自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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本則の規定の失効

   銀行法施行規則等の一部を改正する内閣府令(令和2年内閣府令第39号)

 (銀行法施行規則の一部改正)

第1条 銀行法施行規則(昭和57年大蔵省令第10号)の一部を次のように改正する。

  次の表により、改正後欄に掲げるその標記部分に二重傍線を付した項を加える。

  (表略)

信用金庫法施行規則の一部改正)

第2条 信用金庫法施行規則(昭和57年大蔵省令第15号)の一部を次のように改正する。

  次の表により、改正後欄に掲げるその標記部分に二重傍線を付した項を加える。

  (表略)

(協同組合による金融事業に関する法律施行規則の一部改正)

第3条 協同組合による金融事業に関する法律施行規則(平成5年大蔵省令第10号)の一部を次のように改正する。

  次の表により、改正後欄に掲げるその標記部分に二重傍線を付した項を加える。

   附 則

 (施行期日)

1 この府令は、公布の日から施行する。

 (この府令の失効)

2 この府令は、令和2年9月30日限り、その効力を失う。

 この命令は令和2年4月30日に公布されているが、各条で改正している命令のいずれについても法律が委任している電子決済等代行業に該当しない行為を定める規定を追加するものである。そのうち第1条の規定は、銀行法施行規則第1条の3の3の規定に第2項を追加するものであるが、改正後の同条の規定は、次のとおりである。

 (電子決済等代行業に該当しない行為)

第1条の3の3 法第2条第17項に規定する内閣府令で定める行為は、同項第1号に掲げる行為であつて、次に掲げるものとする。ただし、預金者(法第2条第17項第1号に規定する預金者をいう。以下この条、次条、第34条の64の9第3項第1号及び第34条の64の11において同じ。)から当該預金者に係る識別符号等(銀行が、電子情報処理組織を利用して行う役務の提供に際し、その役務の提供を受ける者を他の者と区別して識別するために用いる符号その他の情報をいう。第34条の64の9第4項第5号において同じ。)を取得して行うものを除く。

 (1)~(4) (略)

2 法第2条第17項に規定する内閣府令で定める行為は、同項第2号に掲げる行為(法第52条の61の2の登録を受けた電子決済等代行業者の行為に限る。)であつて、次の各号のいずれにも該当するものとする。

 (1)~(4) (略)

 令和2年内閣府令第39号附則第2項は、「この府令は、令和2年9月30日限り、その効力を失う」としているので、追加された銀行法施行規則第1条の3の3第2項を令和2年9月30日限りで失効させるという意図なのだろう*1

 令和2年内閣府令第39号附則第2項の書き方の適否を別にすると、おもしろい立法技術とは思うが、本則に失効している規定が残っているのは、はなはだ分かりにくい。

 本則に追加する規定を令和2年9月30日限りで失効させるのであれば、その規定を削る改正規定を重ねて置いて、当該改正規定の施行期日を令和2年10月1日とすることになるのだろうが、普通は原始附則に特例規定を追加するべきだったのだろう。

*1:e-GOV法令検索には、銀行法施行規則第1条の3の3第2項の規定はまだ掲載されているが、効力を失っているということなのだろう。

「……を含む」(上)

 法文では、ある字句に括弧を付けて「……を含む」と表記し、その字句に特定の範囲のものを含ませることがよくある*1

 令和4年1月19日に公布された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律施行令(令和4年政令第25号。以下このシリーズで「政令」という。)」においてこの用語が用いられているが、その用法で2点程気になるところがある。

 次の規定は、政令第14条の規定である。

 (認定自主回収・再資源化事業計画に係る再資源化に必要な行為の委託の基準)

第14条 法第41条第2項の政令で定める基準は、次のとおりとする。

 (1) あらかじめ、使用済プラスチック使用製品(廃棄物処理法第2条第4項に規定する産業廃棄物であるものに限る。次号イからハまでにおいて同じ。)を排出する事業者に対して、当該事業者に係る法第41条第2項に規定する行為を委託しようとする者の氏名又は名称(法人にあっては、その代表者の氏名を含む。)及びその者が認定自主回収・再資源化事業計画に記載されていることを示して、当該委託について当該事業者の書面(環境省令で定める事項が記載されたものに限る。)による承諾を受けていること。

 (2)・(3) (略)

