自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言

 今回も新型コロナウイルス感染症関連の記事である。

 4月7日に発出された新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言における緊急事態の概要は、次のとおりである。

 新型コロナウイルス感染症については、

・肺炎の発生頻度が季節性インフルエンザにかかった場合に比して相当程度高いと認められること、かつ、

・感染経路が特定できない症例が多数に上り、かつ、急速な増加が確認されており、医療提供体制もひっ迫してきていることから、

国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあり、かつ、全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある事態が発生したと認められる。 

 ただ、新型インフルエンザ等対策特別措置法の緊急事態宣言を行うための要件からすると、この概要はちょっとずれている。

 関係する法及び政令の規定は、次のとおりである。

   新型インフルエンザ等対策特別措置法平成24年法律第31号)

新型インフルエンザ等緊急事態宣言等)

32条 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第5項及び第34条第1項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。

 (1)~(3) (略)

2~6 (略)

    新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(平成25年政令第122号)

新型インフルエンザ等緊急事態の要件)

第6条 法第32条第1項の新型インフルエンザ等についての政令で定める要件は、当該新型インフルエンザ等にかかった場合における肺炎、多臓器不全又は脳症その他厚生労働大臣が定める重篤である症例の発生頻度が、感染症法第6条第6項第1号に掲げるインフルエンザにかかった場合に比して相当程度高いと認められることとする。

2 法第32条第1項の新型インフルエンザ等緊急事態についての政令で定める要件は、次に掲げる場合のいずれかに該当することとする。

(1) 感染症法第15条第1項又は第2項の規定による質問又は調査の結果、新型インフルエンザ等感染症の患者(当該患者であった者を含む。)、感染症法第6条第10項に規定する疑似症患者若しくは同条第11項に規定する無症状病原体保有者(当該無症状病原体保有者であった者を含む。)、同条第9項に規定する新感染症(全国的かつ急速なまん延のおそれのあるものに限る。)の所見がある者(当該所見があった者を含む。)、新型インフルエンザ等にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者(新型インフルエンザ等にかかっていたと疑うに足りる正当な理由のある者を含む。)又は新型インフルエンザ等により死亡した者(新型インフルエンザ等により死亡したと疑われる者を含む。)が新型インフルエンザ等に感染し、又は感染したおそれがある経路が特定できない場合

(2) 前号に掲げる場合のほか、感染症法第15条第1項又は第2項の規定による質問又は調査の結果、同号に規定する者が新型インフルエンザ等を公衆にまん延させるおそれがある行動をとっていた場合その他の新型インフルエンザ等の感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由のある場合

 法第32条第1項の規定によると、緊急事態に該当する要件は、次の2つのいずれにも該当することとしている*1

1 政令で定める要件に該当する新型インフルエンザ等が国内で発生したこと。

2 新型インフルエンザ等の全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当すること。

 そして、2の要件は、政令第6条第2項の規定により、次のいずれかに該当することとしている。

(1) 患者等が新型インフルエンザ等に感染し、又は感染したおそれがある経路が特定できない場合

(2) (1)のほか、患者等が新型インフルエンザ等を公衆にまん延させるおそれがある行動をとっていた場合その他の新型インフルエンザ等の感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由のある場合

 したがって、政令で定める要件に該当する新型インフルエンザ等が国内で発生し、その患者等に係る感染経路が特定できなければ、「国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるもの」でなくても緊急事態に該当する要件を満たすことになってしまう。

 解決策とすれば、政令第6条第2項柱書きを次のようにすることが考えられる。

法第32条第1項の新型インフルエンザ等緊急事態についての政令で定める要件は、次に掲げる場合のいずれかに該当し、新型インフルエンザ等の全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあることとする。

 また、法第32条第1項柱書きを次のようにすることも考えられる。

政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、政令で定める要件に該当することにより全国的かつ急速にまん延し、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第5項及び第34条第1項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。

 ただし、この案だと要件を政令に丸投げするような形になってしまうのがどうかという感じる向きもあるだろう。

*1:新型インフルエンザ等対策研究会『逐条解説新型インフルエンザ等対策特別措置法』(P121)は、1の要件を新型インフルエンザ等が国内で発生したこととそれが政令で定める要件に該当することの2つに分けている。