自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

「直ちに」~道路交通法に基づく救護義務違反が問われた事例

ひき逃げで逆転無罪=長野の15歳死亡事故―東京高裁

 長野県佐久市で2015年、横断歩道を渡っていた中学3年の男子生徒=当時(15)=をはねて死亡させる事故を起こした際、直ちに救護しなかったとして道交法違反(ひき逃げ)罪に問われた男性被告(50)の控訴審判決が28日、東京高裁であった。田村政喜裁判長は「直ちに救護措置を講じなかったと評価することはできない」として、懲役6月とした一審長野地裁判決を破棄し、無罪を言い渡した。

 事故を巡っては同年、過失運転致死罪で男性の有罪判決が確定。長野地検は22年、男性が男子生徒の救護前、飲酒の発覚を免れるため口臭防止用の商品を買いにコンビニへ行ったことが救護義務違反に当たるとして、再度起訴した。

 田村裁判長は、男性がコンビニに立ち寄った時間は1分余りで、その後男子生徒を発見して人工呼吸などをしたことから、「道義的には非難されるべきでも、救護の意思を失ったとは認められない」と判断した。

 22年11月の地裁判決は、コンビニに立ち寄ったことで救護の措置を遅延させたとして有罪を言い渡していた。

 伊藤栄二・東京高検次席検事の話 主張が認められず誠に遺憾。判決内容を十分に検討し、適切に対応したい。 

時事通信社2023年9月28日配信

 地元では、大きく取り上げられていたニュースであり、2022年の地裁判決時には、被害者の御両親の苦労が報われたと好意的に報道されていた記憶があるが、それだけに、今回の判決は意外だったというのが正直な感想である。

 交通事故時の救護義務を定めた道路交通法第72条の規定は、次のとおりである。

(交通事故の場合の措置)

第72条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。同項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置(第75条の23第1項及び第3項において「交通事故発生日時等」という。)を報告しなければならない。

2~4 (略)

 判決文を見ていないので、詳細はよく分からないのだが、救護を履行する意思が継続していたかどうかを問題視しているようである。

 しかし、条文は、「直ちに……負傷者を救護し……なければならない」としているだけであり、「直ちに」とは、まさに「即時に」という趣旨で用いられる用語であるため、被告は、たとえ救護する意思を有していたとしても、事故直後にそれに対する措置とは無関係な行為をとっている以上、たとえ救護を履行する意思があったとしても、救護義務違反があったという評価をしてよいのではと感じる。

 報道によると、東京高検は最高裁判所への上告を検討しているとのことであり、注視したい。