自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

規制手法~届出制(下)

2 当該行為自体が住民の生命、財産等に影響を及ぼすかどうか分からない場合

 当該行為自体が住民の生命、財産等に影響を及ぼすかどうか分からない場合に、その安全性を確認するために届出制を設けることがある。

 「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」では、新規化学物質について届出をさせ、PCB類似の性状を有していないかどうか審査し、その安全性を確認した後でないと、その新規化学物質の製造又は輸入をすることができないという制度を設けている*1

 3 当該行為を一定の方向に誘導しようとする場合

 届出制を採用している法律に景観法がある。この景観法の仕組みに関しては、衆議院国土交通委員会において、竹歳国土交通省都市・地域整備局長の次のような答弁がある。

 このさまざまな新しい仕組みというものは、建築物の建築等の行為自体をとめるものではございませんで、デザインとか色彩について、地域住民の意見を反映させながら策定される地域ごとのルールに適合させていこう、こういうものであるわけでございます。

 景観法は、建築物の建築行為自体を規制するのではなく、そのデザインや色彩を一定の方向に誘導するものであるが、このような場合には届出制が用いられやすいと思われる。

 4 行政として実体は把握したいが、お墨付きを与えたくない場合

 風営法において風俗関連営業を許可制ではなく届出制にしたのは、実態把握の必要はあるものの、公的機関が認めた業種とされたくないためであるとされている*2*3

 

 以上、届出制が用いられている場面を取り上げてみたが、届出制を用いるのは、その対象行為が許可制を採るほどのものではないと判断する場合ということになる。そして、届出制に行政処分をリンクさせるシステムは、効果としては許可制とあまり変わらないとしても、当然その全ての行為に行政処分を課すわけではなく、その必要があるもののみに課すわけであるから、許可制よりも柔軟な対応が可能になるというメリットがあるだろう*4

*1:化審法規研究会『逐条解説化審法』(P4)参照

*2:阿部泰隆『行政の法システム(上)(新版)』(P81)参照。なお、平成18年6月8日に公布された探偵業の業務の適正化に関する法律における探偵業の届出も同様(栗原理恵『ジュリスト(No.1322)』(P65)参照)。

*3:田村泰俊『最新・ハイブリッド行政法』(P241~)では、これらを政策法務的な観点から見た届出制の意味であるとしている。

*4:高知県土地基本条例に基づく協議後開発計画に関してであるが、北村喜宣『分権改革と条例』P238参照

「手続き」と書かない根拠

 SNSで「手続」と書くか「手続き」と書くかについての投稿があり、その中で法文は「手続き」と書くとしている投稿も見られたので、法文は必ず「手続」としなければいけない根拠を記載しておくこととする。

 送り仮名の付け方については、一般の社会生活において現代の国語を書き表すための送り仮名の付け方のよりどころとして「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)が定められており、本件と関係があるのはその本文の通則6である。そこでは「本則*1」は、「複合の語……の送り仮名は,その複合の語を書き表す漢字の,それぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名の付け方による」とされ、「許容*2」として「読み間違えるおそれのない場合は,次の( )の中に示すように,送り仮名を省くことができる」とされている。このように一般社会においては*3、「手続」としても「手続き」としてもよいことになる。したがって、新聞などは本則によって「手続き」と表記するのをルールとしているのだろう*4

 しかし、公用文ではどちらでもいいとはされていない。公用文における送り仮名の付け方については、「公用文における漢字使用等について」(平成22年内閣訓令第1号)の別紙の2に次のように記載され、その記載に続けて「なお、これに該当する語は、次のとおりとする」として「手続」が挙げられている。

2 送り仮名の付け方について

(1) 公用文における送り仮名の付け方は、原則として、「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)の本文の通則1から通則6までの「本則」・「例外」、通則7及び「付表の語」……によるものとする。

ただし、複合の語……のうち、活用のない語であって読み間違えるおそれのない語については、「送り仮名の付け方」の本文の通則6の「許容」を適用して送り仮名を省くものとする。

