自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

第2次分権改革の評価(10)

(「(7) 自治体に過剰な手続を課す事項」の続き)

 同様の規定は、独立行政法人通則法にも次のとおり規定されている。

(財産的基礎等)

第8条  (略)

2  (略)

3  独立行政法人は、業務の見直し、社会経済情勢の変化その他の事由により、その保有する重要な財産であって主務省令(当該独立行政法人を所管する内閣府又は各省の内閣府令又は省令をいう。ただし、原子力規制委員会が所管する独立行政法人については、原子力規制委員会規則とする。以下同じ。)で定めるものが将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなったと認められる場合には、第46条の2又は第46条の3の規定により、当該財産(以下「不要財産」という。)を処分しなければならない。

(不要財産に係る国庫納付等)

第46条の2  独立行政法人は、不要財産であって、政府からの出資又は支出(金銭の出資に該当するものを除く。)に係るもの(以下この条において「政府出資等に係る不要財産」という。)については、遅滞なく、主務大臣の認可を受けて、これを国庫に納付するものとする。ただし、中期計画において第30条第2項第4号の2の計画を定めた場合であって、その計画に従って当該政府出資等に係る不要財産を国庫に納付するときは、主務大臣の認可を受けることを要しない。

2  独立行政法人は、前項の規定による政府出資等に係る不要財産(金銭を除く。以下この項及び次項において同じ。)の国庫への納付に代えて、主務大臣の認可を受けて、政府出資等に係る不要財産を譲渡し、これにより生じた収入の額(当該財産の帳簿価額を超える額(次項において「簿価超過額」という。)がある場合には、その額を除く。)の範囲内で主務大臣が定める基準により算定した金額を国庫に納付することができる。ただし、中期計画において第30条第2項第4号の2の計画を定めた場合であって、その計画に従って当該金額を国庫に納付するときは、主務大臣の認可を受けることを要しない。

3  独立行政法人は、前項の場合において、政府出資等に係る不要財産の譲渡により生じた簿価超過額があるときは、遅滞なく、これを国庫に納付するものとする。ただし、その全部又は一部の金額について国庫に納付しないことについて主務大臣の認可を受けた場合における当該認可を受けた金額については、この限りでない。

4  独立行政法人が第1項又は第2項の規定による国庫への納付をした場合において、当該納付に係る政府出資等に係る不要財産が政府からの出資に係るものであるときは、当該独立行政法人の資本金のうち当該納付に係る政府出資等に係る不要財産に係る部分として主務大臣が定める金額については、当該独立行政法人に対する政府からの出資はなかったものとし、当該独立行政法人は、その額により資本金を減少するものとする。

5  主務大臣は、第1項、第2項又は第3項ただし書の規定による認可をしようとするときは、あらかじめ、評価委員会の意見を聴かなければならない。

6  (略)

 独立行政法人通則法第8条第3項の規定を受けて、国では、主務省令で定める重要な財産を一般的に次のように帳簿価格50万円以上のものとしている。

   独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理機構に関する省令

(通則法第8条第3項に規定する主務省令で定める重要な財産)

第1条 独立行政法人郵便貯金簡易生命保険管理機構(以下「機構」という。)に係る独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)第8条第3項に規定する主務省令で定める重要な財産は、その保有する財産であって、その通則法第46条の2第1項又は第2項の認可に係る申請の日(通則法第46条の2第1項ただし書又は第2項ただし書の場合にあっては、当該財産の処分に関する計画を定めた通則法第30条第1項の中期計画の認可に係る申請の日)における帳簿価額(現金及び預金にあっては、申請の日におけるその額)が50万円以上のもの(その性質上通則法第46条の2の規定により処分することが不適当なものを除く。)その他総務大臣が定める財産とする。

 国がこのように定めている理由は、次のような理由によるようである。

  1. 物品管理法施行令第43条第1項に規定する重要物品が、取得価格が50万円以上の機械及び器具とされていること。
  2. 予算決算及び会計令第99条第5号において、50万円を超えない財産を売り払う場合は、随意契約によることができると規定されていること。
  3. 独立行政法人会計基準において、取得価格が50万円未満の償却資産については重要性の乏しいものとして貸借対照表に計上しないとする取扱いが考えられるとしていること。

  国の場合は、国庫に返還しなければならない財産は、あくまでもそれが重要かどうかという点から判断しているのであろう。その点だけを考えると自治体の場合も同様であるから、国と同様に帳簿価格50万円以上のものと定めればよいことになる。

 しかし、自治体の場合は国と違って、返還の認可をしようとするときに議会の議決が必要になる(地独法第42条の2第5項)。議会の議決を必要とする理由は、不要財産の納付に伴う地方独立行政法人の業務運営・財務運営の健全性への有無については、サービスを受ける住民の代表たる議会としても大きな関心を持って検討する必要があると考えられるということのようであるが、帳簿価格50万円に過ぎない財産の返還に議会が関心が持って検討すべきとは到底思えない*1

 そもそも、地方独立行政法人の業務運営等の健全性の判断は多分に専門的なことであり、議会の議決を要する必要はなかったのではないだろうか。仮に議会の議決を必要とするのであれば、設立団体へ返還すべき財産の範囲とそのうち議会の議決を要する財産の範囲のそれぞれについて条例で定めるようにすべきであったと思われる。

*1:他に法が条例に委任している事項としては、譲渡又は担保に供しようとする場合に設立団体の長の認可を受ける必要がある財産の範囲があり、これも認可に当たって議会の議決が必要とされている(法第44条)。この財産の範囲を定めるに当たっては、自治体自身が財産の処分等を行うに当たり、議会の議決に係らしめる必要があるものの範囲とのバランスを考慮しているようである。その範囲は、都道府県であれば7,000万円、指定都市であれば4,000万円、市であれば2,000万円、町村であれば700万円以上の財産である(地方自治法第96条第1項第8号、同令第121条の2第2項・別表第4)。