自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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「手続き」と書かない根拠

 SNSで「手続」と書くか「手続き」と書くかについての投稿があり、その中で法文は「手続き」と書くとしている投稿も見られたので、法文は必ず「手続」としなければいけない根拠を記載しておくこととする。

 送り仮名の付け方については、一般の社会生活において現代の国語を書き表すための送り仮名の付け方のよりどころとして「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)が定められており、本件と関係があるのはその本文の通則6である。そこでは「本則*1」は、「複合の語……の送り仮名は,その複合の語を書き表す漢字の,それぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名の付け方による」とされ、「許容*2」として「読み間違えるおそれのない場合は,次の( )の中に示すように,送り仮名を省くことができる」とされている。このように一般社会においては*3、「手続」としても「手続き」としてもよいことになる。したがって、新聞などは本則によって「手続き」と表記するのをルールとしているのだろう*4

 しかし、公用文ではどちらでもいいとはされていない。公用文における送り仮名の付け方については、「公用文における漢字使用等について」(平成22年内閣訓令第1号)の別紙の2に次のように記載され、その記載に続けて「なお、これに該当する語は、次のとおりとする」として「手続」が挙げられている。

2 送り仮名の付け方について

(1) 公用文における送り仮名の付け方は、原則として、「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)の本文の通則1から通則6までの「本則」・「例外」、通則7及び「付表の語」……によるものとする。

ただし、複合の語……のうち、活用のない語であって読み間違えるおそれのない語については、「送り仮名の付け方」の本文の通則6の「許容」を適用して送り仮名を省くものとする。

  そして、昭和48年内閣告示第2号、平成22年内閣訓令第1号等に基づき、「法令における漢字使用等について」(平成22年11月30日付け内閣法制局総総第208号内閣法制次長通知)が発出されており、平成22年内閣訓令第1号と同様の扱いとすることとされており*5、法文では「手続」と書くこととされているのである。

 したがって、現在確認できる法律で「手続き」とされている唯一の例である「国民年金法等の一部を改正する法律(平成12年法律第18号)」附則第1条第2項の規定*6は、単なるミスではなかったかと考えざるを得ないのである*7

*1:本則とは、「送り仮名の付け方の基本的な法則と考えられるものをいう。」

*2:許容とは「本則による形とともに、慣用として行われていると認められるものであって、本則以外に、これによってよいものをいう。」

*3:昭和48年内閣告示第2号の前書きの一は、「この『送り仮名の付け方』は、法令・公用文書・新聞・雑誌・放送など、一般の社会生活において、『当用漢字音訓表』の音訓によって現代の国語を書き表す場合の送り仮名の付け方のよりどころを示すものである」としている。

*4:時事通信社『最新用事用語ブック(第5版)』(P484)参照

*5:この通知は、内閣提出法律案及び政令案の起案に関するものであるが、議員提出に係る法律案についても同様の表記方法がとられている(法制執務研究会『新訂ワークブック法制執務(第2版)』(P637)参照)。

*6:「第3条の規定による改正後の国民年金法第77条第1項に規定する基本方針及び第7条の規定による改正後の厚生年金保険法第79条の4第1項に規定する基本方針の策定のため必要な手続きその他の行為は、施行日前においても行うことができる。」とする規定。なおこれは、資金運用部資金法等の一部を改正する法律(平成12年法律第99号)附則第28条により追加された規定である。

*7:この改正がなされた当時の平成22年11月30日付け内閣法制局総総第208号内閣法制次長通知に相当する通知は、昭和56年10月1日付け内閣法制局総発第141号内閣法制次長通知であるが(平成22年11月30日付け内閣法制局総総第208号内閣法制次長通知により廃止)、該当部分の記載に変更はない。