自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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「前項の場合において」の適否

 「自治実務セミナー(2022年1月)」に、横浜市行政手続条例第32条の規定の書きぶりについて、次のように触れる論稿を見た。

 横浜市行政手続条例32条は、少し異色の規定ぶりとなっている。同条2項が行政手続法33条と同様の規定を置く一方で、横浜市行政手続条例32条1項は、「申請の取下げ又は内容の変更を求めるもの」以外の行政指導一般について、「その相手方が当該行政指導に従わない場合には、その従う意思がない旨の明確な表明の有無、当該行政指導の目的とする公益上の必要性と相手方が受ける不利益との比較等を総合的に判断して、当該行政指導を継続するか否かを決定しなければならない」とする。素直に読むと、一般的な行政指導の継続の可否については総合考慮によって決するのに対し(同条1項)、「申請の取下げ又は内容の変更を求めるもの」については明確な拒絶の意思表示があった場合には継続してはならない(同条2項)とする規律にみえる。

 横浜市行政手続条例第32条の規定は、次のとおりである。

 (行政指導の継続等)

32条 行政指導に携わる者は、その相手方が当該行政指導に従わない場合には、その従う意思がない旨の明確な表明の有無、当該行政指導の目的とする公益上の必要性と相手方が受ける不利益との比較等を総合的に判断して、当該行政指導を継続するか否かを決定しなければならない。

2 前項の場合において、当該行政指導が申請の取下げ又は内容の変更を求めるものであるときは、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を明確に表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。

 第2項の書き出しが「前項の規定にかかわらず」であれば、上記のような読み方になるのかもしれないが、「前項の場合において」であるから、申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導について明確な拒絶の意思表示があった場合において、申請者の権利の行使を妨げるようなときは、行政指導を継続してはならないと読むのが普通の読み方ではないかと思う。つまり、その場合に行政指導を継続する旨の決定をするときは、申請者の権利の行使を妨げないよう留意するということを意図していることになる。

 しかし、「前項の場合において」としたことによって、かえって分かりにくくなっている感じがする。第1項を受けて書きたいのであれば、第2項は次のようにするのではないかと思う。

 行政指導に携わる者は、申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導について、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を明確に表明したにもかかわらず、前項の規定により当該行政指導を継続する旨の決定をするときは、当該申請者の権利の行使を妨げることとならないよう留意しなければならない。

 ただし、この規定は行政手続法第33条の規定を踏まえて定めているものであろうが、同条の規定は、あくまでも行政指導に起因して申請者の権利の行使を妨げないようにするということを意図しているので、このように書いてしまうと、行政指導の継続の可否を決定する際の留意事項に矮小化してしまうことになる。

 それであれば、「前項の場合において」と書かずに、行政手続法第33条をそのまま規定しておいた方がよかったのだろう*1

*1:なお、行政手続法第33条は「申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならない。」という規定であるが、第1項の書きぶりを考慮するのであれば、書き出しは「行政指導に携わる者は、申請の取下げ……」とすべきだろう。