自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

経過規定(2)

2 経過規定の書き方

 (1) 総括

 経過規定を書く場合には、次の事項に留意する必要がある。

  ア 経過措置が必要な項目を具体的に拾い出すこと。

 言うまでもないことだが、経過措置が必要かどうかは、項目ごとに検証していく必要がある。経過規定をどのように書いたらいいか分からなくなるのは、経過措置が必要な項目を具体的に意識していないからだろう。

 そして、経過規定は、新規制定の場合よりも、改正の場合の方が数倍難しいと思う。それは、改正の前後の規定を見比べて、具体的に経過措置を置く必要があるかどうかを判断しなければいけないからである。これは、新旧対照表を見ていくときに、経過措置の要否も併せて意識するなどして、地道に、逐一チェックしていくほかないのではないだろうか。そのような作業を重ねていくと、次第に改正内容を見た段階で、どんな経過措置が必要か思い浮かぶようになっていくものである。

   イ 経過措置の対象となっている本則の規定の書きぶりを意識すること。

 実際に経過規定を書く段階では、経過措置の対象となっている本則の規定の書きぶりを十分に意識することが大切である。本則の規定の書きぶりと経過規定の書きぶりが相違している例はよく見受けられるところである。

  (2) 「経過措置が必要な項目を具体的に拾い出すこと」について

 経過規定がうまく書けない最大の理由は、経過措置が必要な項目を具体的に拾い上げることをせずに、何となく書こうとするからではないかと思う。その項目を具体的に拾い上げれば、かっこよく書こうとせずに、それを項で並べて書いておくだけでも十分であろう。また、具体的に拾い出してみると、あえて経過規定を置くこともないと判断できるケースもある。

 具体的な事例として、表彰規則において、従来助役又は収入役に一定の期間在職した場合に表彰の対象としている場合に、地方自治法の改正により、助役に代えて副市長を置くこととし、収入役を廃止したことに伴いどのような経過規定が必要か考えてみる。

 ある自治体の表彰規則は、次のような書きぶりになっていた。

<例1>

 (表彰の種類及び基準)

第2条 個人又は団体で、次の各号のいずれかに該当する者について選考の上表彰する。

 (1)  (略)

 (2)  市長の職に8年以上在職し、又は助役若しくは収入役の職に10年以上在職し、その功績顕著なる者

 (3)~(10) (略)

 (11)その他市制の発展に尽力し、特に表彰することを適当と認めた者

  例1の規則では、助役と収入役とを合わせて10年やった場合も当然表彰対象にすると思うので、通常は、助役又は収入役の職にあった期間は副市長の職にあった期間とみなす経過規定を置くことを考えることになる。

 しかし、第2条各号に規定する職の複数に在職した場合の期間の通算の規定はないので、その場合は第11号該当とするのであろう。また、市長としての在職期間は8年に満たないが、助役を何年かやっていた場合も対象にするときがあるだろうから、それも第11号該当ということになる。

 そうすると、第2条の「助役若しくは収入役」を「副市長」に改めることに伴う経過規定を書いたところで、あまり意味はないことになり、経過規定を書かずに、第11号で対応すればよいと考えればよいことになるだろう*1

*1:具体的には内規等で定めるのであろう。

新旧対照表方式と改め文方式の併用~省令改正の事例から

 押印見直しを受けた省令の改正が昨年末の官報を賑わしたが、様式改正の場合は新旧対照表方式によると面倒な面があるため、一の省令の改正の中で条文の改正は新旧対照表方式を用い、様式の改正は改め文方式を用いる例が多い。このように新旧対照表方式と改め文方式を併用するのが一般的になっていると言えるが、なかにはその併用ができない方式もあるように感じる。

 以前(以下の参考記事参照)、省令における新旧対照法方式を次のように分類した。

 

1 改正部分の表記に二重傍線など従来は用いていない符号を用いて新旧対照表を作成する方式

2 改正部分の表記に従来のように傍線のみを用いて新旧対照表を作成する方式

 (1) 1に準じた改正文を用いる方式

 (2) 改正文を「〇〇施行規則の一部を次の表のように改正する。」とする方式

3 新旧対照表を別表として置く方式

 

 新旧対照表方式と改め文方式を併用する場合には新旧対照表に続けて改め文による改正を行うことになるが、冒頭に「〇〇施行規則の一部を次のように改正する。」という改正文を置くとその改正文が改め文方式で改正している部分にもかかっていると考えるのであろう。

