自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

義務付けされていない行為に対して過料を科すことは可能か(下)

 次は、修正後の法案を審議している参議院内閣委員会、厚生労働委員会連合審査会における議論である。

福島みずほ ……次に、感染症法の解釈としてコンメンタールを置いております。これは感染症法のコンメンタールで、配付資料なんですが、これは入院に係るもの罰則なしなんですよ。

 厚労省は、入院に係るものについては罰則要らないってやっているんですね。それは何かというと、感染症患者の入院についてはまず入院勧告を行い、勧告に従わない場合は強制力を行使して入院をさせると。ですから、このため、入院については義務違反が想定できず、また、その実効も措置で担保されているので罰則を科さないってなるんですよ。厚生労働省が書いている感染症法のコンメンタールは罰則要らないというふうになっているわけですね。ところが、今回罰則を入れた。この整合性はどうなんでしょうか。そして、感染症法の解釈として、感染症患者の入院については入院勧告を行い、従わない場合は入院させる入院措置があります。この措置ができるにもかかわらず、なぜ今回罰則なんですか。

国務大臣田村憲久君)(厚生労働大臣 入院措置という、まあ言うなれば即時強制なわけでありますが、当然入院していただけない方おられます。それから、入院した後も逃げ出すという事例もあります。そういう事例をやはり都道府県知事さんからいろんな御意見いただく中で、やはり何らかの罰則を、実効性を保つために……(発言する者あり)何でですか。そのために、ために今回盛り込まさせていただいたということでありまして、実態は、確かに即時強制で入院をさせられればいいですけれども、実態としてできない、しない、されない、そういう場合がある場合にどうやって実効性を保つかという中において今回このような罰則を盛り込んだということであります。

福島みずほ だって、今まで罰則なしって言って、これの強制措置、入院措置でやるんだってやってきたわけじゃないですか。

 じゃ、お聞きします。入院拒否に対する罰則について行政処分を前置しなくていいんですか。前置するんですか。

国務大臣田村憲久君) これは、要するに即時強制というものはある意味、まあ言うなれば、そういう行政的な何らかの対応というものに対して違反したというのと同じような効果があると。つまり、義務として本来は受忍していただかなければならないと、即時強制でありますから。それを受忍しないということでありますので、そういう場合に対して罰則が掛かるということであります。

(第204回国会参議院内閣委員会、厚生労働委員会連合審査会(令和3年2月3日))

 そもそも行政罰というものは行政法の義務違反に対して科すものである*1。そして、刑罰の対象となる行為であっても、それを行政犯と考えるのであれば、一般的には義務付けの規定が置かれることとされているのであるから*2、ましてや過料を科する場合に義務付けの規定を置かないということは法制執務的にはあり得ないことになる。したがって、上記の厚生労働大臣の答弁は、刑罰と行政罰の違いを意識しておらず、現在のルールからすると如何なものかということになる。

 ところで、即時強制というものは、行政機関が直接実力を行使して行政上必要な状態を実現する作用であるから、本来であればそれが実現しないということは想定しないのだろうが、それが国民の身体に直接実力を加えるものである場合には、現実問題としては実現しないこともあり得るのだろう。その場合に、行政罰により間接的に強制しようとするのであれば、即時強制に係る措置に従わない場合に行政命令を行う旨の規定を設け、命令違反に対して罰則を科することとするのがスタンダードな考え方になってくるのだろうが、そうするのであれば、あえて即時強制と構成する必要はなくなってくる。

 ただし、感染症法は、特に人権尊重に配慮した法律であるため、即時強制である入院措置を入院命令とするのは難しく、したがって今回の事例は特殊事例なのかもしれないが、いずれにしろ今後の立法例が興味深いところである。

*1:高橋和之ほか『法律学小辞典(第5版)』P244参照

*2:上田章『議員立法五十五年』P132によれば「何々してはならない。その規定に違反したものは処罰する」という書き方をすることになる。

義務付けされていない行為に対して過料を科すことは可能か(上)

