自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

立入検査時の身分証明書の提示

 法令における立入検査の規定においては、立入検査を行う職員は身分証明書を携帯しなければならないこととする規定を置くことが通例であるが、その書きぶりは、次のとおり、関係人の請求に応じて提示すべきこととするものと、関係人の請求がなくても提示を義務付けることとするものとがある。

関係人の請求に応じて提示すべきこととする規定の例

   水道法(昭和32年法律第177号)

 (給水装置の検査)

第17条 水道事業者は、日出後日没前に限り、その職員をして、当該水道によつて水の供給を受ける者の土地又は建物に立ち入り、給水装置を検査させることができる。ただし、人の看守し、若しくは人の住居に使用する建物又は閉鎖された門内に立ち入るときは、その看守者、居住者又はこれらに代るべき者の同意を得なければならない。

2 前項の規定により給水装置の検査に従事する職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があつたときは、これを提示しなければならない

関係人の請求がなくても提示を義務付けることとする規定の例

   風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)

 (報告及び立入り)

第37条 (略)

2 警察職員は、この法律の施行に必要な限度において、次に掲げる場所に立ち入ることができる。……

(各号略)

3 前項の規定により警察職員が立ち入るときは、その身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。

4  (略)

 以上の規定のうち、どちらが適当なのかについては、関係人の請求がなくても提示を義務付ける規定とすることが望ましいとの見解が一般的のようである*1。抜き打ち検査をやる場合を考えればその方が適当だろうし、権限があると偽るような者があることまで想定するのであれば、関係人の請求がなくても提示を義務付ける意味はあるのかもしれない。

 しかし、実務を考えると、必ずしもそう言い切るべきでもないだろう。かつて、法令の立入検査の規定を根拠にして定期的に行う調査を担当したことがあるが、そのときは、あらかじめ調査日時と調査者を明記した通知を調査先に送付しているので、相手方もどこの誰が来るのか承知しているため、身分証明書の提示を要求されたことはないし、その必要性を感じたこともなかった*2

 また、上記の水道法の検査は、その規定の書きぶりからすると、相手方とは会わずに行うこともあると思う。

 そうすると、結局のところ、具体的に立入検査を行う場合を考慮した上で、適切な書きぶりを選択するということになるのだろう。

*1:興津征雄『行政法行政法総論』P296等

*2:もちろん、当該法令の身分証明書の提示に関する規定の書きぶりは、関係人の請求に応じて提示すべきこととするものであった。