自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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立入検査の規定雑感(下)

 今回は、比較的新しい法律の規定を取り上げる。

 次の規定は、「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律(平成28年法律第101号)」第44条の規定である。

 (立入検査)

第44条 行政庁は、この法律の円滑な実施を確保するため必要があると認めるときは、その職員に金融機関等(金融機関代理業者を含む。第6項において同じ。)若しくは指定活用団体の営業所若しくは事務所その他の施設に立ち入らせ、その業務若しくは財産の状況に関し質問させ、又は帳簿書類その他の物件を検査させることができる。

2 行政庁は、前項の規定による立入り、質問又は検査を行う場合において特に必要があると認めるときは、その必要の限度において、その職員に同項の金融機関等の子会社若しくは当該金融機関等から業務の委託を受けた者の施設に立ち入らせ、当該金融機関等に対する質問若しくは検査に必要な事項に関し質問させ、又は帳簿書類その他の物件を検査させることができる。

3~7 (略)

 上記の規定はあくまでも立入検査の規定であるため、「……立ち入らせ」「……質問させ」「……検査させることができる」が並列になっているのではなく、「……立ち入らせ」で区切られ、「……質問させ」と「……検査させることができる」が並列になっている(「……立ち入らせ」が「……質問させ」と「……検査させることができる」の両方に係っていく)文章であるとするのが素直な読み方であると考えられるので、下線部の「若しくは」は「又は」とすべきということになる。

 また、これまで取り上げた規定とは毛色が違うのだが、次の規定は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)」第32条の規定である。

 (センター等による立入検査等)

32条 農林水産大臣経済産業大臣又は厚生労働大臣は、前条第1項の場合において必要があると認めるときは、独立行政法人農林水産消費安全技術センター独立行政法人家畜改良センター、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、国立研究開発法人水産研究・教育機構独立行政法人製品評価技術基盤機構又は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「センター等」という。)に対し、次に掲げるセンター等の区分に応じ、遺伝子組換え生物等の使用等をしている者又はした者、遺伝子組換え生物等を譲渡し、又は提供した者、国内管理人、遺伝子組換え生物等を輸出した者その他の関係者がその行為を行う場所その他の場所に立ち入らせ、関係者に質問させ、遺伝子組換え生物等、施設等その他の物件を検査させ、又は検査に必要な最少限度の分量に限り遺伝子組換え生物等を無償で収去させることができる。

 (1) 独立行政法人農林水産消費安全技術センター独立行政法人家畜改良センター、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構及び国立研究開発法人水産研究・教育機構 農林水産大臣

 (2) 独立行政法人製品評価技術基盤機構 経済産業大臣

 (3) 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 厚生労働大臣

2~5 (略)

 上記の規定の各号は、どの大臣がどのセンター等に立入検査を行わせることができるのかを定めたいのだろうが、その柱書では各号に定める大臣について触れておらず、よく分からない規定になってしまっている。例えば、次のようにすべきだろう。

 次の各号に掲げる大臣は、前条第1項の場合において必要があると認めるときは、当該各号に定めるセンター等*1に、遺伝子組換え生物等の使用等をしている者又はした者、遺伝子組換え生物等を譲渡し、又は提供した者、国内管理人、遺伝子組換え生物等を輸出した者その他の関係者がその行為を行う場所その他の場所に立ち入らせ、関係者に質問させ、遺伝子組換え生物等、施設等その他の物件を検査させ、又は検査に必要な最少限度の分量に限り遺伝子組換え生物等を無償で収去させることができる。

 (1) 農林水産大臣 独立行政法人農林水産消費安全技術センター独立行政法人家畜改良センター、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構及び国立研究開発法人水産研究・教育機構

 (2) 経済産業大臣 独立行政法人製品評価技術基盤機構

 (3) 厚生労働大臣 独立行政法人医薬品医療機器総合機構

 

*1:実際に立入検査を行うのはセンター等の職員になろうが、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」第32条第2項は「……前項の規定によりセンター等に立入検査等を行わせる場合には……」といった表記をしているため、ここではあまりこだわないこととする。