 下線部のとおり、この規定では括弧書きで「法人にあっては、その代表者の氏名を含む」とされている。このような用例は幾つもあるのだが、結構いろいろな読み方ができる書き振りである。字面だけで考えると、「……委託しようとする者の氏名又は名称」というように「者」としているので、一応対象となるのは個人と法人であると考えることにする*2。そうすると括弧の直前の「名称」は「法人の名称」ということになるから、この括弧が「名称」に付されているとするとおかしな表現になるので、「氏名又は名称」に付されていると考えることになる。そうすると、法人の場合には、その名称か代表者の氏名を示せばよいことになりそうである。

 普通に考えるのであれば、法人の場合には「その名称及び代表者の氏名」を示すという意味なのであろうから、次のいずれかのように書くべきではないだろうか。

<案1>

氏名又は名称及び法人にあってはその代表者の氏名*3
<案2>
氏名(法人にあっては、その名称及び代表者の氏名)*4

 

*1:法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』P90参照

*2:ただし、法人格のない団体を含める例もある(「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」第4条第1項第1号参照)。

*3:国家戦略特別区域法第13条第2項第1号(氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名)参照

*4:特定非営利活動促進法第10条第1項第3号(社員のうち10人以上の者の氏名(法人にあっては、その名称及び代表者の氏名)及び住所又は居所を記載した書面)参照

立入検査の規定雑感(下)

 今回は、比較的新しい法律の規定を取り上げる。

 次の規定は、「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律(平成28年法律第101号)」第44条の規定である。

 (立入検査)

第44条 行政庁は、この法律の円滑な実施を確保するため必要があると認めるときは、その職員に金融機関等(金融機関代理業者を含む。第6項において同じ。)若しくは指定活用団体の営業所若しくは事務所その他の施設に立ち入らせ、その業務若しくは財産の状況に関し質問させ、又は帳簿書類その他の物件を検査させることができる。

2 行政庁は、前項の規定による立入り、質問又は検査を行う場合において特に必要があると認めるときは、その必要の限度において、その職員に同項の金融機関等の子会社若しくは当該金融機関等から業務の委託を受けた者の施設に立ち入らせ、当該金融機関等に対する質問若しくは検査に必要な事項に関し質問させ、又は帳簿書類その他の物件を検査させることができる。

3~7 (略)

 上記の規定はあくまでも立入検査の規定であるため、「……立ち入らせ」「……質問させ」「……検査させることができる」が並列になっているのではなく、「……立ち入らせ」で区切られ、「……質問させ」と「……検査させることができる」が並列になっている(「……立ち入らせ」が「……質問させ」と「……検査させることができる」の両方に係っていく)文章であるとするのが素直な読み方であると考えられるので、下線部の「若しくは」は「又は」とすべきということになる。

 また、これまで取り上げた規定とは毛色が違うのだが、次の規定は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)」第32条の規定である。

 (センター等による立入検査等)

32条 農林水産大臣経済産業大臣又は厚生労働大臣は、前条第1項の場合において必要があると認めるときは、独立行政法人農林水産消費安全技術センター独立行政法人家畜改良センター、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、国立研究開発法人水産研究・教育機構独立行政法人製品評価技術基盤機構又は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「センター等」という。)に対し、次に掲げるセンター等の区分に応じ、遺伝子組換え生物等の使用等をしている者又はした者、遺伝子組換え生物等を譲渡し、又は提供した者、国内管理人、遺伝子組換え生物等を輸出した者その他の関係者がその行為を行う場所その他の場所に立ち入らせ、関係者に質問させ、遺伝子組換え生物等、施設等その他の物件を検査させ、又は検査に必要な最少限度の分量に限り遺伝子組換え生物等を無償で収去させることができる。

 (1) 独立行政法人農林水産消費安全技術センター独立行政法人家畜改良センター、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構及び国立研究開発法人水産研究・教育機構 農林水産大臣

 (2) 独立行政法人製品評価技術基盤機構 経済産業大臣

 (3) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 厚生労働大臣

2~5 (略)

 上記の規定の各号は、どの大臣がどのセンター等に立入検査を行わせることができるのかを定めたいのだろうが、その柱書では各号に定める大臣について触れておらず、よく分からない規定になってしまっている。例えば、次のようにすべきだろう。