 しかし、2(2)の方式だと事情が変わってくる。2(2)は、厚生労働省で用いられている方式であり、「押印を求める手続の見直し等のための厚生労働省関係省令の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第208号)」では一の省令の改正の中で新旧対照表方式と改め文方式を併用している。その場合の改正文は、「〇〇施行規則の一部を次のように改正する。」とし、改行して「次の表のように改正する。」という改正文を置いて新旧対照表を置き、続けて改め文による改正規定を置いている。これは、「〇〇施行規則の一部を次のように改正する。」という改正文は、「次の表のように改正する。」で始まる新旧対照表方式による改正と改め文方式による改正の両方にかける意図なのであろう。

 ここで気になるのは、「……改正する」という文言が複数あることである。一部改正法令における「改正する」は、改正すべき法令の全体を指示して表現する場合に用いられることとされていることからすると(法制執務研究会「新訂ワークブック法制執務(第2版)」(P375)参照)、新旧対照表方式による改正にのみかかる「次の表のように改正する。」の改正文は適切でないことになる。

 もちろん、新旧対照表方式における独自ルールと割り切る考え方もあるが、そうしないのであれば、改正文を、「〇〇施行規則の一部を次のように改正する。」とのみ表記して「次の表のように改正する。」という改正文を置かないことにするか、「〇〇施行規則の一部を次の表及び改め文のように改正する。」とでもせざるを得ない。

 なお、3の方法は原子力規制庁で用いられているが、この方法は新旧対照表方式と改め文方式の併用にはそぐわないだろう。

(参考記事)

2019年5月24日付け記事「省令レベルにおける新旧対照表方式の整理(上)

2019年5月31日付け記事「省令レベルにおける新旧対照表方式の整理(中)

2019年6月8日付け記事「省令レベルにおける新旧対照表方式の整理(下)

経過規定(1)

 経過規定を書く技術は難しく、法制局においても経過規定がうまく書けるようになったら一人前だと言われている(吉田利宏『新法令解釈・作成の常識』(P242)参照)。だが、コツを掴めばうまく書けるようになるのではないかと感じている。

 そんな経過規定について、旧ブログで記載した記事を9回にわたってまとめておくこととする。

 <「自治体法制執務雑感」関連記事>

  • 2007年2月23日付け記事「経過規定について」
  • 2007年2月24日付け記事「経過規定の書き方(その1)」
  • 2007年2月25日付け記事「経過規定の書き方(その2)」
  • 2007年3月3日付け記事「施行日前に一定の行為をすることができる旨の経過規定」
  • 2007年3月11日付け記事「附属機関の設置の場合における経過規定」
  • 2007年3月23日付け記事「特別会計の廃止に伴う経過規定」
  • 2007年3月23日付け記事「指定区域に関する経過規定」
  • 2009年10月9日付け記事「試験の名称を変更した場合の経過規定」

1 経過規定の意義

 経過規定については、法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』(P310)には次のように記載されている。

 法令の制定・改廃により、一挙に今までの法秩序が破壊され、新しい法秩序に移行することには困難を伴うことが多いし、社会生活に混乱を生ずることにもなりかねない。そこで、新たに法令を制定し、又は既存の法令を改廃する場合に、社会生活における従来の秩序が新しい秩序に円滑に移行するように配慮を加える必要が生ずる。例えば、従来の秩序をある程度容認するとか、新しい秩序の設定に暫定的な特例を設けるとかする経過的な措置を定めるのがそれであり、経過規定とは、このような措置をするための規定をいうのである。

 このように経過措置とは、新しい法秩序に円滑に移行するために定める暫定的・経過的な措置をいうのであるが、前掲書(P311)に掲げられている次のような例は、経過措置の代表的なものと考えることができるだろう。

  1. 従来自由であったある種の営業を一般的に禁止し、許可を受けた者でなければこれを営み得ない制度を設ける場合に、従来の営業者に対して、一定期間法令の適用を猶予する等の措置
  2. 社会保険の保険料率を引き上げるに当たって、一挙に引き上げることはしないで、数年がかりで漸次引き上げていく措置

 ただし、このような措置を講ずることは大切ではあるが、講じなかったとしても、法律関係が不明確になったりして困るということはないであろう。例えば、1の措置を講じなければ、既存業者も直ちに許可を受けなければいけないだけであるし、2の措置を講じなければ、保険料率が一挙に引き上がるだけの話である。それに、こうした経過措置をどのようにするかは、原課でも当然関心があることであるから、それなりに検討して原案でも書いてくるので、それを修文すればいいだけのことである。