 2021年2月3日に公布された「新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律(令和3年法律第5号)」第2条の規定により「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下このシリーズで「感染症法」という。)」が改正され、次の場合について50万円以下の過料を科せられることとなった。

  1. 入院の勧告又は入院の措置により入院した者がその入院の期間中に逃げたとき。
  2. 入院の措置を実施される者が正当な理由がなくその入院すべき期間の始期までに入院しなかったとき。

 法案提案の段階では、この罰則は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされていたが、衆議院において修正されている。改正後の感染症法の該当条文は、次のとおりである。

第80条 第19条第1項、第20条第1項若しくは第26条において準用する第19条第1項若しくは第20条第1項(これらの規定が第7条第一項の規定に基づく政令によって準用される場合及び第53条第1項の規定に基づく政令によって適用される場合を含む。)若しくは第46条第1項の規定による入院の勧告若しくは第19条第3項若しくは第5項、第20条第2項若しくは第3項若しくは第26条において準用する第19条第3項若しくは第5項若しくは第20条第2項若しくは第3項(これらの規定が第7条第1項の規定に基づく政令によって準用される場合及び第53条第1項の規定に基づく政令によって適用される場合を含む。以下この条において同じ。)若しくは第46条第2項若しくは第3項の規定による入院の措置により入院した者がその入院の期間(第20条第4項若しくは第26条において準用する同項(これらの規定が第7条第1項の規定に基づく政令によって準用される場合及び第53条第1項の規定に基づく政令によって適用される場合を含む。)又は第46条第4項の規定により延長された期間を含む。)中に逃げたとき又は第19条第3項若しくは第5項、第20条第2項若しくは第3項若しくは第26条において準用する第19条第3項若しくは第5項若しくは第20条第2項若しくは第3項若しくは第46条第2項若しくは第3項の規定による入院の措置を実施される者(第23条若しくは第26条において準用する第23条(これらの規定が第7条第1項の規定に基づく政令によって準用される場合及び第53条第1項の規定に基づく政令によって適用される場合を含む。)又は第49条において準用する第16条の3第5項の規定による通知を受けた者に限る。)が正当な理由がなくその入院すべき期間の始期までに入院しなかったときは、50万円以下の過料に処する。

 感染症法に基づき入院措置をする場合には、入院勧告の手続を前置することとなっているが、入院勧告は行政指導であり、入院措置は即時強制と解されているため、上記の規定について、法律上の義務付けがないのに罰則を科してよいのか疑問が出されている。

 次は、衆議院内閣委員会における議論の状況である。

○山尾委員 ……入院措置なんですけれども、入院勧告があって、入院措置で、今回、懲役がなくなって、刑事罰がなくなって行政罰になったからよかったというような話があるんですけれども、ちょっと私、よくないんじゃないかなということを思っています。

 いつ法律上の義務が生じるんでしょうか、この入院勧告を受けた側に。入院のプロセスがはっきりしていないので、そのまま罰則をつけるということが極めて不合理だと思うんですけれども、入院勧告を受けた側はいつ法律上の義務を生じるんですか。

 ちょっとつけ加えると、過料の対象になるので、その前提として、その人は行政上の義務を負っていなきゃいけないですよね。だから、それに反するから過料なんです。入院勧告は、義務ないので、いつ義務を負うんですか。

〇正林政府参考人厚生労働省健康局長) お答えします。

 感染症法の入院措置は、感染症の患者が入院勧告に従わぬ場合に強制的に入院させることができる即時強制の仕組みでありますが、この対象となった方にはこれを受忍していただく必要があり、応じていただけない方を罰則の対象とすることに法的な問題はないと考えております。

(第204回国会衆議院内閣委員会(令和3年2月1日))

 この時点では、まだ刑罰を行政罰とする修正案は提案されていないものの、既に修正を前提とした議論がなされていることが窺えるが、政府参考人の答弁自体は修正を前提としたものかどうかよく分からない。