  そして、昭和48年内閣告示第2号、平成22年内閣訓令第1号等に基づき、「法令における漢字使用等について」(平成22年11月30日付け内閣法制局総総第208号内閣法制次長通知)が発出されており、平成22年内閣訓令第1号と同様の扱いとすることとされており*5、法文では「手続」と書くこととされているのである。

 したがって、現在確認できる法律で「手続き」とされている唯一の例である「国民年金法等の一部を改正する法律(平成12年法律第18号)」附則第1条第2項の規定*6は、単なるミスではなかったかと考えざるを得ないのである*7

*1:本則とは、「送り仮名の付け方の基本的な法則と考えられるものをいう。」

*2:許容とは「本則による形とともに、慣用として行われていると認められるものであって、本則以外に、これによってよいものをいう。」

*3:昭和48年内閣告示第2号の前書きの一は、「この『送り仮名の付け方』は、法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など、一般の社会生活において、『当用漢字音訓表』の音訓によって現代の国語を書き表す場合の送り仮名の付け方のよりどころを示すものである」としている。

*4:時事通信社『最新用事用語ブック(第5版)』(P484)参照

*5:この通知は、内閣提出法律案及び政令案の起案に関するものであるが、議員提出に係る法律案についても同様の表記方法がとられている(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』(P637)参照)。

*6:「第3条の規定による改正後の国民年金法第77条第1項に規定する基本方針及び第7条の規定による改正後の厚生年金保険法第79条の4第1項に規定する基本方針の策定のため必要な手続きその他の行為は、施行日前においても行うことができる。」とする規定。なおこれは、資金運用部資金法等の一部を改正する法律(平成12年法律第99号)附則第28条により追加された規定である。

*7:この改正がなされた当時の平成22年11月30日付け内閣法制局総総第208号内閣法制次長通知に相当する通知は、昭和56年10月1日付け内閣法制局総発第141号内閣法制次長通知であるが(平成22年11月30日付け内閣法制局総総第208号内閣法制次長通知により廃止)、該当部分の記載に変更はない。

規制手法~届出制(上)

 条例で規制手法を定める場合には、その性質から許可制よりも届出制を規定する場合が多いと思われる。そこで、旧ブログの記事で記載した届出制に関する記事のうち、どのような場合に届出制を用いるべきかという点に絞って、現時点での考えをまとめておくことにする。

 <「自治法制執務雑感」関連記事>

 一般的に許可制を採るか届出制を採るかは、強い規制をするべきか、弱い規制で足りるのかといった判断に基づいていると言える*1

 しかし、届出制に行政処分・罰則をリンクさせる立法例があるが、この場合には効果としては許可制とあまり変わらないようなものになってくる。例えば、公害法の多くに届出制が採用されていることについて、大塚直『環境法(第2版)』(P264~)には、次のように記載されている。

 規制の態様として、許可制の方が厳しいと一般的には考えられるが、届出制といっても、届け出さえすれば直ちに行為を適法にすることができるわけではないことにも注意する必要がある。例えば、大防法では、届け出られたばい煙発生施設が排出基準に適合しないと都道府県知事が認めるときは、その計画の変更や廃止を命じうることになっている(9条)。このような事後変更命令付きの届出制は、他の環境法にもみられるが、この種の届出制と許可制とは、届出後一定期間内に命令がなされない限り、申請者が基準を超える行為を適法になしうる点のみが異なるにすぎないわけである。

 そうすると、許可制を採る場合と届出制を採る場合のメルクマールはどこに見出すべきであろうか。阿部泰隆『行政の法システム(上)』(P80)は「許可制ほど強力な手法をおくことが適切でないとか、許認可を付与するかどうかの判断が困難であるとか、許認可事務が膨大になるとかしてその運用が困難ある場合」に届出制が設けられるとする*2

 ここでは、法令で具体的にどのような場合に届出制が採られているか見ていくことにする。

 1 当該行為自体では、住民の生命、財産等に大きな影響を及ぼさない場合

 公害法における規制は、届出制が採用されていることが多い。例えば、水質汚濁防止法は、特定施設等を設置しようとするときは都道府県知事に届け出なければならないとしている(同法第5条)。その届出は、当該施設を設置する60日前に届出をさせることとし(同法第9条第1項)、排水基準に適合しないと認めるときなどには都道府県知事は計画変更命令等を行うことができ(同法第8条)、当該命令に従わない場合には罰則を科すこととしている(同法第30条)。

