自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

「新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態」の表記(下)

2 内容における不自然さ

 法第31条の4第1項の新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態についての要件は、新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(令和3年政令第28号による改正後のものであり、以下「政令」という。)第5条の3第2項に次のように記載されている。

 法第31条の4第1項の新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態についての政令で定める要件は、当該新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施しなければ、同項の特定の区域(以下この項において単に「特定の区域」という。)が属する都道府県における新型インフルエンザ等感染症の患者及び無症状病原体保有者(感染症法第6条第11項に規定する無症状病原体保有者をいう。以下この項において同じ。)、感染症法第6条第8項に規定する指定感染症(法第14条の報告に係るものに限る。)の患者及び無症状病原体保有者又は感染症法第6条第9項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)の所見がある者(以下「感染症患者等」という。)の発生の状況、当該都道府県における感染症患者等のうち新型インフルエンザ等に感染し、又は感染したおそれがある経路が特定できない者の発生の状況、特定の区域における新型インフルエンザ等の感染の拡大の状況その他の新型インフルエンザ等の発生の状況を踏まえ、当該都道府県において新型インフルエンザ等の感染が拡大するおそれがあると認められる場合であって、当該感染の拡大に関する状況を踏まえ、当該都道府県の区域において医療の提供に支障が生ずるおそれがあると認められるときに該当することとする。

 政令第5条の3第2項は、「……場合であって、……とき」とあるように仮定的条件を重ねて用いる文章となっているが、要は「当該都道府県において新型インフルエンザ等の感染が拡大するおそれがあると認められる場合であって、当該都道府県の区域において医療の提供に支障が生ずるおそれがあると認められるとき」に該当することを要件としている。

 しかし、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置は、都道府県の区域のうちさらに特定の区域について行うものであり、当該特定の区域における新型インフルエンザ等のまん延が当該特定の区域の属する都道府県における医療の提供に支障を生じる場合を要件とすべきだろうから、次のような表現とすることが考えられる。

 法第31条の4第1項の新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態についての政令で定める要件は、当該新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施しなければ、同項の特定の区域(以下この項において単に「特定の区域」という。)における新型インフルエンザ等の感染が拡大するおそれがあると認められる場合であって、当該感染の拡大が当該特定の区域が属する都道府県における新型インフルエンザ等感染症の患者及び無症状病原体保有者(感染症法第6条第11項に規定する無症状病原体保有者をいう。以下この項において同じ。)、感染症法第6条第8項に規定する指定感染症(法第14条の報告に係るものに限る。)の患者及び無症状病原体保有者又は感染症法第6条第9項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)の所見がある者(以下「感染症患者等」という。)の発生の状況、当該都道府県における感染症患者等のうち新型インフルエンザ等に感染し、又は感染したおそれがある経路が特定できない者の発生の状況その他の新型インフルエンザ等の発生の状況を踏まえ、当該都道府県の区域において医療の提供に支障が生ずるおそれがあると認められるときに該当することとする。

 しかし、いずれにしろ中身は抽象的であり、意味があるとは思えない規定である。要件は具体的に定めるのではなく、総合的に判断することとしたいのだろうが、そうであれば、せっかく学識経験者を委員とする新型インフルエンザ等対策推進会議を法に位置付けたのであるから、当該会議の意見を聴くようにすれば多少抽象的であっても許容されるのではないかと感じる。

「新型インフルエンザ等まん延防止重点措置を集中的に実施すべき事態」の表記(上)

 「新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施すべき事態」がよく分からない。その理由は、単純に書き振りからくる分かりにくさと内容における不自然さがあるように思う。

1 書き振りからくる分かりにくさ

 新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施すべき事態に関する規定は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(令和3年法律第5号による改正後のものであり、以下「法」という。)第31条の4第1項に規定されているが、この規定を新型インフルエンザ等緊急事態に関する規定である法第32条第1項の規定と比較してみる。

法第31条の4第1項

 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章及び次章において同じ。)が国内で発生し、特定の区域において、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある当該区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するため、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるときは、当該事態が発生した旨及び次に掲げる事項を公示するものとする。

 (1)~(3) (略)

法第32条第1項

 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第5項及び第34条第1項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。

 (1)~(3) (略)

  現在なされている緊急事態宣言の解除後には新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施すべき事態に移行するといった報道も見受けられるが、そうした場合を想定した書き方になっていないように思われる。ただ、それは触れないこととする。