 しかし、制度の内容等の変更をしたときに、言わば技術的に経過措置を置かなければいけない場合がある。例えば、林修三『例解立法技術』(P473~)には、経過措置の要否を判断する基準として、次のように記載されている。

 許可制等の改正の態様としては、内容面からみて、許可等をする行政主体に変更がある場合、許可等の要件その他その内容に実質的変更がある場合、こういう実質的な変更ではなく単に法文の編成、整理の技術上許可等に関する規定に形式的な変更が行われる場合等があり、形式面からみて、旧法令の廃止、新法令の制定という形式をとる場合、全部改正の形式による場合、一部改正の形式による場合などに区分できる。この改正の内容上の区分と法文上の表現のいかんにより、成文法令として経過措置を要するかどうかが判断されるのである。すなわち、許可等を行う行政主体に変更があった場合には、例外なく経過規定が必要である(規定がなければ、新たに新しい主務の行政機関の許可等を別に受けることを要する。)。改正の形式が法令の廃止、制定の形式をとる場合も同様である(内容上実質的な変更がほとんどない場合にも、経過規定を設けるのが例となっている。)。行政主体に変更がなく、改正の形式としては一部改正の形式をとっている場合には、一概に断定することはできない。例えば、本則の実体規定が、具体的な条項を引用しないで、「何々をするには、何々(行政機関)の許可を受けなければならない」とか、「何々(行政機関)の許可を受けた者でなければ、何々をしてはならない」というような表現になっている場合には、許可等の要件等に実質的な変更があったときも、従前の処分の効力を引き継ぐための経過規定は、必要でない場合が多いと思われる(要件が新たに追加されたような場合に、従前の許可を受けている者でこの要件を満たしていないものがあるときは、逆に、従前の許可の効力を制限するための措置が必要な場合も考えられる。)。これに反し、「第何条の許可を受けた者でなければ、何々をしてはならない」と表現されているようなときは、単に法文整理上その条名に変更があった場合にも、経過規定を置いて、疑問の起こる余地のないようにすべきであろう。

 また、経過措置の中には、それを定めないと、実務を行う上で、困ってしまうものもある。例えば、施行日前に一定の行為ができるようにしておかないと、現実的に事務が進まないという場合があるであろう(実際には、経過規定を置かなかった場合でも何となく運用でごまかしてしまうことも多いだろう)。

 こうした経過措置は、地味なせいか原案には記載されていないことが多いが、このような地味な規定を、漏らすことなく規定していくのが重要になってくると思う。

規制手法~届出制(下)

2 当該行為自体が住民の生命、財産等に影響を及ぼすかどうか分からない場合

 当該行為自体が住民の生命、財産等に影響を及ぼすかどうか分からない場合に、その安全性を確認するために届出制を設けることがある。

 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」では、新規化学物質について届出をさせ、PCB類似の性状を有していないかどうか審査し、その安全性を確認した後でないと、その新規化学物質の製造又は輸入をすることができないという制度を設けている*1

 3 当該行為を一定の方向に誘導しようとする場合

 届出制を採用している法律に景観法がある。この景観法の仕組みに関しては、衆議院国土交通委員会において、竹歳国土交通省都市・地域整備局長の次のような答弁がある。

 このさまざまな新しい仕組みというものは、建築物の建築等の行為自体をとめるものではございませんで、デザインとか色彩について、地域住民の意見を反映させながら策定される地域ごとのルールに適合させていこう、こういうものであるわけでございます。

 景観法は、建築物の建築行為自体を規制するのではなく、そのデザインや色彩を一定の方向に誘導するものであるが、このような場合には届出制が用いられやすいと思われる。

 4 行政として実体は把握したいが、お墨付きを与えたくない場合

 風営法において風俗関連営業を許可制ではなく届出制にしたのは、実態把握の必要はあるものの、公的機関が認めた業種とされたくないためであるとされている*2*3

 

 以上、届出制が用いられている場面を取り上げてみたが、届出制を用いるのは、その対象行為が許可制を採るほどのものではないと判断する場合ということになる。そして、届出制に行政処分をリンクさせるシステムは、効果としては許可制とあまり変わらないとしても、当然その全ての行為に行政処分を課すわけではなく、その必要があるもののみに課すわけであるから、許可制よりも柔軟な対応が可能になるというメリットがあるだろう*4