 大気汚染防止法も基本的には同様の手法を用いているが、このように公害法において届出制が採用されているのは、事業活動を尊重するという趣旨もあると思うが、その者の行為のみでは、住民の生命や健康に被害が生じすることはないからであると考えることができる。

 このように、一定の規制は必要ではあるものの、当該行為自体では、住民の生命、財産等に大きな影響を及ぼさないような場合には、届出制を用いられている。

*1:上田章・笠井真一『条例規則の読み方・つくり方』(P104)は、「ある種の行為又は事業に対する規制として、許可制にすべきか届出制にすべきかについては、その取締対象の社会的条件等から判断して公益上やむを得ない場合には一般的に禁止した上で特定の場合にのみ解除するという許可制をとり、比較的軽微な規制をもって足りると判断される場合には、届出制を採用することとなる」とする。

*2:なお、山本博史『行政手法ガイドブック』(P113~)は、ある行為群の一部が公益に反する可能性がある場合、届出を義務付け、公益に反する行為を抽出し、その行為についてのみ命令をかけていく手法が採られる場合があるとする。

添付書類の特例

 規則の附則(制定附則)に次の規定を追加する改正規則を見かけた*1

当分の間、条例第8条の規定による登録の申請(条例第7条第1項の規定により登録を受けようとする場合に限る。)は、第7条第3号の規定にかかわらず、同号に掲げる書類に代えて、登録申請書に市長が別に定める書類を添えて行うことができる。

 この規定は規則第7条の規定の特例を定めるものであるが、同条の規定は次のとおりである。

 

(登録の申請)

第7条 条例第8条の規定による登録の申請(条例第7条第1項の規定により登録を受けようとする場合に限る。)は、登録申請書に次に掲げる書類を添えて行わなければならない。

 (1)・(2) (略)

 (3) 〇〇に関する講習(市長が指定するものに限る。)を受講したことを証する書類

 (4)  (略)

  添付書類の特例として「市長が別に定める書類」とすることが適切かという問題はあるが、上記の附則に追加する規定も一つの書き方ではある。しかし、当該規定は、規則第7条が条件を付けたりしているので、冗長な感じになってしまっている。

 端的に規則第7条第3号の書類を「市長が別に定める書類」に代えてもよいという書き方にするのであれば、次のようにすることができるだろう。

当分の間、第7条に規定する申請において登録申請書に添えなければならない同条第3号に掲げる書類は、同条の規定にかかわらず、同号に掲げる書類に代えて、市長が別に定める書類とすることができる。

 

*1:一部修正を行っている。

おかしな例規(1)

法人企業統計調査規則第八条第一項に規定する調査票の提出期限の特例に関する省令(令和2年財務省令第55号)

 (提出期限の特例)

第1条 法人企業統計調査規則(昭和45年大蔵省令第48号)第4条第2項に規定する年次別法人企業統計調査のうち、令和元年度下期調査における同規則第8条第1項の適用については、「令和2年9月30日」とする。

   附 則

 この省令は、公布の日から施行する。

  第2条は?

 

文書のチェック~ある雑誌の記載から

 『自治実務セミナー(2020年9月)』に次のような文章が掲載されていた。

 ……もう少し慣れたら、主語と述語が一致しているかをチェックしてみてください。審議会に関する例規案の中で、「会議は、委員長が招集し、議長となる」という案文をしばしば目にします。主語と述語の間の「、委員長が招集し」を取り払ってみてください。「会議は、議長となる」と、主語と述語が一致しておらず、誤っていることが分かります(この場合、「議長」の前に「その」を加え、「会議は、委員長が招集し、その議長となる」とするのが一般的です)。

 上記の表現が一般的かどうか私は知らないが、「会議は、委員長が招集し、議長となる」という文章の「議長となる」には「委員長が」という言葉がかかっているので、「委員長が招集し」を取り払うのでなく、「会議は、委員長が……議長となる」という文章が良いか悪いか検証するべきだろう。