 法第31条の4第1項は、私には読みにくい文書だが、その原因は2点あるように感じる。

 1点目は、法第31条の4第1項の書き振りは当然法第32条第1項を参考にしているのだろうが、法第32条第1項の「おそれがあるもの」の「もの」は「事態」を指しているのに対し、法第31条の4第1項は「おそれがある……まん延」となってしまったことによる不自然さである。

 2点目は、「……防止するため、」という文言はその直後の「新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要がある」にかかっていくのであろうが、読点で文章を切ってしまっているため、どこにかかっていくのか分かりにくくなっている点である。

 以上の点を考慮して、次のように書けば少しは分かりやすくなるのではないかと思う。

 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等……が国内で発生し、特定の区域において、それがまん延すると国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがあり、そのまん延を防止するためには新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を集中的に実施する必要があるものとして政令で定める要件に該当する事態が発生したと認めるときは、当該事態が発生した旨及び次に掲げる事項を公示するものとする。

 (1)~(3) (略)

 

自治体の機関

1 機関の性格等

機関名 性格 任命権 規則・規程制定権*1 事務局*2 附属機関の設置 所属職員への事務委任
首長 執行機関(地自法138条の4第1項・139条) 有(地公法6条1項) 規則(地自法15条1項) 可(地自法138条の4第3項) 可(地自法153条1項)
教育委員会 執行機関(地自法138条の4第1項・180条の5第1項1号、地教行法2条) 有(地公法6条1項) 規則(地教行法15条1項) 必置(地教行法17条1項) 可(地自法138条の4第3項) 可(地教行法25条)
公安委員会 執行機関(地自法138条の4第1項・180条の5第2項1号、警察法38条1項) 有(警視総監・本部長)(地公法6条1項) 規則(警察法38条5項) 警視庁・警察本部(警察法47条1項) 可(地自法138条の4第3項)
選挙管理委員会 執行機関(地自法138条の4第1項・180条の5第1項2号・181条1項) 有(地公法6条1項) 規程(地自法194条) 不可(地自法191条1項参照) 可(地自法138条の4第3項) 可(地自法193条・153条1項)
監査委員 執行機関(地自法138条の4第1項・180条の5第1項4号・195条1項) 有(代表監査委員)(地公法6条1項) 都道府県:必置、市町村:任意(地自法200条1項・2項) 可(地自法138条の4第3項) 可(地自法201条・153条1項)
人事委員会(公平委員会) 執行機関(地自法138条の4第1項・180条の5第1項3号、地公法7条1項~3項) 有(地公法6条1項) 規則(地公法8条5項) 人事委員会:必置(地公法12条1項)*3公平委員会:不可*4 可(地自法138条の4第3項) 特定の事務について事務局長に対してのみ可(地公法8条3項・4項)
労働委員会 執行機関(地自法138条の4第1項・180条の5第2項2号、労組法19条の12第1項) 規則(労組法26条2項) 必置(労組法19条の12第6項・19条の11第1項) 可(地自法138条の4第3項)
その他の委員会 執行機関*5 規程:収用委員会(土地収用法59条)、農業委員会(農委法34条) 不可*6 可(地自法138条の4第3項)
議会 議事機関 有(議長)(地公法6条1項) 会議規則・傍聴規則(地自法120条・地自法130条3項) 都道府県:必置、市町村:任意(地自法138条1項・138条2項) 不可
公営企業管理者 長の補助機関(地公企法7条)*7 有(地公企法15条) 管理規程(地公企法10条) *8 可(地公企法14条) 可(地公企法13条2項)
会計管理者 長の補助機関(地自法168条1項) 不可 可(長が行う。)(地自法171条4項)

2 機関相互の関係

 (1) 事務の委任・補助執行

  ア 首長の事務の委任・補助執行

    対行政委員会(委員):可(地自法180条の2)

    対管理者:可(補助期間である以上当然)

  イ 行政委員会(委員)の事務の委任・補助執行

    対首長:可(地自法180条の7)

    対行政委員会(委員):不可

    対管理者:想定されない。

  ウ 管理者の事務の委任・補助執行は、想定されない。

  エ 議会は、その事務の委任等及び他機関の受任等のいずれも不可

  (2) 職員の兼務

   いずれも可(長と行政委員会(委員)は、規定あり(地自法180条の3)。その他は解釈によるが、長と管理者は補助期間である以上当然であり、その他は兼務が認められている趣旨による 。) 

