自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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新型コロナウイルス感染症対策本部

 今回も今記載しているシリーズを中断して、新型コロナウイルス感染症に関連した記事を記載する。

 新型コロナウイルス感染症に関し、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「法」という。)に基づき設置された政府対策本部は、「新型コロナウイルス感染症対策本部」との報道がなされていたので、法律上はあくまでも「新型インフルエンザ等対策本部」ではなかったかと思い確認したところ、法の関係規定は、次のとおりとなっている。

 (政府対策本部の設置)

第15条 内閣総理大臣は、前条の報告があったときは、当該報告に係る新型インフルエンザ等にかかった場合の病状の程度が、感染症法第6条第6項第1号に掲げるインフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度以下であると認められる場合を除き、内閣法(昭和22年法律第5号)第12条第4項の規定にかかわらず、閣議にかけて、臨時に内閣に新型インフルエンザ等対策本部(以下「政府対策本部」という。)を設置するものとする。

2 内閣総理大臣は、政府対策本部を置いたときは、当該政府対策本部の名称並びに設置の場所及び期間を国会に報告するとともに、これを公示しなければならない。

 法第15条第2項を見ると、政府対策本部の名称は、それを設置する都度決めることを前提にしているようであり、今回の政府対策本部については、3月26日に名称を「新型コロナウイルス感染症対策本部」とする旨閣議決定されている。

 ただし、法第15条第1項の政府対策本部の書きぶりは、名称必置的な書き方をしているので、「新型インフルエンザ等対策本部」としている箇所は、「新型インフルエンザ等に関する対策本部」といった表記が適切だったのではないかと思う*1

 上記の規定は、災害対策基本法等の規定を参考に立案されているものと思われるが、同法に基づく非常災害対策本部に関する規定は、次のとおりである。

 (非常災害対策本部の設置)

第24条 非常災害が発生した場合において、当該災害の規模その他の状況により当該災害に係る災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときは、内閣総理大臣は、内閣府設置法第40条第2項の規定にかかわらず、臨時に内閣府に非常災害対策本部を設置することができる。

2 内閣総理大臣は、非常災害対策本部を置いたときは当該本部の名称、所管区域並びに設置の場所及び期間を、当該本部を廃止したときはその旨を、直ちに、告示しなければならない。

 非常災害対策本部の名称は、平成26年9月に設置された「平成26年(2014年)御嶽山噴火非常災害対策本部」のように「非常災害対策本部」の文言自体は変えるのではなく、その前に災害の名称等を付したものとすることを想定しているようであり*2、その点で新型インフルエンザ等対策本部とは事情を異にする。

 そうした観点からすると、法第15条の書きぶりは工夫が必要だったと思う。

*1:なお、内閣総理大臣を充てることとされている政府対策本部の長は、「新型コロナウイルス感染症対策本部」であれば「新型コロナウイルス感染症対策本部長」だと思うが、法第16条第1項は「政府対策本部の長は、新型インフルエンザ等対策本部長(以下「政府対策本部長」という。)とし、内閣総理大臣……をもって充てる。」とされており、この規定から政府対策本部の長を「新型コロナウイルス感染症対策本部長」とするのは、やや無理筋のような感じがする。

*2:防災行政研究会『逐条解説災害対策基本法(第三次改訂版)』(P181~)参照