 そこで「議長」の前に「その」を加えるのであれば、「会議は、委員長が……その議長となる」ということになるが、この「その」は「会議」を指すことになるので、「会議は、委員長が……会議の議長となる」という文章となり、結果として「その」を補っても適切な文章にはならないことになる。

 仮に会議の招集とその議長について一文で書くのであれば、「会議」を主語にするのは無理であり、委員長を主語にして「委員長は、会議を招集し、その議長となる」とせざるを得ないと思うが、スタンダードな書き方は、次のように会議の招集とその議長については一文にせず、項を分けて書くなど別々の文章にするのではないだろうか。   

日本年金機構法(平成19年法律第109号)

 (理事会の会議)

第11条 理事会は、理事長が招集する。

2 理事長は、理事会の議長となり、会務を総理する。

3・4 (略)

 

 

定義規定(12)

5 定義規定の準用

  次の規定は、「租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令平成27年政令第148号)」第1条の規定により租税特別措置法施行令に追加された規定である。 

(未成年者口座内の少額上場株式等に係る譲渡所得等の非課税)

第25条の13の8 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 (1) 振替口座簿又は株式等 それぞれ法第37条の14第1項に規定する振替口座簿又は株式等をいう。

 (2) 金融商品取引業者等又は営業所 それぞれ法第37条の14第5項に規定する金融商品取引業者等又は営業所をいう。

 (3) 未成年者口座内上場株式等 法第37条の14の2第1項に規定する未成年者口座内上場株式等をいう。

 (4) 払出し時の金額又は基準年 それぞれ法第37条の14の2第4項に規定する払出し時の金額又は基準年をいう。

 (5) 未成年者口座、未成年者口座開設届出書、非課税管理勘定、継続管理勘定、課税未成年者口座、課税管理勘定、未成年者非課税適用確認書又は未成年者口座廃止通知書 それぞれ法第37条の14の2第5項に規定する未成年者口座、未成年者口座開設届出書、非課税管理勘定、継続管理勘定、課税未成年者口座、課税管理勘定、未成年者非課税適用確認書又は未成年者口座廃止通知書をいう。

 (6) 契約不履行等事由 法第37条の14の2第6項に規定する契約不履行等事由をいう。

2~16 (略)

17 第25条の13第2項から第4項まで、第6項、第7項、第10項、第11項及び第14項から第24項まで並びに第25条の13の2から前条までの規定は、法第37条の14の2の規定を適用する場合について準用する。この場合において、これらの規定中「非課税口座開設届出書」とあるのは「未成年者口座開設届出書」と、「非課税適用確認書」とあるのは「未成年者非課税適用確認書」と、「非課税口座異動届出書」とあるのは「未成年者口座異動届出書」と、「非課税口座移管依頼書」とあるのは「未成年者口座移管依頼書」と、「出国届出書」とあるのは「未成年者出国届出書」と、「非課税口座開設者死亡届出書」とあるのは「未成年者口座開設者死亡届出書」と、「非課税口座年間取引報告書」とあるのは「未成年者口座年間取引報告書」と読み替えるほか、次の表の上欄に掲げるこれらの規定中同表の中欄に掲げる字句は、それぞれ同表の下欄に掲げる字句に読み替えるものとする。

  (表略)

18 第1項の規定は、前項において準用する第25条の13第2項から第4項まで、第6項、第7項、第10項、第11項及び第14項から第24項まで並びに第25条の13の2から前条までに規定する用語について準用する。

19~26 (略)

  第18項の規定は、定義規定を準用するというあまり目にしない規定だが、用語を読み替える際に「第25条の13の8第1項第○号に規定する○○」とするのを避けることを意図したのだろう。

 「準用」と言われればそれでいいようにも感じるし、「適用」ではないかとも感じるし、むしろ、次のように第1項を読み替える方法もあるような気がする。

18 前項の場合において、第1項中「この条」とあるのは、「この条並びに第17項において準用する第25条の13第2項から第4項まで、第6項、第7項、第10項、第11項及び第14項から第24項まで並びに第25条の13の2から前条まで」とする。

 いずれにしろ、上記のような立法技術が一般化すれば、読替え規定を書くのがかなり楽になるだろう。

(このシリーズ終了)