 次の各号に掲げる大臣は、前条第1項の場合において必要があると認めるときは、当該各号に定めるセンター等*1に、遺伝子組換え生物等の使用等をしている者又はした者、遺伝子組換え生物等を譲渡し、又は提供した者、国内管理人、遺伝子組換え生物等を輸出した者その他の関係者がその行為を行う場所その他の場所に立ち入らせ、関係者に質問させ、遺伝子組換え生物等、施設等その他の物件を検査させ、又は検査に必要な最少限度の分量に限り遺伝子組換え生物等を無償で収去させることができる。

 (1) 農林水産大臣 独立行政法人農林水産消費安全技術センター独立行政法人家畜改良センター、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構及び国立研究開発法人水産研究・教育機構

 (2) 経済産業大臣 独立行政法人製品評価技術基盤機構

 (3) 厚生労働大臣 独立行政法人医薬品医療機器総合機構

 

*1:実際に立入検査を行うのはセンター等の職員になろうが、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」第32条第2項は「……前項の規定によりセンター等に立入検査等を行わせる場合には……」といった表記をしているため、ここではあまりこだわないこととする。

立入検査の規定雑感(上)

 次の規定は、森林病害虫等防除法(昭和25年法律第53号)第6条の規定である。

 (立入検査)

第6条 農林水産大臣又は都道府県知事は、森林病害虫等を駆除し、又はそのまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該官吏又は森林害虫防除員に、森林その他樹木が生育している土地、苗畑又は船車若しくは貯木場、倉庫その他指定種苗若しくは伐採木等を蔵置する場所に立ち入らせ、樹木、指定種苗又は伐採木等を検査させ、又は検査のため必要な最少量に限り、枝条、樹皮若しくは包装又は指定種苗を収去させることができる。

2・3 (略)

 森林病害虫等防除法第6条第1項の規定は、次のような構文の文章となっている。

 (1)「農林水産大臣又は都道府県知事は、」→(2)「森林病害虫等を駆除し、又はそのまん延を防止するため必要があると認めるときは、」→(3)「当該官吏又は森林害虫防除員に、」→(4)「森林その他樹木が生育している土地、苗畑又は船車若しくは貯木場、倉庫その他指定種苗若しくは伐採木等を蔵置する場所に立ち入らせ、」→(5)「①樹木、指定種苗又は伐採木等を検査させ、又は②検査のため必要な最少量に限り、枝条、樹皮若しくは包装又は指定種苗を収去させることができる。」

 (5)の部分は、大きく①と②に区切られるため、「又は」と「若しくは」の使い分けのルールからすると下線部の「又は」は「若しくは」とすべきとなる。

 立入検査の規定は、文章が長くなることが多いので、「又は」「若しくは」の使い方が誤っている例が散見される。

 次の規定は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)の規定である。

 (人事院の調査)

第17条 (略)

② (略)

③ 人事院は、第1項の調査(職員の職務に係る倫理の保持に関して行われるものに限る。)に関し必要があると認めるときは、当該調査の対象である職員に出頭を求めて質問し、又は同項の規定により指名された者に、当該職員の勤務する場所(職員として勤務していた場所を含む。)に立ち入らせ、帳簿書類その他必要な物件を検査させ、又は関係者に質問させることができる。

④・⑤ (略)

 国家公務員法第17条第3項の条件句から後ろの文章は、「……出頭を求めて質問し」のところで大きく区切られるため、その直後が「又は」となり、下線部の「又は」は「若しくは」とすべきということになる。

「前項の場合において」の適否

 「自治実務セミナー(2022年1月)」に、横浜市行政手続条例第32条の規定の書きぶりについて、次のように触れる論稿を見た。

 横浜市行政手続条例32条は、少し異色の規定ぶりとなっている。同条2項が行政手続法33条と同様の規定を置く一方で、横浜市行政手続条例32条1項は、「申請の取下げ又は内容の変更を求めるもの」以外の行政指導一般について、「その相手方が当該行政指導に従わない場合には、その従う意思がない旨の明確な表明の有無、当該行政指導の目的とする公益上の必要性と相手方が受ける不利益との比較等を総合的に判断して、当該行政指導を継続するか否かを決定しなければならない」とする。素直に読むと、一般的な行政指導の継続の可否については総合考慮によって決するのに対し(同条1項)、「申請の取下げ又は内容の変更を求めるもの」については明確な拒絶の意思表示があった場合には継続してはならない(同条2項)とする規律にみえる。

 横浜市行政手続条例第32条の規定は、次のとおりである。

 (行政指導の継続等)