 ただし、罰則の内容が刑罰であれば、刑法犯(自然法犯)的なものについては法律上に義務付けの規定は置かないため(刑法の規定参照)、入院しないこと自体を悪と考えて刑罰を科すことはあり得るのであり、そうした意味で政府参考人の答弁は納得できるところである。

おかしな例規(3)

救護施設、更生施設、授産施設及び宿所提供施設の設備及び運営に関する基準及び厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令の一部を改正する省令(令和3年厚生労働省令第80号)

 (救護施設、更生施設、授産施設及び宿所提供施設の設備及び運営に関する基準の一部改正)

第1条 救護施設、更生施設、授産施設及び宿所提供施設の設備及び運営に関する基準(昭和41年厚生省令第18号)の一部を次の表のように改正する。

 (表略)

 (厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令の一部改正)

第2条 厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令(平成17年厚生労働省令第44号)の一部を次の表のように改正する。

 (表略)

   附 則

 (施行期日)

第1条 この省令は、令和3年8月1日から施行する。ただし、第2条の規定は、公布の日から施行する。

 (業務継続計画の策定等に係る経過措置)

第2条 第1条の規定の施行の日から令和6年3月31日までの間、同条による改正後の救護施設、更生施設、授産施設及び宿所提供施設の設備及び運営に関する基準(以下「新基準」という。)第六条の四の規定の適用については、「講じなければ」とあるのは「講ずるよう努めなければ」と、「実施しなければ」とあるのは「実施するよう努めなければ」と、「行うものとする」とあるのは「行うよう努めるものとする」とする。

  第1条の規定の施行期日は、附則第1条の本則で規定されているから、下線部は、「この省令の施行の日」とすれば足りる。

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(6)

 (2) 都道府県の条例に市町村について責務規定を置く問題の改善策

 都道府県の条例に市町村について責務規定を置く目的は、市町村に対して協力を呼びかけることにあるとする見解がある*1。それは、市町村に一定の役割を果たして欲しいという意図とも同じであろう。

 法律では見出しを「役割」とするものがあるが、これは住民等の責務的なものを書くときに用いられることが多いようであり、書き振りも次の食品安全基本法のように「~役割を果たすものとする」(観光立国推進基本法では、次のように「果たすよう努めるものとする」としているが)というようにしているようである。

   食品安全基本法

 (消費者の役割)

第9条 消費者は、食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるとともに、食品の安全性の確保に関する施策について意見を表明するように努めることによって、食品の安全性の確保に積極的な役割を果たすものとする。

   観光立国推進基本法

 (住民の役割)

第5条 住民は、観光立国の意義に対する理解を深め、魅力ある観光地の形成に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。

 しかし、市町村の役割を規定することは、市町村の事務を規定することと同義であり、適切とは言えないだろう。

 私は、次のように「市町村と連携する」といったように書くことで、都道府県が行う形で規定することとしつつ、言外に市町村も一定の役割を負ってもらうというように考えるのがよいのではないかと感じる。 

2 県は、前項の施策の実施に当たっては、市町、生産者、事業者および県民と連携するものとする。*2

 ところで、泉本和秀「自治体での立法の実際と工夫」松尾浩也ほか『立法の平易化』(P97)には、東京都の環境基本条例における市町村の責務規定について次のように記載されている *3

 最終的には、市町村の責務を「市町村は、環境の保全を図るため、その区域の自然的社会的条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」と規定することとした。しかし、その内容は、実は既に環境基本法地方公共団体の責務として定められているものの引写しであり、都の条例で特に新たな責務を定めたものではないのである。単に法律による責務を確認したにすぎない規定とすることによって、環境問題としての「わかりやすさ」だけを確保してみたのである。

 考え方としては参考にあるが、使う場面はあまりないのではないかとも感じる。

(このシリーズ終わり)

