自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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「もの」

 『自治実務セミナー2021.1』で北村喜宣教授が「空家等対策の推進に関する特別措置法」第2条第1項の規定に関し興味深い指摘をされている。同項の規定は、次のとおり「空家等」の定義を定める規定である。

 この法律において「空家等」とは、①建築又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及び②その敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。

 北村教授は、一般的には上記ただし書に定める適用除外対象は、下線部①及び②の両方であると解されているとしつつ、次のように述べる。

 2条1項によれば、適用除外されるのは、「もの」である。その「もの」は、下線部①のみを指し、下線部②までは含んでいない。かりに、下線部②までを含む趣旨であるならば、「国又は地方公共団体が所有し、又は管理するもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)を除く。」と規定すべきである。あるいは、(少々奇異であるが)下線部②の最後を「……を含む。)(以下「もの」という。)をいう。」と規定すべきである。

 つまり、ただし書では「もの」と表記しているので、それは直近にある下線部①の「もの」と同義だという考え方なのであろう。しかし、私は、上記の一般的見解でいいのではないかと感じている。

 法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』(P802)には、「もの」が使用されるのは、次のような場合であるとされている。

  1. 「者」又は「物」には当たらない抽象的なものを指す場合、あるいは、これらのものと「物」とを含めて指す場合
  2. ある行為等の主体となるものとしての人格のない社団又は財団を指す場合、あるいは、これらと個人、法人とを含めて指す場合
  3. あるものに更に要件を重ねて限定する場合(いわゆる「…で…もの」の「もの」)

  下線部①における「もの」は3の意味で、ただし書における「もの」は1の意味で用いられており、そうすると必ずしもただし書の「もの」を下線部①の「もの」と同義と考える必要はないと思う。仮に、適用除外対象を下線部①のみとするのであれば、その箇所で「……常態であるもの(国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。)」と書くのが簡便だろう。

 用語の定義において一定の事項を除こうとする場合には、ただし書で書くのではなく、上記規定であれば「……物を含む。)」に続けて括弧書きで「国又は地方公共団体が所有し、又は管理するもの」を除くことを考えるのが普通だと思う。しかし、それでは下線部①も適用除外対象となるのか疑義が生じるため*1、ただし書で書いたのではないかと思うが、そこで「もの」としてしまったため疑義が生じた事例である*2

 例えば次のように書けば、両方を適用除外対象とすることは明らかであり、上記のような疑義は生じないと思う。

 この法律において「空家等」とは、次に掲げるもの(国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。)をいう。

(1) 建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの

(2) 前号に掲げるものの敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。) 

*1:ただし、「これらのもののうち、……を除く。」とでもすれば疑義が生じることはないとは思う。

*2:なお、下線部①のみ適用除外対象とするのであれば、その「もの」は「…で…もの」の「もの」であるため、ただし書は「もの」ではなく「建築物又はこれに附属する工作物」とすべきだろう。また、ただし書における「もの」は、「物」としてもよかったのかもしれない。