32条 行政指導に携わる者は、その相手方が当該行政指導に従わない場合には、その従う意思がない旨の明確な表明の有無、当該行政指導の目的とする公益上の必要性と相手方が受ける不利益との比較等を総合的に判断して、当該行政指導を継続するか否かを決定しなければならない。

2 前項の場合において、当該行政指導が申請の取下げ又は内容の変更を求めるものであるときは、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を明確に表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。

 第2項の書き出しが「前項の規定にかかわらず」であれば、上記のような読み方になるのかもしれないが、「前項の場合において」であるから、申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導について明確な拒絶の意思表示があった場合において、申請者の権利の行使を妨げるようなときは、行政指導を継続してはならないと読むのが普通の読み方ではないかと思う。つまり、その場合に行政指導を継続する旨の決定をするときは、申請者の権利の行使を妨げないよう留意するということを意図していることになる。

 しかし、「前項の場合において」としたことによって、かえって分かりにくくなっている感じがする。第1項を受けて書きたいのであれば、第2項は次のようにするのではないかと思う。

 行政指導に携わる者は、申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導について、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を明確に表明したにもかかわらず、前項の規定により当該行政指導を継続する旨の決定をするときは、当該申請者の権利の行使を妨げることとならないよう留意しなければならない。

 ただし、この規定は行政手続法第33条の規定を踏まえて定めているものであろうが、同条の規定は、あくまでも行政指導に起因して申請者の権利の行使を妨げないようにするということを意図しているので、このように書いてしまうと、行政指導の継続の可否を決定する際の留意事項に矮小化してしまうことになる。

 それであれば、「前項の場合において」と書かずに、行政手続法第33条をそのまま規定しておいた方がよかったのだろう*1

*1:なお、行政手続法第33条は「申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。」という規定であるが、第1項の書きぶりを考慮するのであれば、書き出しは「行政指導に携わる者は、申請の取下げ……」とすべきだろう。

許可制と届出制

 1952年(昭和27年)5月28日の第13回国会衆議院通商産業委員会運輸委員会連合審査会で次のような議論がなされている。

○關谷委員 航空機製造法案につきまして、本間政務次官にお尋ねをいたしたいと思います。……

 この航空機の製造法案を見ておりますと、通産省が何とかして航空機の生産の行政を所管いたしたいというふうなことについて苦慮いたした跡が歴然と認められるのであります。そのためにいろいろ責任の明確でないような、二重行政というふうな点も現われて参りますし、責任も明確でない。将来これでは航空機行政の混乱が起るのではないか、こういうふうなことがところどころうかがわれるのであります。私はこのような航空機製造法と称するこの法案の内容を見てみますると、まことに矛盾が多いというふうな気持もするのでございますが、良心的に考えて、政務次官はこれを撤回するという御意思があるかどうかということを一度伺つておきたいと思います。

○本間政府委員(通商産業政務次官 お答えを申し上げます。通産省が航空機を所管いたしたいと主張いたしておりますのは、私が当委員会におきましても、いろいろと御説明を申し上げたのでございますが、航空機工業の性格にかんがみまして、通産省が所管をいたしますることが、航空機工業の発達のために必要であるという見解で、私どもは航空機生産はぜひとも通産省にやらしてほしいという主張をいたして来ておるわけでございまするから、その点はどうか御了承を賜わりたいと思う次第でございます。

 それからこの航空機の製造法案を撤回する意思があるかというお尋ねでございますが、これは撤回する意思はございません。

○關谷委員 法案の内容につきまして少しくお尋ねをいたしたいと思うのであります。この航空機製造法案を見ておりますると、第3條によりましてこの事業が届出制になつているのであります。まことに民主的なと申しまするか、非常にやわらかな法律のようにできているのでありまするが、さて一歩内容へ入つて見ますると、その製造の設備については通産省の検査を受け、それに合格した工場でなければ飛行機を生産してはならない、こう書いてあるのであります。