*1:海老名富夫「公害防止条例に見る都道府県と市町村の関係について」人見剛ほか『公害防止条例の研究』(P271)参照

*2:最近は、よく「協働」という言葉が使われるので、「連携」に代えてそのような言葉を使うことも考えられる。

*3:この論文は、分権前に書かれたものであるが、その当時でも、地方自治法上、県の条例で市町村の事務について定めることができると規定されているのは、市町村の行政事務についての統制条例のみであり、他の場合は市町村の事務処理を規制することは適当でないという考え方に基づいている。

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(5)

3 都道府県の事務と市町村の事務

  (1) 都道府県の条例に市町村について責務規定を置くことについて

 自治体の条例制定は、当該自治体の事務が対象となるのであるから(地方自治法第14条第1項、第2条第2項)、都道府県は市町村の事務について、市町村は都道府県の事務について条例を制定することができないのは当たり前である。

 そして、地方自治法上は、第1次地方分権改革により都道府県の事務と市町村の事務が棲み分けられた結果(同法第2条第2項~第6項)、都道府県の事務と市町村の事務との間で条例制定権の範囲の問題が生じることはないことになるが、実際には重畳的に行われる事務があることも事実である。このことに関連して都道府県の条例に市町村について責務規定を置くという問題がある。

 このことについて、海老名富夫「公害防止条例に見る都道府県と市町村の関係について」人見剛ほか『公害防止条例の研究』(P270)は、当時、自治省地方分権推進室課長補佐の古田孝夫氏が雑誌「地方自治」に次のような見解を述べていたとしている。

具体的な事務の義務付けではないにせよ、市町村に対して何らかの義務付けをする点ではやはり同じ問題があり、このような規定を都道府県条例に置くことはできず、仮に置いても市町村を拘束することはできないのではないかと思われる。

 こうした旧自治省筋における解釈が示されていたにもかかわらず、都道府県の条例において改正がなされたかったことについて、同論文(P271)では、次のように記載されている。

……地方分権改革における条例改正作業が……国と地方公共団体の間の問題、すなわち法律改正に伴うものを中心に進められていた結果、条例改正の検討から見落とされたか、一般的な努力義務規定は違法とまで言えず許容されると判断したか、または、都道府県と市町村の新しい関係を理解しながらも、現実的には必要との認識から具体的な義務付け等市町村に対する規定をあえて残したのか、さまざまなケースがあると思われる。

 私は、当時の条例改正の作業の状況を聞く限りでは、そこまで手が回らなかったというのが正直なところではないかという感じがしているが、いずれにしろ、法制度的にはそうした規定は置くべきではないということは間違いないのだろう。それでもそうした規定が置かれるのは、第1次地方分権改革時に規定の整理を行わなかった都道府県においては、市町村についての責務規定が条例に残ってしまった結果、そうした規定を置くことに問題ないという意識が変わらなかったということだろう*1

*1:都道府県の条例に市町村について責務規定を置くことについて、私の周囲ではそれを適当でないという意見を言う人は少なく、むしろ規定すべきだと言う人が意外と多い。市町村の職員からも、「都道府県の条例で規定してもらったほうが、事務をやりやすい」という意見を聞くことがある。

条例制定権の範囲と限界~国及び他の自治体の事務との関係(4)

   (イ) 賃貸住宅紛争防止条例

 東京都には「東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例」*1という条例がある。例えば、ネットにおける「2020.12.19「幻冬舎GOLD ONLINE」記事「東京ルール」に泣かされる…賃貸部屋の劣化、誰が支払う?」を一見すると住宅の賃貸借において独自ルールを定めているように見えるが、条例上は、次のとおり宅地建物取引業者に説明義務を課しているだけである。   

   東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例

 (宅地建物取引業者の説明等の義務)

第2条 宅地建物取引業者は、住宅の賃貸借の代理又は媒介をする場合は、当該住宅を借りようとする者に対して法第35条第1項(同条第6項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定により行う同項各号に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の説明に併せて、次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明しなければならない。ただし、当該住宅を借りようとする者が宅地建物取引業者である場合は、当該書面についての説明を要しないものとする。

