自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

例規審査事務経験のある地方公務員のブログ。https://twitter.com/hotiak1

市長の在任期間に関する条例

米沢市長選 伊藤夢人氏が出馬表明

来年12月の任期満了に伴い行われる米沢市長選挙に、市の参与を務める伊藤夢人(いとう・ゆめと)さんが、きのう(18日)、出馬を表明しました。

 (中略)

なお、現職の中川勝(なかがわ・まさる)市長は、自身の任期を2期8年までとする条例を制定し、勇退が既定路線となっています。

テレビユー山形 2022年12月19日配信

 首長のいわゆる多選自粛条例を制定しても結局自粛をしないという例が多い中、条例の趣旨に沿った対応をすることは好感が持てるところだが、よく見ると、条例では現職(条例制定時)の市長しか対象にしていないとのこと*1。その条例は、次のとおりである。

   米沢市長の在任期間に関する条例(平成28年山形県米沢市条例第3号)

 (目的)

第1条 この条例は、幅広い権限を有する市長の在任期間の上限について定め、もって清新で活力ある市政の運営を目指すことを目的とする。

 (在任期間)

第2条 市長の職にある者は、その職に連続して2任期(地方自治法(昭和22年法律第67号)第140条第1項に規定する任期を1任期として算定する。)を超えて在任しないものとする。

   附 則

 この条例は、公布の日から施行し、同日に市長の職にある者について適用する。

 自分自身しか対象にしないのであれば、あえて条例化する必要はないと思うが、この条例が審議された議会の本会議における常任委員会委員長報告において、次のような発言がなされている。

 次に、『議第12号 米沢市長の在任期間に関する条例の設定について』でありますが、本案は、市長の在任期間の上限について定めようとするものであります。

 なお、委員会として、本案についての説明、答弁のため、議長を通して、市長に出席を求めました。

 本案に対し委員から、地方自治体が条例で多選を制限することは、憲法の規定に抵触しないのかとの質疑があり、当局から、法律上そのような規定がないことから、条例で明確に禁止をうたっているのであれば問題であるが、あくまで自粛という形であるので、法的には問題がないと考えているとの答弁がありました。さらに委員から、ほかの市町村の条例では、「在任しないよう努めるものとする」と表現しているが、あえて「在任しないものとする」としたのはなぜかと質され、市長から、2期8年を選挙公約として訴えてきおり、自分を律するためにも「在任しないものとする」という文言を使用したとの答弁がありました。

 また委員から、2期8年とした理由について質疑があり、市長から、閉塞感のある米沢を何とか打破したいとの思いで市長選に立候補したが、この期間で産業振興や人口減少に歯止めをかける施策に力を入れても成果が出なければ、市長は何をしているのかとなる。成果を出すためにしっかり取り組みたいとの純粋な考えで2期8年の期間としたとの答弁がありました。さらに委員から、本条例は立候補を制限するものではないため、市民から継続の要望があり、推薦された際は立候補する考えはあるのかと質され、市長から、推薦をいただくことはありがたいことではあるが、その場合はまちづくりの一定の方向性が見え成果も出たと判断し、次の若い人へ受け継いでまいりたいと考えているとの答弁がありました。

 採決に当たっては、法的には任期を制限するという禁止はできず、あくまでも努力規定であることから、この条例は現市長のみに係るものであり、あえて制定しなければならない意義について疑問が残るため反対するとの意見。他自治体で既に施行されているものがあるという状況を踏まえれば、首長としての決意を示すための条例と受けとめ賛成するとの意見に分かれたため、起立による採決を行った結果、賛成多数で可決すべきものと決しました。

平成28年3月米沢市議会定例会・総務文教常任委員会委員長報告平成28年3月24日)

 これを読んでみてもあえて条例化する意義は感じられないところだが、それはともかく、条例において気になる点を3点程挙げておく。

  1.  目的規定は、現職のみ対象とする意図を書くべきであり、書けないのであれば、置くべきではないだろう。
  2.  あくまでも努力規定と考えるのであれば、第2条の「ものとする」はやはり不適当である。
  3.  現職のみ対象とすることについて、附則で適用関係として処理しているが、むしろ第2条を「この条例の施行の際現に市長の職にある者は、……」とする方がよいと思う。

*1:条例制定時の首長に限って対象としている条例は、地方自治研究機構のサイトによると、令和4年9月5日現在で3市存する。