*1:化審法規研究会『逐条解説化審法』(P4)参照

*2:阿部泰隆『行政の法システム(上)(新版)』(P81)参照。なお、平成18年6月8日に公布された探偵業の業務の適正化に関する法律における探偵業の届出も同様(栗原理恵『ジュリスト(No.1322)』(P65)参照)。

*3:田村泰俊『最新・ハイブリッド行政法』(P241~)では、これらを政策法務的な観点から見た届出制の意味であるとしている。

*4:高知県土地基本条例に基づく協議後開発計画に関してであるが、北村喜宣『分権改革と条例』P238参照

「手続き」と書かない根拠

 SNSで「手続」と書くか「手続き」と書くかについての投稿があり、その中で法文は「手続き」と書くとしている投稿も見られたので、法文は必ず「手続」としなければいけない根拠を記載しておくこととする。

 送り仮名の付け方については、一般の社会生活において現代の国語を書き表すための送り仮名の付け方のよりどころとして「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)が定められており、本件と関係があるのはその本文の通則6である。そこでは「本則*1」は、「複合の語……の送り仮名は,その複合の語を書き表す漢字の,それぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名の付け方による」とされ、「許容*2」として「読み間違えるおそれのない場合は,次の( )の中に示すように,送り仮名を省くことができる」とされている。このように一般社会においては*3、「手続」としても「手続き」としてもよいことになる。したがって、新聞などは本則によって「手続き」と表記するのをルールとしているのだろう*4

 しかし、公用文ではどちらでもいいとはされていない。公用文における送り仮名の付け方については、「公用文における漢字使用等について」(平成22年内閣訓令第1号)の別紙の2に次のように記載され、その記載に続けて「なお、これに該当する語は、次のとおりとする」として「手続」が挙げられている。

2 送り仮名の付け方について

(1) 公用文における送り仮名の付け方は、原則として、「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)の本文の通則1から通則6までの「本則」・「例外」、通則7及び「付表の語」……によるものとする。

ただし、複合の語……のうち、活用のない語であって読み間違えるおそれのない語については、「送り仮名の付け方」の本文の通則6の「許容」を適用して送り仮名を省くものとする。

  そして、昭和48年内閣告示第2号、平成22年内閣訓令第1号等に基づき、「法令における漢字使用等について」(平成22年11月30日付け内閣法制局総総第208号内閣法制次長通知)が発出されており、平成22年内閣訓令第1号と同様の扱いとすることとされており*5、法文では「手続」と書くこととされているのである。

 したがって、現在確認できる法律で「手続き」とされている唯一の例である「国民年金法等の一部を改正する法律(平成12年法律第18号)」附則第1条第2項の規定*6は、単なるミスではなかったかと考えざるを得ないのである*7

*1:本則とは、「送り仮名の付け方の基本的な法則と考えられるものをいう。」

*2:許容とは「本則による形とともに、慣用として行われていると認められるものであって、本則以外に、これによってよいものをいう。」

*3:昭和48年内閣告示第2号の前書きの一は、「この『送り仮名の付け方』は、法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など、一般の社会生活において、『当用漢字音訓表』の音訓によって現代の国語を書き表す場合の送り仮名の付け方のよりどころを示すものである」としている。

*4:時事通信社『最新用事用語ブック(第5版)』(P484)参照

*5:この通知は、内閣提出法律案及び政令案の起案に関するものであるが、議員提出に係る法律案についても同様の表記方法がとられている(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』(P637)参照)。

*6:「第3条の規定による改正後の国民年金法第77条第1項に規定する基本方針及び第7条の規定による改正後の厚生年金保険法第79条の4第1項に規定する基本方針の策定のため必要な手続きその他の行為は、施行日前においても行うことができる。」とする規定。なおこれは、資金運用部資金法等の一部を改正する法律(平成12年法律第99号)附則第28条により追加された規定である。

*7:この改正がなされた当時の平成22年11月30日付け内閣法制局総総第208号内閣法制次長通知に相当する通知は、昭和56年10月1日付け内閣法制局総発第141号内閣法制次長通知であるが(平成22年11月30日付け内閣法制局総総第208号内閣法制次長通知により廃止)、該当部分の記載に変更はない。

規制手法~届出制(上)

 条例で規制手法を定める場合には、その性質から許可制よりも届出制を規定する場合が多いと思われる。そこで、旧ブログの記事で記載した届出制に関する記事のうち、どのような場合に届出制を用いるべきかという点に絞って、現時点での考えをまとめておくことにする。