 (1) 退去時における住宅の損耗等の復旧並びに住宅の使用及び収益に必要な修繕に関し東京都規則(以下「規則」という。)で定める事項

 (2) 前号に掲げるもののほか、住宅の賃貸借に係る紛争の防止を図るため、あらかじめ明らかにすべきこととして規則で定める事項

 

   東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に関する条例施行規則

 (宅地建物取引業者の説明事項等)

第2条 条例第2条第1号の規則で定める事項は、次に掲げる事項とする。

 (1) 退去時における住宅の損耗等の復旧については、当事者間の特約がある場合又は賃借人の責めに帰すべき事由により復旧の必要が生じた場合を除き、賃貸人が行うとされていること。

 (2) 住宅の使用及び収益に必要な修繕については、当事者間の特約がある場合又は賃借人の責めに帰すべき事由により修繕の必要が生じた場合を除き、賃貸人が行うとされていること。

 (3) 当該住宅の賃貸借契約において賃借人の負担となる事項

2 条例第2条第2号の規則で定める事項は、賃借人の入居期間中の設備等の修繕及び維持管理等に関する連絡先となる者の氏名(法人にあっては、その商号又は名称)及び住所(法人にあっては、その主たる事務所の所在地)とする。

3 (略)

  ウ まとめ

 以上のとおり、私法上の取引関係に問題があり、条例で何らかの規制を行おうとするのであれば、条例ではその効力を否定するという内容は規定できないので、当事者の一方、すなわち不適正な行為を行う者を規制する内容を規定することになる。

*1:一般的には「賃貸住宅紛争防止条例」と言われているようである。

附則に規定すべき事項……その他諸々

〇〇町の再生エネ条例に不備 一部の事業者に指導や勧告できず

 〇〇町の再生エネルギー促進条例が2018年12月の改正時から、一部の発電事業者に対して処分を伴う指導や勧告ができない状態になっていたことが25日、分かった。新たな規定を加えた際に、付則の修正をしていなかったため、条例制定前に発電設備を整備した事業者が対象から外れていた。町は不備を認め、6月定例町議会に条例の一部改正案を提出する方針。

2021年5月26日 愛媛新聞

 この条例は、次の条例であると思われる。 

〇〇町豊かな自然と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する条例

(目的)

第1条 (略)

(基本理念)

第2条 (略)

(定義)

第3条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 (1) 発電設備 電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号)第2条第3項に規定する設備(設備を設置する土地を含む。)をいう。

 (2) 発電事業 発電設備を利用し、発電を行う事業をいう。

 (3) (略)

 (4) 事業者 発電事業を実施するものをいう。

 (5)~(7) (略)

(町の責務)

第4条 町長は、この条例の適正かつ円滑な運用が図られるよう必要な措置を講じなければならない。

2 町長は、地域の活性化を図り、エネルギーの供給源の多様化に資するため必要があると認める場合は、発電事業の推進に協力するものとする。

(事業者の責務)

第5条 事業者は、関係法令を遵守するほか、事業区域、周辺地域の自然、景観及び生活環境に十分に配慮するとともに、事故、公害及び災害(以下「事故等」という。)を防止し、地域の関係者の相互の密接な連携の下行わなければならない。

2 事業者は、発電事業の実施に伴い事故等が発生した場合又は地元地区若しくは関係者と紛争が生じた場合は、自己の責任において誠意をもってこれを解決し、再発防止のための措置を講じなければならない。

3 事業者は、発電事業に必要な公共施設及び公共的施設を自らの負担と責任において整備するよう努めなければならない。

4 事業者は、発電事業を終了する場合は、事業終了後直ちに発電設備を撤去しなければならない。ただし、撤去の必要がないと町長が認める場合は、この限りでない。

(協力要請区域)

