自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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許可制と届出制

 1952年(昭和27年)5月28日の第13回国会衆議院通商産業委員会運輸委員会連合審査会で次のような議論がなされている。

○關谷委員 航空機製造法案につきまして、本間政務次官にお尋ねをいたしたいと思います。……

 この航空機の製造法案を見ておりますと、通産省が何とかして航空機の生産の行政を所管いたしたいというふうなことについて苦慮いたした跡が歴然と認められるのであります。そのためにいろいろ責任の明確でないような、二重行政というふうな点も現われて参りますし、責任も明確でない。将来これでは航空機行政の混乱が起るのではないか、こういうふうなことがところどころうかがわれるのであります。私はこのような航空機製造法と称するこの法案の内容を見てみますると、まことに矛盾が多いというふうな気持もするのでございますが、良心的に考えて、政務次官はこれを撤回するという御意思があるかどうかということを一度伺つておきたいと思います。

○本間政府委員(通商産業政務次官 お答えを申し上げます。通産省が航空機を所管いたしたいと主張いたしておりますのは、私が当委員会におきましても、いろいろと御説明を申し上げたのでございますが、航空機工業の性格にかんがみまして、通産省が所管をいたしますることが、航空機工業の発達のために必要であるという見解で、私どもは航空機生産はぜひとも通産省にやらしてほしいという主張をいたして来ておるわけでございまするから、その点はどうか御了承を賜わりたいと思う次第でございます。

 それからこの航空機の製造法案を撤回する意思があるかというお尋ねでございますが、これは撤回する意思はございません。

○關谷委員 法案の内容につきまして少しくお尋ねをいたしたいと思うのであります。この航空機製造法案を見ておりますると、第3條によりましてこの事業が届出制になつているのであります。まことに民主的なと申しまするか、非常にやわらかな法律のようにできているのでありまするが、さて一歩内容へ入つて見ますると、その製造の設備については通産省の検査を受け、それに合格した工場でなければ飛行機を生産してはならない、こう書いてあるのであります。

 さらに第8條におきましては、たとえばその検査に合格した工場でつくられた飛行機であつても、通産省の確認がなければ、引渡してはならない、こう書いてあるのでありまするが、届出制と申しながら、このようなことをやつておりますと、許可制以上のものになつて来るのでありまして、私たちこういう点について非常な疑問を持つておるのであります。なお、設備についての検査の問題を取上げて考えてみましても検査に合格しなければ飛行機の生産ができないということになつて参りますと、せつかく各種の設備をして工場をつくつてみたものの、さて検査を受けてみると不合格であるという場合には、通産省の役人の指示に従つていろいろと改良設備をしなければ飛行機をつくれないということになつておるのであります。結局、実質においては製造事業は、許可を得るにあらざれば行えないというようなことになつておるのでありまして、これならば、工場の関係は届出制ということにせずして、むしろこれを許可制として最初からいろいろと指導監督在してこれをつくらす、こういうふうにすることがほんとうであると、私たちは考えるのであります。これは要するに、政府が民業に対してはあまり干渉しないというふうなことを表面で装つてはおるが、実質的にはその効果をねらつておるというようなことでありまして、悪く言えば羊頭を掲げて狗肉を売るというふうなことではないかと、私たちは考えるのであります。この表面は届出制でありながら、第6條に駒いて設備というものを許可制にした理由、どういう考えでこういうふうな法律をつくつたのか、この点について政務次官の御答弁を伺いたい。

○本間政府委員 実はこの法案を準備いたします過程において、許可主義にするか、届出主義によるかということは、非常に議論のあつたところでございます。いろいろ議論またしました結果、許可主義ということよりも、届出主義にいたしまして、そうして御承知のように、飛行機は非常に安全をたつとぶものでございまして、高性能、高品質でなければならぬわけでございます。それから航空機工業は、御承知でもあろうかと思いますが、その性格上マス・プロの施設がどうしても必要でございまする関係上、飛行機生産をしたいという工場を、どういう設備で、どういう方法でやるかということを検査いたしまして、できるだけマス・プロ生産設備で、しかも飛行機の生産方法の一定の基準に合致せしめるような設備をいたさせまして、できるだけ品質と性能の均一性をはかつて参りたい、こういう考えから、一応届出主義にいたしまして、その設備の検査をいたし、ただいま申し上げたような目的に合致さして行きたいという趣旨でございます。

