合又…

元号法における昭和の位置付け

元号法(昭和54年法律第43号) 1 元号は、政令で定める。 2 元号は、皇位の継承があつた場合に限り改める。 附 則 1 この法律は、公布の日から施行する。 2 昭和の元号は、本則第1項の規定に基づき定められたものとする。 元号法附則第2項が「とする」…

あえて「同条」と規定する訳

環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律(令和4年法律第37号) (主務大臣等) 第47条 第39条第1項、同条第4項、第5項、第8項及び第9項(これらの規定を第40条第4項において準用する場合を含む。)、…

柱書きと各号の記載の不整合等

次の規定は、「ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号)」の規定である。 (定義) 第2条 この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足…

本則の規定の失効

銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令(令和2年内閣府令第39号) (銀行法施行規則の一部改正) 第1条 銀行法施行規則(昭和57年大蔵省令第10号)の一部を次のように改正する。 次の表により、改正後欄に掲げるその標記部分に二重傍線を付した項を加…

立入検査の規定雑感(下)

今回は、比較的新しい法律の規定を取り上げる。 次の規定は、「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律(平成28年法律第101号)」第44条の規定である。 (立入検査) 第44条 行政庁は、この法律の円滑な実施を確保するため必要…

立入検査の規定雑感(上)

次の規定は、森林病害虫等防除法(昭和25年法律第53号)第6条の規定である。 (立入検査) 第6条 農林水産大臣又は都道府県知事は、森林病害虫等を駆除し、又はそのまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該官吏又は森林害虫防除員に、森林その…

「前項の場合において」の適否

「自治実務セミナー(2022年1月)」に、横浜市行政手続条例第32条の規定の書きぶりについて、次のように触れる論稿を見た。 横浜市行政手続条例32条は、少し異色の規定ぶりとなっている。同条2項が行政手続法33条と同様の規定を置く一方で、横浜市行政手続…

各号の書き方が適当ではないと思われる例

次の規定は、「個人情報の保護に関する法律施行令等の一部を改正する等の政令(令和3年政令第292号)」第1条の規定により追加された「個人情報の保護に関する法律施行令」第21条の規定である。 (開示請求における本人確認手続等) 第21条 開示請求をする…

経過規定(10)

(5) 試験の名称を変更した場合の経過規定 平成21年4月22日に公布された「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律等の一部を改正する法律(平成21年法律第20号)」(衆法)は、あん摩マッサージ指圧師試験等の名称を、国家試験であることを…

経過規定(9)

(4) 指定区域に関する経過規定 区域指定を行い、その区域内で一定の規制を行うこととする条例を制定していたが、その条例を全面的に改めた際に、旧条例に基づく指定等については、新条例に基づいて当該区域を指定するまでは旧条例はなお効力を有することとし…

経過規定(7)

イ 附属機関の性格に変更がある場合 次の法令の規定は、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律の制定の際に、同法に基づく事項を審査する審査会について、従来の情報公開審査会を改組して情報公開・個人情報保護審査会とした場合における経過規定で…

経過規定(6)

3 具体的な経過規定の例 (1) 施行日前に一定の行為をすることができる旨の経過規定 ある行為等について許可制を採ることとした場合、当該行為等を施行日にしたい者もいるため、法律では次のような経過規定を置くことがある。 第○条の許可の手続は、この法律…

「新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態」の表記(下)

2 内容における不自然さ 法第31条の4第1項の新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態についての要件は、新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(令和3年政令第28号による改正後のものであり、以下「政令」という。)第5…

「新型インフルエンザ等まん延防止重点措置を集中的に実施すべき事態」の表記(上)

「新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態」がよく分からない。その理由は、単純に書き振りからくる分かりにくさと内容における不自然さがあるように思う。 1 書き振りからくる分かりにくさ 新型インフルエンザ等まん延防止等重…

経過規定(5)

(3) 「経過措置の対象となっている本則の規定の書きぶりを意識すること」について 原課における経過規定に関する案は、往々にして本則の書きぶりを無視したようなものが多かった。実務では、例規そのものではなくマニュアルに頼っているということはよく言わ…

経過規定(4)

((2)「経過措置が必要な項目を具体的に拾い出すこと」についての続き) 前回の例2について具体的にどのように書くかであるが、前回記載した1から7までに該当するケースが限定されるのであれば、当該ケースごとに具体的に書いていけばいいことになる。 1…

経過規定(3)

((2)「経過措置が必要な項目を具体的に拾い出すこと」についての続き) 他の自治体の表彰規則は、次のような書きぶりになっていた。 <例2> (市政有功表彰) 第3条 市政有功表彰は、次の各号の一に該当する者に対し、その功労を表彰する。 (1) 市長とし…