自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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義務付けされていない行為に対して過料を科すことは可能か(下)

 次は、修正後の法案を審議している参議院内閣委員会、厚生労働委員会連合審査会における議論である。

福島みずほ ……次に、感染症法の解釈としてコンメンタールを置いております。これは感染症法のコンメンタールで、配付資料なんですが、これは入院に係るもの罰則なしなんですよ。

 厚労省は、入院に係るものについては罰則要らないってやっているんですね。それは何かというと、感染症患者の入院についてはまず入院勧告を行い、勧告に従わない場合は強制力を行使して入院をさせると。ですから、このため、入院については義務違反が想定できず、また、その実効も措置で担保されているので罰則を科さないってなるんですよ。厚生労働省が書いている感染症法のコンメンタールは罰則要らないというふうになっているわけですね。ところが、今回罰則を入れた。この整合性はどうなんでしょうか。そして、感染症法の解釈として、感染症患者の入院については入院勧告を行い、従わない場合は入院させる入院措置があります。この措置ができるにもかかわらず、なぜ今回罰則なんですか。

国務大臣田村憲久君)(厚生労働大臣 入院措置という、まあ言うなれば即時強制なわけでありますが、当然入院していただけない方おられます。それから、入院した後も逃げ出すという事例もあります。そういう事例をやはり都道府県知事さんからいろんな御意見いただく中で、やはり何らかの罰則を、実効性を保つために……(発言する者あり)何でですか。そのために、ために今回盛り込まさせていただいたということでありまして、実態は、確かに即時強制で入院をさせられればいいですけれども、実態としてできない、しない、されない、そういう場合がある場合にどうやって実効性を保つかという中において今回このような罰則を盛り込んだということであります。

福島みずほ だって、今まで罰則なしって言って、これの強制措置、入院措置でやるんだってやってきたわけじゃないですか。

 じゃ、お聞きします。入院拒否に対する罰則について行政処分を前置しなくていいんですか。前置するんですか。

国務大臣田村憲久君) これは、要するに即時強制というものはある意味、まあ言うなれば、そういう行政的な何らかの対応というものに対して違反したというのと同じような効果があると。つまり、義務として本来は受忍していただかなければならないと、即時強制でありますから。それを受忍しないということでありますので、そういう場合に対して罰則が掛かるということであります。

(第204回国会参議院内閣委員会、厚生労働委員会連合審査会(令和3年2月3日))

 そもそも行政罰というものは行政法の義務違反に対して科すものである*1。そして、刑罰の対象となる行為であっても、それを行政犯と考えるのであれば、一般的には義務付けの規定が置かれることとされているのであるから*2、ましてや過料を科する場合に義務付けの規定を置かないということは法制執務的にはあり得ないことになる。したがって、上記の厚生労働大臣の答弁は、刑罰と行政罰の違いを意識しておらず、現在のルールからすると如何なものかということになる。

 ところで、即時強制というものは、行政機関が直接実力を行使して行政上必要な状態を実現する作用であるから、本来であればそれが実現しないということは想定しないのだろうが、それが国民の身体に直接実力を加えるものである場合には、現実問題としては実現しないこともあり得るのだろう。その場合に、行政罰により間接的に強制しようとするのであれば、即時強制に係る措置に従わない場合に行政命令を行う旨の規定を設け、命令違反に対して罰則を科することとするのがスタンダードな考え方になってくるのだろうが、そうするのであれば、あえて即時強制と構成する必要はなくなってくる。

 ただし、感染症法は、特に人権尊重に配慮した法律であるため、即時強制である入院措置を入院命令とするのは難しく、したがって今回の事例は特殊事例なのかもしれないが、いずれにしろ今後の立法例が興味深いところである。

*1:高橋和之ほか『法律学小辞典(第5版)』P244参照

*2:上田章『議員立法五十五年』P132によれば「何々してはならない。その規定に違反したものは処罰する」という書き方をすることになる。