*1:規則・規程の制定権がなくても、告示を発出することは可能と一般的に考えられている。

*2:名称必置と考える必要はないと思われる。なお、事務局が設置不可の機関であっても事務局という名称の組織を置いている例はある。

*3:都道府県及び政令指定都市以外は任意:地公法12条4項

*4:競争試験等を行う公平委員会については設置可:地公法12条6項

*5:収用委員会(地自法138条の4第1項・180条の5第2項3号、土地収用法51条1項)、海区漁業調整委員会(地自法138条の4第1項・180条の5第2項4号、漁業法13条1項)、内水面漁場管理委員会(地自法138条の4第1項・180条の5第2項5号、漁業法171条1項)、農業委員会(地自法138条の4第1項・180条の5第3項1号、農委法3条1項)、固定資産評価審査委員会(地自法138条の4第1項・180条の5第3項2号、地方税法423条1項)。

*6:収用委員会(土地収用法58条1項参照)、海区漁業調整委員会(漁業法137条6項参照)、内水面漁場管理委員会(漁業法137条・137条6項参照)、農業委員会(農委法26条1項参照)。

*7:地方公営企業法及び地方公共団体の財政の健全化に関する法律(公営企業に係る部分)の施行に関する取扱いについて」(昭和27年9月29日自乙発第245号)記第一章第二節二(一)参照

*8:組織の性格上、事務局を置くことは想定できないが、地公企法14条に基づき「企業局」、「企業庁」といった名称の組織を置くところがある。

経過規定(5)

 (3) 「経過措置の対象となっている本則の規定の書きぶりを意識すること」について

 原課における経過規定に関する案は、往々にして本則の書きぶりを無視したようなものが多かった。実務では、例規そのものではなくマニュアルに頼っているということはよく言われるが、その中で、例規の言葉とは別の用語を使うことも多く、そうしたことも影響しているのではないかと思う。しかし、本則の規定を意識するようにしていると、その規定をじっと見ていれば、経過規定の表現はおのずと浮かんでくるようになるものである。

 簡単な例を挙げてみる。条例で「○○手当」を5,000円支給していたが、それを令和3年4月1日から3,000円に改定するが、扶養親族がある者の手当の額は、1年間は4,000円にする経過措置を講ずる場合を考える。

 この改正により、本則の該当規定は次のようになる。

第×条 ○○手当の額は、3,000円とする。

 経過規定は、本則の規定を意識して書こうとすると、第×条の規定のうち手当の額を書き換えて、その経過措置の対象となる期間(令和3年4月1日から令和4年3月31日まで)と者(扶養親族がある者)を書いて、この経過規定が第×条の特則である旨を書けばいいことになる。そうすると、次のようになるであろう。

<例1>

 (令和3年4月1日から)令和4年3月31日までの間における扶養親族がある者の○○手当の額は、この条例による改正後の△△条例第×条の規定にかかわらず、4,000円とする。

 本則の書きぶりに即して書くと上記のとおりとなるが、もっと合理的な書き方ができないか考えてみると、例えば、よくある読替え適用の形で書けば、次のようになる。

<例2>

 (令和3年4月1日から)令和4年3月31日までの間における扶養親族がある者に対するこの条例による改正後の△△条例第×条の規定の適用については、同条中「3,000円」とあるのは、「4,000円」とする。

  これは、非常に単純な例なので、例2はそれほど合理的にはなっていないが、そのほかニュアンスの違い(例1だと一定期間に限り第×条の特例を定めた感じになるのではないか。事実、見出しも「経過措置」とせずに、「○○の特例」とする場合もある)などを考えて、書き方を決めていくことになる。

 そして、経過措置の必要な事項が経過措置の対象とする者やその期間等に応じて増え、複雑になる場合には、その事項ごとにどのような経過規定になるか考えていき、適宜まとめていけばよいのである。

 なお、以前複雑な経過規定を書かなければいけなかったときに参考にした例を掲げておく。

   雇用保険法等の一部を改正する法律(平成6年法律第57号)

   附 則

 (特例一時金の額に関する経過措置)

第9条 特例受給資格に係る離職の日が施行日前である特例受給資格者(以下「旧特例受給資格者」という。)に対する新雇用保険法第40条の規定の適用については、次の各号に定めるところによる。

 (1) 第40条第1項の規定の適用については、同項中「第15条第1項に規定する受給資格者」とあるのは「雇用保険法等の一部を改正する法律(平成6年法律第57号)附則第2条に規定する旧日額対象の旧受給資格者」と、「第16条から第18条まで」とあるのは「同条」とする。

 (2) 第40条第2項の規定は、適用しない。

 もちろん、項で書いていってもいいのだが、各号で書く利点は、複数の経過措置に共通な事項を何度も書かなくていいということである。

経過規定(4)

((2)「経過措置が必要な項目を具体的に拾い出すこと」についての続き)