 さらに第8條におきましては、たとえばその検査に合格した工場でつくられた飛行機であつても、通産省の確認がなければ、引渡してはならない、こう書いてあるのでありまするが、届出制と申しながら、このようなことをやつておりますと、許可制以上のものになつて来るのでありまして、私たちこういう点について非常な疑問を持つておるのであります。なお、設備についての検査の問題を取上げて考えてみましても検査に合格しなければ飛行機の生産ができないということになつて参りますと、せつかく各種の設備をして工場をつくつてみたものの、さて検査を受けてみると不合格であるという場合には、通産省の役人の指示に従つていろいろと改良設備をしなければ飛行機をつくれないということになつておるのであります。結局、実質においては製造事業は、許可を得るにあらざれば行えないというようなことになつておるのでありまして、これならば、工場の関係は届出制ということにせずして、むしろこれを許可制として最初からいろいろと指導監督在してこれをつくらす、こういうふうにすることがほんとうであると、私たちは考えるのであります。これは要するに、政府が民業に対してはあまり干渉しないというふうなことを表面で装つてはおるが、実質的にはその効果をねらつておるというようなことでありまして、悪く言えば羊頭を掲げて狗肉を売るというふうなことではないかと、私たちは考えるのであります。この表面は届出制でありながら、第6條に駒いて設備というものを許可制にした理由、どういう考えでこういうふうな法律をつくつたのか、この点について政務次官の御答弁を伺いたい。

○本間政府委員 実はこの法案を準備いたします過程において、許可主義にするか、届出主義によるかということは、非常に議論のあつたところでございます。いろいろ議論またしました結果、許可主義ということよりも、届出主義にいたしまして、そうして御承知のように、飛行機は非常に安全をたつとぶものでございまして、高性能、高品質でなければならぬわけでございます。それから航空機工業は、御承知でもあろうかと思いますが、その性格上マス・プロの施設がどうしても必要でございまする関係上、飛行機生産をしたいという工場を、どういう設備で、どういう方法でやるかということを検査いたしまして、できるだけマス・プロ生産設備で、しかも飛行機の生産方法の一定の基準に合致せしめるような設備をいたさせまして、できるだけ品質と性能の均一性をはかつて参りたい、こういう考えから、一応届出主義にいたしまして、その設備の検査をいたし、ただいま申し上げたような目的に合致さして行きたいという趣旨でございます。

○關谷委員 それなら最初から許可制にして、そうしてこういうふうなことで許可してもらいたい、こういうような設備をすればそれで許可することができる。通産省あたりの意図通りのものができるというようなことで、むしろ許可制にして最初から十分に監督するのが至当であると私は考えるのであります。届出制でありますと、届けつぱなしでいいというようなことになつて参りまして、自然にこういうことをすればこれでやつて行けるというふうな工場の自主性がそこに現われて来るわけでありますが、それがもし通産省の意見と異なつた場合にはいつまで検査を受けてもやらしてくれない、せつかく厖大な設備をしたものが、許可してくれないために飛行機の生産ができない、こういうような矛盾が出て来ると思いますが、この点について政務次官の御見解を承りたいと思います。

○本間政府委員 ただいま御指摘のありましたように、飛行機の特別な性格にかんがみて、最初から許可主義をとつたらいいじやないかということも一つの尊重すべき御意見であろうと思います。しかし御承知のように、航空機工業は非常に莫大な資金をもつて相当大きい設備をいたすわけでございますから、法文の上では届出主義になつておりますが、それらの工場の経営をしたいという所は、かつてに設備をいたしますとか、そして検査を受けるということなしに、事前にいろいろな相談もあろうと思いますし、またその間においているくな指導もできるかと思うのでございまして、届出主義をとつて検査をする方法にいたしましても、御心配のような面は実際の問題としては出ないのじやないか、こう私どもは考えております。

○關谷委員 そういう厖大な設備をし、いろいろ研究してやる仕事でからそのような心配はいらぬというのでありますが、それほど厖大な設備であり、そしていろいろりつぱな技術者も寄り、完全な器具をそろえることになるとすれば、この設備の検査というふうなことはいらないようにもとれるのであります。むしろこういうものは廃止した方がいい。われわれが心配するような懸念がないとすれば、この検査の條文はいらぬものであると考えるのであります。政務次官の御見解を承りたいと思います。

○本間政府委員 許可主義にいたしましても、いろいろな設備をして、その設備が私どもの考えている基準にはずれていればいつまでたつても許可はもらえぬということになるわけでありますから、届出主義によつて設備を検査いたしまして、できるだけ品質及び性能の均一性をはかつて参りたいという考えと、その点はそう違わないのじやないかと私は思うのであります。

 それから届出さえすれば、相当の資金もいるし、相当な設備をするわけだから、あとはどういう生産設備でも、あるいはどういう生産の方法でもいいじやないかとおつしやられますけれども、先ほども申し上げましたように、航空機は非常な安全性をたつとぶものでありますし、航空機工業が成り立つて参ります基本的な要件としては、どうしてもマス・プロの生産方式を採用しなければならぬという基本的な性格もございますので、私どもとしてはやはり一定の基準をつくつておきまして、そしてできるだけ品質及び性能の均一性をはかつて行きたい。それがまた航空機工業が漸次発達して参りまする基本的な要件である、こういうふうに考えておる次第でございます。