○關谷委員 それなら最初から許可制にして、そうしてこういうふうなことで許可してもらいたい、こういうような設備をすればそれで許可することができる。通産省あたりの意図通りのものができるというようなことで、むしろ許可制にして最初から十分に監督するのが至当であると私は考えるのであります。届出制でありますと、届けつぱなしでいいというようなことになつて参りまして、自然にこういうことをすればこれでやつて行けるというふうな工場の自主性がそこに現われて来るわけでありますが、それがもし通産省の意見と異なつた場合にはいつまで検査を受けてもやらしてくれない、せつかく厖大な設備をしたものが、許可してくれないために飛行機の生産ができない、こういうような矛盾が出て来ると思いますが、この点について政務次官の御見解を承りたいと思います。

○本間政府委員 ただいま御指摘のありましたように、飛行機の特別な性格にかんがみて、最初から許可主義をとつたらいいじやないかということも一つの尊重すべき御意見であろうと思います。しかし御承知のように、航空機工業は非常に莫大な資金をもつて相当大きい設備をいたすわけでございますから、法文の上では届出主義になつておりますが、それらの工場の経営をしたいという所は、かつてに設備をいたしますとか、そして検査を受けるということなしに、事前にいろいろな相談もあろうと思いますし、またその間においているくな指導もできるかと思うのでございまして、届出主義をとつて検査をする方法にいたしましても、御心配のような面は実際の問題としては出ないのじやないか、こう私どもは考えております。

○關谷委員 そういう厖大な設備をし、いろいろ研究してやる仕事でからそのような心配はいらぬというのでありますが、それほど厖大な設備であり、そしていろいろりつぱな技術者も寄り、完全な器具をそろえることになるとすれば、この設備の検査というふうなことはいらないようにもとれるのであります。むしろこういうものは廃止した方がいい。われわれが心配するような懸念がないとすれば、この検査の條文はいらぬものであると考えるのであります。政務次官の御見解を承りたいと思います。

○本間政府委員 許可主義にいたしましても、いろいろな設備をして、その設備が私どもの考えている基準にはずれていればいつまでたつても許可はもらえぬということになるわけでありますから、届出主義によつて設備を検査いたしまして、できるだけ品質及び性能の均一性をはかつて参りたいという考えと、その点はそう違わないのじやないかと私は思うのであります。

 それから届出さえすれば、相当の資金もいるし、相当な設備をするわけだから、あとはどういう生産設備でも、あるいはどういう生産の方法でもいいじやないかとおつしやられますけれども、先ほども申し上げましたように、航空機は非常な安全性をたつとぶものでありますし、航空機工業が成り立つて参ります基本的な要件としては、どうしてもマス・プロの生産方式を採用しなければならぬという基本的な性格もございますので、私どもとしてはやはり一定の基準をつくつておきまして、そしてできるだけ品質及び性能の均一性をはかつて行きたい。それがまた航空機工業が漸次発達して参りまする基本的な要件である、こういうふうに考えておる次第でございます。

○關谷委員 問い方によりますと右になりあるいは左になるような御答弁でありまして、まことに老練な御答弁であることは間違いない。届出制になつておつても非常な設備と尊大な資金を要するのだから、そのような許可をしないでも大体そういう線に持つて行けると一方で言つておるかと思いますと、一方ではこれはどうしても一定の規格にそろえなければならぬというふうなことでありまして、右手と左手とを上手に使いわけておられるようでありますが、私たちとしては届出制にしながら検査をする、許可制にしないでやるというところにはどうしても疑点が晴れないのであります。ここで通産省が非常にこの航空機製造という点に関しましてにらみをきかそうというようなことがありありと現われておることだけは間違いないのでありまして、この上はいかに押問答をいたしましても、これは老練に逃げられると思いますし、見解の相違ということになると思いますので、これ以上は追究いたしません。……

 議論の対象となっている航空機製造法案は、航空機の製造等の事業を行おうとする者に届出義務を課すこととするものであるが、なぜ許可制としなかったのかという質問に対し、説得力のある答弁はしていない。むしろ、行政指導等を行うことにより許可制を採った場合とあまり変わらないといった趣旨の答弁を見ると、どうなのかと思ってしまうが、穿った見方をすると、航空機産業に関与したい通産省に対し運輸省が難色を示し、関与の度合いが低い届出制で妥協したのではないかという省庁間の権限争いの結果ではないかとも感じる。

 いずれにしろ、届出制を採りながら、届出後に何らかの措置をとることによって実質的に許可制と同様の機能を持たせる制度としては、大気汚染防止法等の環境法制に係るものを思い浮かべるが、同様の思考による法制度がかなり早い時期から考えられていたことは興味深い。ただし、本件の届出制は、昭和29年法律第161号により早々に許可制に改められており、その際に法律の題名も現在の航空機製造事業法に改められている。