  前回の例2について具体的にどのように書くかであるが、前回記載した1から7までに該当するケースが限定されるのであれば、当該ケースごとに具体的に書いていけばいいことになる。

 1から7までの全てのケースを網羅する経過規定とするには、助役又は収入役であった場合も従前と同様に表彰対象とし、かつ、その後市長とか副市長になった場合に助役又は収入役としての在職期間を通算することができるようにすることになる。

 一番簡単に書くとすると、次のようになるだろう。

<例3>

 (経過措置)

2 助役又は収入役として在職した者に対するこの規則による改正後の△△規則第3条及び別表の規定の適用については、同条中「副市長」とあるのは「副市長、助役、収入役」と、同表中‥‥(必要な読替え)‥‥とする。

  これに対し、地方自治法の改正が、助役に代えて副市長を置くこととし、収入役を廃止するものであることであるから、それにこだわって書こうとすると、助役は副市長とみなし、収入役も従来どおり表彰対象にするという感じになるであろうから、次のように書くことになるかと思う。

<例4>

 (経過措置)

2 助役として在職した者の当該在職期間は、この規則による改正後の△△規則(次項において「新規則」という。)第3条及び別表の規定の適用については、副市長としての在職期間とみなす。

3 収入役として在職した者に対する新規則第3条及び別表の規定の適用については、同条中「副市長」とあるのは「副市長、収入役」と、同表中‥‥(必要な読替え)‥‥とする。

  ただ、1のケースは、あくまでも助役に在職したことについて表彰するというのが素直であろうし、収入役に係る規定とのバランスからしても、例4はこだわり過ぎといった感じはする。

 なお余談だが、規則自体の書き方として、例1よりも例2の方がきちんと書いていて良いと思ったかもしれないが、きちんと書いたことにより後のフォローが大変で、必ずしも良いとはいえないことが分かると思う。もちろん、事案によっては詳細に定めなければいけないこともあるのだが、改正することも考えて(さらに他の人が担当することも考えて)、どの程度書くか考えなければいけないことを感じさせてくれる例でもあると思う。

 

経過規定(3)

((2)「経過措置が必要な項目を具体的に拾い出すこと」についての続き)

他の自治体の表彰規則は、次のような書きぶりになっていた。

<例2>

 (市政有功表彰)

第3条 市政有功表彰は、次の各号の一に該当する者に対し、その功労を表彰する。

  (1) 市長として8年以上在職した者

  (2) (略)

  (3) 助役、収入役及び教育長として12年以上在職した者

  (4) (略)

 (在職年数の計算)

第6条 (略)

2 第3条各号に掲げる公職のうち2以上の職歴を有する者に対する在職年数については、在職年月数換算表(別表)に掲げる率により、最後の資格による在職年数に換算して算定するものとする。*1

別表 (略)(市長が助役又は収入役として在職したことがある場合は、その在職期間の3分の2を通算することとしている。)

 例2の場合は、例1の第11号のようないわゆるバスケットクローズ規定がなく、表彰の対象とする者を全て書ききっているため、第3条第3号の「助役、収入役」を「副市長」に改め(当然、別表も所要の改正をする必要がある)、表彰の対象としたい者をすべて網羅するように経過規定を書く必要がある。

 では、この改正関係で経過措置として表彰の対象としたい者としてどのような者がいるかというと、次の者が考えられる(なお、いわゆる三役以外の職に在職した場合も表彰の対象になることがあるのだが、それは除外することにする)。

  1. 助役として12年以上在職した者
  2. かつて助役として在職した者が副市長となった場合(地方自治法の一部を改正する法律(平成18年法律第53号)の施行の際に助役であった者が附則第2条の規定により副市長として選任されたものとみなされた場合を含む。)で、助役としての在職期間と副市長としての在職期間を通算して12年以上となる者
  3. かつて助役として在職した者(その後副市長となった者を含む。)が、市長となり、助役(及び副市長)としての在職期間の3分の2に相当する期間と市長としての在職期間を通算して8年以上となる者
  4. 1~3で、収入役としての在職期間があるときに、その期間を通算して所定の期間以上となる者
  5. 収入役として12年以上在職した者
  6. かつて収入役として在職した者が副市長となり、収入役としての在職期間と副市長としての在職期間を通算して12年以上となる者
  7. かつて収入役として在職した者(その後副市長となった者を含む。)が、市長となり、収入役(及び副市長)としての在職期間の3分の2に相当する期間と市長としての在職期間を通算して8年以上となる者