○關谷委員 問い方によりますと右になりあるいは左になるような御答弁でありまして、まことに老練な御答弁であることは間違いない。届出制になつておつても非常な設備と尊大な資金を要するのだから、そのような許可をしないでも大体そういう線に持つて行けると一方で言つておるかと思いますと、一方ではこれはどうしても一定の規格にそろえなければならぬというふうなことでありまして、右手と左手とを上手に使いわけておられるようでありますが、私たちとしては届出制にしながら検査をする、許可制にしないでやるというところにはどうしても疑点が晴れないのであります。ここで通産省が非常にこの航空機製造という点に関しましてにらみをきかそうというようなことがありありと現われておることだけは間違いないのでありまして、この上はいかに押問答をいたしましても、これは老練に逃げられると思いますし、見解の相違ということになると思いますので、これ以上は追究いたしません。……

 議論の対象となっている航空機製造法案は、航空機の製造等の事業を行おうとする者に届出義務を課すこととするものであるが、なぜ許可制としなかったのかという質問に対し、説得力のある答弁はしていない。むしろ、行政指導等を行うことにより許可制を採った場合とあまり変わらないといった趣旨の答弁を見ると、どうなのかと思ってしまうが、穿った見方をすると、航空機産業に関与したい通産省に対し運輸省が難色を示し、関与の度合いが低い届出制で妥協したのではないかという省庁間の権限争いの結果ではないかとも感じる。

 いずれにしろ、届出制を採りながら、届出後に何らかの措置をとることによって実質的に許可制と同様の機能を持たせる制度としては、大気汚染防止法等の環境法制に係るものを思い浮かべるが、同様の思考による法制度がかなり早い時期から考えられていたことは興味深い。ただし、本件の届出制は、昭和29年法律第161号により早々に許可制に改められており、その際に法律の題名も現在の航空機製造事業法に改められている。

各号の書き方が適当ではないと思われる例

 次の規定は、「個人情報の保護に関する法律施行令等の一部を改正する等の政令(令和3年政令第292号)」第1条の規定により追加された「個人情報の保護に関する法律施行令」第21条の規定である。

 (開示請求における本人確認手続等)

第21条 開示請求をする者は、行政機関の長等(法第124条の規定により委任を受けた職員があるときは、当該職員。以下この条及び第24条第1項において同じ。)に対し、次の各号に掲げる書類のいずれかを提示し、又は提出しなければならない。

 (1) 開示請求書に記載されている開示請求をする者の氏名及び住所又は居所と同一の氏名及び住所又は居所が記載されている運転免許証、健康保険の被保険者証、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律第2条第7項に規定する個人番号カード、出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)第19条の3に規定する在留カード、日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成3年法律第71号)第7条第1項に規定する特別永住者証明書その他法律又はこれに基づく命令の規定により交付された書類であって、当該開示請求をする者が本人であることを確認するに足りるもの

 (2) 前号に掲げる書類をやむを得ない理由により提示し、又は提出することができない場合にあっては、当該開示請求をする者が本人であることを確認するため行政機関の長等が適当と認める書類

2~5 (略)

 第21条第1項柱書きは、「次の各号に掲げるいずれか」となっているが、同項第2号は、同項第1号の書類の提示等ができない場合の規定であるから、この表記は適切ではないだろう。普通であれば、第2号は別項で書くのだろうが、そうすると、第1号は柱書きで書くことになり、ぐちゃぐちゃになるため、それを避けたのかもしれない*1

 各号をそのままにするのであれば、柱書きは次のようにすべきだろう。

 開示請求をする者は、行政機関の長等……に対し、第1号に掲げる書類(当該書類をやむを得ない理由により提示し、又は提出することができない場合にあっては、第2号に掲げる書類)を提示し、又は提出しなければならない。

 この場合には、第2号の「前号に掲げる書類をやむを得ない理由により提示し、又は提出することができない場合にあっては、」の部分は当然削ることになる。

*1:「運転免許証……交付された書類」の部分を項目ごとに号で書き、その他の部分は柱書きに持っていくのであれば、ある程度解決するとは思う。