第6条 町長は、必要があると認める場合は、次に掲げる区域(以下「協力要請区域」という。)において発電事業を行わないよう協力を求めることができるものとする。ただし、建築物等の屋根又は屋上に設置するものを除く。

 (1) 貴重な自然状態を保ち、学術上重要な自然環境を有している区域

 (2) 地域を象徴する優れた景観として、良好な状態が保たれている区域

 (3) 歴史的又は文化的な特色を有している区域

 (4) 農林漁業の健全な発展に必要な農林地並びに漁港及びその周辺の水域

 (5) 〇〇町景観条例……第8条第1項に規定する景観計画区域

 (6) 前各号に定めるもののほか、町長が必要と認める区域

(適用を受ける発電事業)

第7条 この条例の適用を受ける発電事業は、次の各号のいずれかに該当するものとする。ただし、他の法令等の対象となる発電事業等でこの条例の適用が不要であると町長が認めるものは除くものとする。

(1) 事業区域の土地の合計面積が500平方メートル以上である発電事業(既に完成若しくは施工中のものと一体的に行う場合、既に隣地に他の発電施設が設置されている場合又は排水施設等の関連施設を他の発電事業と共有する場合においては、合計面積が500平方メートル以上となるものを含む。)

(2) 前号の規定にかかわらず、協力要請区域で行う発電事業

(町への協議等)

第8条 事業者は、発電事業を行おうとする場合は町長と協議しなければならない。

2 事業者は、発電事業の工事の着手前に町長に届け出て、許可を得なければならない。

3 事業者は、前項の許可を得た後でなければ発電事業の工事に着手してはならない。

(地元地区への説明)

第9条 事業者は、地元地区に対して発電事業の内容等に係る説明会を開催し、地元地区の代表者である区長の同意を得なければならない。この場合において、地元地区から要望があるときは、関係者に対して同様の説明会を開催し、関係者の同意を得るものとする。

2 事業者は、前項の規定により説明会を開催するときは、事前に町長と協議しなければならない。

(審査)

第10条 町長は、第8条第2項の規定による届出があった場合は、審査を実施し、必要に応じて愛南町環境審議会の意見を聴かなければならない。

(審査結果の通知)

第11条 町長は、前条の審査の結果、発電事業の可否を決定し、事業者に通知するものとする。

2 町長は、必要に応じて前項の規定による通知に意見を付すものとする。

(着手等の届出)

第12条 事業者は、発電事業の工事の着手、完了、中止又は再開をした場合は、速やかに町長に届け出るとともに、区長へ知らせなければならない。

(完了の確認)

第13条 町長は、前条の規定による完了の届出があったときは、確認を行うものとする。

(指導、助言又は勧告)

第14条 町長は、次の各号のいずれかに該当するときは、事業者に対して、指導、助言又は勧告を行うものとする。

 (1) 正当な理由なく第5条の規定を遵守しないとき。

 (2) 正当な理由なく第8条の規定による協議等を行わず、又は虚偽の届出をしたとき。

 (3) 第11条の規定による通知を受ける前に発電事業の工事に着手したとき。

 (4) 前3号に定めるもののほか、町長が必要と認めるとき。

2 事業者は、前項の指導、助言又は勧告について、その処理の状況を町長に報告しなければならない。

(公表)

第15条 町長は、事業者が正当な理由なく前条第1項の指導、助言又は勧告に応じないときは、その事実を公表するものとする。

(届出事項等の変更)

第16条 第8条から第12条までの規定は、町長に届け出た事項を変更する場合について準用する。

(委任)

第17条 (略)

   附 則

(施行期日)

1 この条例は、公布の日から施行する。

(第5条、第11条並びに第15条第1項第2号及び同条第2項の適用)

