自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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検事長の定年延長

 政府が東京高検検事長の定年を延長することとしたことが問題となっている。報道によると、野党は、過去の国会答弁における解釈を変更したことを問題視しているものが多いように見受けられるが、文理解釈によれば、検察官に国家公務員法の定年延長の規定が適用されないことは明らかである。

 検察庁法及び国会公務員法の関係規定は、次のとおりである。

   検察庁

第22条 検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。

32条の2 この法律第15条、第18条乃至第20条及び第22条乃至第25条の規定は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

   国家公務員法

(定年による退職)

第81条の2 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の3月31日又は第55条第1項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。

2 前項の定年は、年齢60年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。

 (1)~(3) (略)

3 (略)

(定年による退職の特例)

第81条の3 任命権者は、定年に達した職員が前条第1項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。

2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、1年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して3年を超えることができない。

 定年延長の根拠規定である国家公務員法第81条の3が適用になる場合は、「前条第1項の規定により退職すべきこととなる場合」とあるように、定年退職の根拠が同法第81条の2第1項の規定である場合となる。仮にこれを検察官にも適用させるのであれば、検察庁法に国家公務員法第81条の3の規定の「前条第1項」を「検察庁法第22条」に読み替える規定を置くこととなるが、そうした規定がない以上、当該規定が検察官に適用がないのは自明である。

 野党の某議員は自身のツイッターで、政府に検察官の定年退職の根拠規定を照会しており、法務省検察庁法第22条の規定と考え、内閣法制局は同条の規定と国会公務員法第81条の2の規定の両方であると考えているようだと言っている。内閣法制局国家公務員法も根拠規定と考えるのは、文理解釈をすると上記のようになることとの整合を図るためでないかと思われる。しかし、検察庁法第22条の規定が国家公務員法の特例規定である以上、無理筋の解釈である。

 無理を承知で、あえて検察官に国家公務員法の定年延長の規定が適用される解釈を考えるのであれば、検察官の定年退職の根拠規定はあくまでも検察庁法第22条であるが、国家公務員法の定年延長の規定は、それを否定する規定が検察庁法にないので、適用になると考えるのが普通である、そして、国家公務員法第81条の3の規定の「前条第1項」を「検察庁法第22条」に読み替える規定がないのは、当然のことだからあえて置かなかったのだといった解釈にあるのであろうか。しかし、かなり厳しい解釈である。