自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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法律レベルにおける新旧対照表方式の検討

 元内閣法制局長官である山本庸幸氏は、内閣法制次長時代(2010年(平成22年)1月~2011年(平成23年)12月)のエピソードとして、例規の改正手法である新旧対照表方式について、ブログで次のように述べている。

 ……改め文そのものは実に分かりにくいし、最初に新旧対照表を作ってから改め文を作るというのは二度手間だ。それならばいっそのこと、改め文ではなく、新旧対照表を直接、国会審議の対象にしてもらえばよいと考えるようになった。そこで、内閣法制局としては、従来は各省で微妙な違いのあった新旧対照表の方式を統一した上で、これを法律案そのものとするよう、官邸と全省庁の内々の了承を取り付けた。

 その上で、国会筋の了解を得るための下相談に臨んだのである。折衝担当者は頑張ってくれたのだが、先方からは難色を示されて、結局のところ、了解を得るには至らなかった。これは私の推測であるが、議院修正があった場合に本来の法律案の改正部分を表す傍線と議院修正箇所を表す傍線とが重なって複雑で不明瞭になるというのが一番問題となったのではないかと思っている。確かに、何回も議院修正があったような場合を考えてみると、そうかもしれない。いずれにせよ、法律案を審議する国会の意向は、引き続き改め文を使うようにというものであった。

 議院修正があった場合は、別葉にするなり、傍線を線種や色で区別するなりして技術的に解決する方策がないわけではないと思うが、国会関係者に認めてもらえないのであれば、やむを得ない。せめて作成側の負担を減らそうと、新旧対照表から改め文を自動的に作成してくれるソフトを開発することにした。とはいえ、改め文の分かりにくさはそのままであり、割り切れなさが残った。

 内閣としては、新旧対照表方式を用いる方針であったということは驚きであるが、結局は国会の反対により実現しなかったということも意外な感じがしないでもない。山本氏は、国会が反対した理由は議院修正をする場合のことを考慮したのではないかと推測されている。ただし、この問題は、一部改正法律の一部改正の場合にも生じると思うのだが、それは考慮していなかったのだろうか。

 そして、本当にやる気があるのであれば、政令だけでも新旧対照表方式とすればよかったと思うのだが、そこまで至っていない。そうすると、国会に対しては、意向を確認するというレベルの話だったのかもしれない。