 <「自治法制執務雑感」関連記事>

 一般的に許可制を採るか届出制を採るかは、強い規制をするべきか、弱い規制で足りるのかといった判断に基づいていると言える*1

 しかし、届出制に行政処分・罰則をリンクさせる立法例があるが、この場合には効果としては許可制とあまり変わらないようなものになってくる。例えば、公害法の多くに届出制が採用されていることについて、大塚直『環境法(第2版)』(P264~)には、次のように記載されている。

 規制の態様として、許可制の方が厳しいと一般的には考えられるが、届出制といっても、届け出さえすれば直ちに行為を適法にすることができるわけではないことにも注意する必要がある。例えば、大防法では、届け出られたばい煙発生施設が排出基準に適合しないと都道府県知事が認めるときは、その計画の変更や廃止を命じうることになっている(9条)。このような事後変更命令付きの届出制は、他の環境法にもみられるが、この種の届出制と許可制とは、届出後一定期間内に命令がなされない限り、申請者が基準を超える行為を適法になしうる点のみが異なるにすぎないわけである。

 そうすると、許可制を採る場合と届出制を採る場合のメルクマールはどこに見出すべきであろうか。阿部泰隆『行政の法システム(上)』(P80)は「許可制ほど強力な手法をおくことが適切でないとか、許認可を付与するかどうかの判断が困難であるとか、許認可事務が膨大になるとかしてその運用が困難ある場合」に届出制が設けられるとする*2

 ここでは、法令で具体的にどのような場合に届出制が採られているか見ていくことにする。

 1 当該行為自体では、住民の生命、財産等に大きな影響を及ぼさない場合

 公害法における規制は、届出制が採用されていることが多い。例えば、水質汚濁防止法は、特定施設等を設置しようとするときは都道府県知事に届け出なければならないとしている(同法第5条)。その届出は、当該施設を設置する60日前に届出をさせることとし(同法第9条第1項)、排水基準に適合しないと認めるときなどには都道府県知事は計画変更命令等を行うことができ(同法第8条)、当該命令に従わない場合には罰則を科すこととしている(同法第30条)。

 大気汚染防止法も基本的には同様の手法を用いているが、このように公害法において届出制が採用されているのは、事業活動を尊重するという趣旨もあると思うが、その者の行為のみでは、住民の生命や健康に被害が生じすることはないからであると考えることができる。

 このように、一定の規制は必要ではあるものの、当該行為自体では、住民の生命、財産等に大きな影響を及ぼさないような場合には、届出制を用いられている。

*1:上田章・笠井真一『条例規則の読み方・つくり方』(P104)は、「ある種の行為又は事業に対する規制として、許可制にすべきか届出制にすべきかについては、その取締対象の社会的条件等から判断して公益上やむを得ない場合には一般的に禁止した上で特定の場合にのみ解除するという許可制をとり、比較的軽微な規制をもって足りると判断される場合には、届出制を採用することとなる」とする。

*2:なお、山本博史『行政手法ガイドブック』(P113~)は、ある行為群の一部が公益に反する可能性がある場合、届出を義務付け、公益に反する行為を抽出し、その行為についてのみ命令をかけていく手法が採られる場合があるとする。

添付書類の特例

 規則の附則(制定附則)に次の規定を追加する改正規則を見かけた*1

当分の間、条例第8条の規定による登録の申請(条例第7条第1項の規定により登録を受けようとする場合に限る。)は、第7条第3号の規定にかかわらず、同号に掲げる書類に代えて、登録申請書に市長が別に定める書類を添えて行うことができる。

 この規定は規則第7条の規定の特例を定めるものであるが、同条の規定は次のとおりである。

 

(登録の申請)

第7条 条例第8条の規定による登録の申請(条例第7条第1項の規定により登録を受けようとする場合に限る。)は、登録申請書に次に掲げる書類を添えて行わなければならない。

 (1)・(2) (略)

 (3) 〇〇に関する講習(市長が指定するものに限る。)を受講したことを証する書類

 (4)  (略)

  添付書類の特例として「市長が別に定める書類」とすることが適切かという問題はあるが、上記の附則に追加する規定も一つの書き方ではある。しかし、当該規定は、規則第7条が条件を付けたりしているので、冗長な感じになってしまっている。

 端的に規則第7条第3号の書類を「市長が別に定める書類」に代えてもよいという書き方にするのであれば、次のようにすることができるだろう。

当分の間、第7条に規定する申請において登録申請書に添えなければならない同条第3号に掲げる書類は、同条の規定にかかわらず、同号に掲げる書類に代えて、市長が別に定める書類とすることができる。

 

*1:一部修正を行っている。