3 具体的な経過規定の例
(1) 施行日前に一定の行為をすることができる旨の経過規定
ある行為等について許可制を採ることとした場合、当該行為等を施行日にしたい者もいるため、法律では次のような経過規定を置くことがある。
第○条の許可の手続は、この法律の施行前においても行うことができる。
しかし、事前届出制を採ることとした場合に同様の経過規定を置いている例は見たことがない。届出制であっても当該行為等を施行日にしたい場合もあると思うが、上記のような経過規定が置かれないのは、届出であれば行政庁に到達すれば足りるため、あえて規定するまでもないと考えているのかもしれないし、施行日前後であればあえて事前に届出をさせなくてもいいと考えているのかもしれない*1。
ただし、届出制の場合であっても、一定期間着手制限をかけ、必要に応じ行政命令等の規定を置くような場合には、当該届出に係る行為の着手時期との関係で、行為者が施行日前に届出を行いたいという場合もあるだろうから、経過規定を置くべき場合もあると思う。
その場合の経過規定としては、上記と同様に「第○条の届出は、この条例の施行前においても行うことができる。」といった規定が基本となるが、合わせてそれに付随した手続(行政命令等)を行うことができる旨の規定を併せて置くことになるだろう。具体的には、環境影響評価法附則第5条の規定などが参考になる。
(2) 附属機関に関する経過規定
附属機関に関する規定の改正等を行った場合に、所要の経過規定を置く必要があることがあるが、その書き方については、附属機関の性格に変更がある場合とない場合とに分類することができる。
ア 附属機関の性格に変更がない場合
附属機関の根拠規定に変更等があった場合、その性格に変更がない場合であっても経過規定を置くことが通例である。具体的に法令の事例を見てみると、男女共同参画社会基本法が制定され、男女共同参画審議会の設置根拠が同法となった際の経過規定は次のとおりである。
男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)
附 則
(経過措置)
第3条 前条の規定による廃止前の男女共同参画審議会設置法(以下「旧審議会設置法」という。)第1条の規定により置かれた男女共同参画審議会は、第21条第1項の規定により置かれた審議会となり、同一性をもって存続するものとする。
2 この法律の施行の際現に旧審議会設置法第四条第一項の規定により任命された男女共同参画審議会の委員である者は、この法律の施行の日に、第23条第1項の規定により、審議会の委員として任命されたものとみなす。この場合において、その任命されたものとみなされる者の任期は、同条第二項の規定にかかわらず、同日における旧審議会設置法第4条第2項の規定により任命された男女共同参画審議会の委員としての任期の残任期間と同一の期間とする。
3 この法律の施行の際現に旧審議会設置法第5条第1項の規定により定められた男女共同参画審議会の会長である者又は同条第3項の規定により指名された委員である者は、それぞれ、この法律の施行の日に、第24条第1項の規定により審議会の会長として定められ、又は同条第3項の規定により審議会の会長の職務を代理する委員として指名されたものとみなす。
上記の経過規定は、審議会の同一性の規定のほか、その委員について所要の規定を置いているが、現在は、次のように審議会の同一性の規定を置くのみとするのが通例となっていると思われる*2。
内閣の重要政策に関する総合調整等に関する機能の強化のための国家行政組織法等の一部を改正する法律(平成27年法律第66号)
附 則
(情報公開・個人情報保護審査会設置法の一部改正に伴う経過措置)
第2条 この法律の施行の際現に第22条の規定による改正前の情報公開・個人情報保護審査会設置法第2条の規定により置かれている情報公開・個人情報保護審査会は、第22条の規定による改正後の情報公開・個人情報保護審査会設置法第2条の規定により置かれる情報公開・個人情報保護審査会となり、同一性をもって存続するものとする。