自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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第2次分権改革の評価(11)

4 おわりに

 第1次分権改革を扱った文献は多数あるのに対し、第2次分権改革を扱った文献はあまり目にすることがない。機関委任事務の廃止のようなドラスティックな事項がなかったこともあるのだろうが、第2次分権改革は評価に値しないと言ったら言い過ぎだろうか。

 さらに、第2次分権改革により条例委任する意義について、抽象的に語られるのみで、説得力のある見解に出会ったことがない。

 たとえば、一括法により条例委任された事項を規則へ委任することについて、国の立案を担当した職員の次のような見解がある。

 条例で基準を定めるに当たって、規則への委任範囲についても、各団体によってさまざまな形があり得る。

 ただ、作業効率を重視するあまりか、または内容面の検討を当面先送りするためか、条例のすべてを規則に落とす手法を推奨し、またその方が無駄な議会審議を避けられるといった極端な意見もあると聞く。しかし、そのような極端な条例形式が適切であるはずがない。そもそも議会への説明が困難であろう。

 (中略)

 今回の見直しは、繰り返しになるが、基準の決定主体を国から自治体に移す取り組みである。地域の判断に委ねる前提として、基準の内容を条例化して議会の審議・決定にかからしめることには誠に重要な意義がある(前内閣府地域主権戦略室参事官 大村慎一「義務付け・枠付けの見直しに関する条例制定の動向」『自治体法務研究(No.31)(P13)』)

 しかし、国においては、基準を省令で定めていることからすると、「国から自治体に移す取組」というよりも「省令から条例に移す取組」であり、省令で定めている事項を議会の審議に係らしめる意義は具体的に示されていない。磯崎初仁『自治政策法務講義』(P184)には、次のように記載されているが、こうした見解が至極最もである。

 自治体の裁量を重視するのであれば、条例で定めることを「義務付け」しないで、何をどういう形式で定めるかを含めて自治体に任せるべきであった。もともと法令の規律密度が高いことが問題であり、それを引き下げて自治体の自由度を増すことが求められているのに、条例という形式を指定することは合理的でない。特に、委任事項には技術的な事項が多く、議会での審議を求める実益が乏しいものも少なくない。

 さらに、基準を定める省令自体の問題もある。

 国の立法担当者は、第2次分権改革の意義の一つに、自治体の立法能力の向上を図ることがあると言っているのを見た記憶がある。しかし、実際の条例の立案作業は、省令の基準をそのまま書き写すコピー型か、省令の基準を引用する形をとるリンク型のいずれかと言われたところであり、そのような方法で条例立案を行うのであれば、条例を制定した経験は得られるものの、では立法能力が上がるかと言われればそうは思えない。

 また、基準を定める省令にもお粗末なものがある。以前、内閣法制局長官経験者が講演会で、官房文書化の法案審査は、「てにをは」を直す程度の省庁もあり、頼りないと言っていたのを聞いたことがあるが、条例化の作業の際にも、もちろん全ての省庁ではないが、省令の基準の解読に多くの時間を要したことも事実である。

 さらに、特別保護指定区域の標識は、省令(鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律施行規則第37条第2項ただし書)で直接条例委任を行っているというように違法とも言える実例もある。

 第4次一括法以降は実務にタッチしていないので何とも言えない面があるのだが、真に地方分権と言うのであれば、基準は省令ではなく政令で定めることとし、その内容も適切なものとしていくことが重要である。もちろん、上書き権の議論を進めてもらってもいいのだが。

(このシリーズ終わり)