 このように書き出してみると、この事例は、あまり複雑なケースではないことが分かる。だから、このように書き出してみなくても経過規定を書くことができるだろう(具体的な書き方は次回に記載する)。

 ただし、書き出してみた結果、実際には考慮する必要がないケースも出てくるだろうから(5に該当する者はすべて表彰済みである場合など)、具体的に考慮しなければいけない場合のみ意識して、それを最低限網羅できる経過規定を書くようにすることが重要になる。例えば、処分等に関する経過規定として、「この条例による改正前の○○条例の規定によってした処分、手続その他の行為であって、この条例による改正後の○○条例の規定に相当の規定があるものは、これらの規定によってした処分、手続その他の行為とみなす。」というざっくりとした規定を置くことがあり、これは、その対象となる事項が相当数あるからこのような書き方をするのだが、具体的にどのような事項が対象になっているかは、分かりにくい感じは否めない。その対象となる事項が少なければ少ないほど該当規定を引用するなどして丁寧に書くことができるので、当然分かりやすくなり、その方が適切であることは明らかであろう。

 また、経過規定というと「従前の例による」という文言を使うことを思い浮かべるが、このように書き出してみると、2や6のケースは「従前の例による」という文言ではうまく表現できないことが分かるので、具体的に書き出してみることは訳の分からない経過規定になってしまうようなミスを防ぐ上でも有効である。

*1:「最後の資格」と「換算」という言葉があまりよくないような感じがする。きちんと書こうとすると、以前に他の職にあった場合には、その在職年数も通算する旨とその通算する方法を規定することになると思う。そして、通算する方法の書き方は、かなり複雑になるが、これ以上は本題とは関係ないので省略する。

「もの」

 『自治実務セミナー2021.1』で北村喜宣教授が「空家等対策の推進に関する特別措置法」第2条第1項の規定に関し興味深い指摘をされている。同項の規定は、次のとおり「空家等」の定義を定める規定である。

 この法律において「空家等」とは、①建築又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及び②その敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。

 北村教授は、一般的には上記ただし書に定める適用除外対象は、下線部①及び②の両方であると解されているとしつつ、次のように述べる。

 2条1項によれば、適用除外されるのは、「もの」である。その「もの」は、下線部①のみを指し、下線部②までは含んでいない。かりに、下線部②までを含む趣旨であるならば、「国又は地方公共団体が所有し、又は管理するもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)を除く。」と規定すべきである。あるいは、(少々奇異であるが)下線部②の最後を「……を含む。)(以下「もの」という。)をいう。」と規定すべきである。

 つまり、ただし書では「もの」と表記しているので、それは直近にある下線部①の「もの」と同義だという考え方なのであろう。しかし、私は、上記の一般的見解でいいのではないかと感じている。

 法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』(P802)には、「もの」が使用されるのは、次のような場合であるとされている。

  1. 「者」又は「物」には当たらない抽象的なものを指す場合、あるいは、これらのものと「物」とを含めて指す場合
  2. ある行為等の主体となるものとしての人格のない社団又は財団を指す場合、あるいは、これらと個人、法人とを含めて指す場合
  3. あるものに更に要件を重ねて限定する場合(いわゆる「…で…もの」の「もの」)

  下線部①における「もの」は3の意味で、ただし書における「もの」は1の意味で用いられており、そうすると必ずしもただし書の「もの」を下線部①の「もの」と同義と考える必要はないと思う。仮に、適用除外対象を下線部①のみとするのであれば、その箇所で「……常態であるもの(国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。)」と書くのが簡便だろう。

 用語の定義において一定の事項を除こうとする場合には、ただし書で書くのではなく、上記規定であれば「……物を含む。)」に続けて括弧書きで「国又は地方公共団体が所有し、又は管理するもの」を除くことを考えるのが普通だと思う。しかし、それでは下線部①も適用除外対象となるのか疑義が生じるため*1、ただし書で書いたのではないかと思うが、そこで「もの」としてしまったため疑義が生じた事例である*2

 例えば次のように書けば、両方を適用除外対象とすることは明らかであり、上記のような疑義は生じないと思う。

 この法律において「空家等」とは、次に掲げるもの(国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。)をいう。

(1) 建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの

(2) 前号に掲げるものの敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。) 

*1:ただし、「これらのもののうち、……を除く。」とでもすれば疑義が生じることはないとは思う。

*2:なお、下線部①のみ適用除外対象とするのであれば、その「もの」は「…で…もの」の「もの」であるため、ただし書は「もの」ではなく「建築物又はこれに附属する工作物」とすべきだろう。また、ただし書における「もの」は、「物」としてもよかったのかもしれない。