自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

遡及適用した場合における立法上の手当て

 令和2年4月から令和3年9月の間、岩手県大槌町において議会が議決した条例46件と町長が決裁した規則36件を公布していなかったことについて、『自治体法務雑記帳』(「立法の過誤と遡及立法―大槌町条例未公布問題に寄せて」)において、詳細な検討がなされている。

 この記事では、特に税に関する遡及適用の可否について、学説等の考え方に基づき考察されており、参考になる。個人的には、罰則等遡及適用を明確に否定していないものについて遡及適用が認められるかどうかについては、結局のところケーズバイケースの判断になるのではないかと感じており、税条例の遡及適用については、地方税法の改正等を受けて定めるべきものに関わる事項については、原則として遡及適用を認める方向でよいのではないかと思っている。

 ところで、この記事では、改めて条例改正による遡及立法を行って瑕疵を治癒し、その際、未公布だった条例の効力が生じていると誤信して行われた行政処分等を、後付けで正当なものとする条文も必要として、次のような規定を置くべきとしている。

 (処分等の効力)

第X条 この条例の適用日*1前において、改正後の税条例が適用日から適用されるものとして既になされた処分、手続その他の行為は、この附則に別段の定めがあるものを除き、改正後の税条例の規定によってなされたものとみなす。

 これは、次の「特定非営利活動促進法の一部を改正する法律(平成28年法律第70号)」附則第12条を参考にしたとのことである。

 (処分等の効力)

第12条 この法律の施行前にこの法律による改正前のそれぞれの法律(これに基づく命令を含む。以下この条において同じ。)の規定によってした処分、手続その他の行為であって、この法律による改正後のそれぞれの法律の規定に相当の規定があるものは、この附則に別段の定めがあるものを除き、この法律による改正後のそれぞれの法律の相当の規定によってしたものとみなす。

 しかし、そもそもある規定を遡及適用することにより、当該規定に基づく行政処分等を追認することを認めるのであれば、遡及適用する規定のほかに特別な規定は不要と考えるべきだろう。何か書いておきたいのであれば、確認的な意味で次のように書くのかと思うが、あまり意味があるとは思えない。

この条例の施行前にした処分、手続その他の行為であって、この条例による改正後の○○条例(以下「新条例」という。)の規定に相当の規定があるもの(この条例による改正に係る部分に限る。)は、この附則に別段の定めがあるものを除き、新条例の相当の規定によってしたものとして効力を有するものとする。

 

*1:ここは「施行日」ではないかと思う。