2 第5条、第11条並びに第15条第1項第2号及び同条第2項の規定については、次に定める場合を除き、全ての発電事業に適用する。

 (1) 他の法令等に基づく手続を行っている場合

 (2) 条例の規定の適用の必要がないと町長が認める場合

 上記の記事の趣旨は、附則第2項に指導、勧告等の規定である第14条が規定されていないため、条例の施行前に発電設備を整備した事業者については、第14条を根拠とした指導、勧告等ができないため、第15条の公表ができないことになり、それが条例の不備と言っているのだと思われる。

 しかし、この条例における「事業者」は、「発電事業を実施するものをいう」とされているため(第3条第4号)、附則第2項がなければ何の問題もなく全ての事業者が対象になってくる*1

 この条例で適用関係が問題になるのは、条例施行の際既に発電事業に係る工事に着手している事業者が事前協議(第8条)等の対象となるかどうかであり、通常は、事業者に不利益となる事項の遡及適用を避けるため、附則に事前協議等の対象を条例施行日以後に着手する工事に係る発電事業とする旨の規定を置くことになる。そして、既存事業者については、一定期間内に届出をさせる旨の規定を併せて置くのが*2、このような条例における附則の規定のスタンダードな例だろう。

 上記記事に関連した事項は以上であるが、この条例は、それ以外にも不適当な事項が散見される。この条例は、発電事業を行う事業者に町長への協議という事前手続等を課し、行政指導を通じて意図する効果を上げようと考えて制定したように思われる。この種の条例は、行う手続をきちんと規定することが肝心であるところ、その手続の規定が甘いため、結果として問題が多い条例となってしまっている。

 上記以外に気になる事項を次に記載しておく。

 〇 第5条

 責務規定は、通常は総論の規定として抽象的に義務付けを行う場合に置かれるものであり、具体的に義務付けを行うのであれば、実体的な規制を規定する箇所において規定すべきである。この条例では、勧告等の対象に第5条違反の場合を規定しているが(第14条第1項第1号)、そうするのであれば、遵守事項として第14条の前辺りに規定すべきである。その場合に、第3項のような規定は不適切だろう。

〇 第6条

 協力要請区域内で行う発電事業は、条例の適用対象事業となるため(第7条第2号)、第1号から第4号までの区域は、規則等で具体的に定めることとすべきである。

〇 第7条

 第3条第2号に発電事業の定義があるが、この条例が適用される発電事業は第7条に定めるものであるのなら、第7条を置くのではなく、第2条の定義規定で書き切れば十分である。仮に、第5条を事業者に対する抽象的な義務付けとして全ての発電事業を行う場合に適用があることとし、協議等の対象となる発電事業は限定するというのであれば、定義とは別に第7条を規定する意味もある。

〇 第8条

 第2項と第3項の許可の意図が不明

〇 第9条

 住民等の同意の義務付けは、一般的には適当でないとされているが、区長等の同意がなかった場合にどうなるのか条例に規定はないので、あえてそのようにしているのであれば、これも有りなのだろう。なお、第2項の規定は、説明会開催前に届出をさせる位であれば分かるのだが、協議までさせる意図はよく分からず、過重な手続になっていると思う。

〇 第11条

 事業者が第2項の意見に従わない場合にどうなるのか規定がないため、同項は、全く意味のない規定になっている。その場合には、行政指導の対象になるように規定すればよいのにと思う。

〇 第16条

 「町長に届け出た事項」が何を指しているのか不明

〇 附則第1項

 制定当初の条例の規定がどのようなものであったかによるが、基本理念の規定等を除き、公布日施行とするのはいかがかと感じる。 

*1:この条例では、規制対象とする者について全て「事業者」としており、そうした条例の規定は他でもよく見かけるが、本来であれば、事業を行う前であればまだ「事業者」ではないので、その時点に応じた適切な用語を選択していくべきである(例えば第8条第1項は、「発電事業を行おうとする者は、〇〇について町長と協議しなければならない。」といった規定にすべきである。)。

*2:もちろん既存業者を全て把握していれば、この届出の規定は不要になるが、そのようなケースはほとんどないのではないかと思われる。