自治立法立案の技法私論~自治体法制執務雑感Ver.2

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議員報酬削減条例

長期欠席都議、報酬減額条例を提案

 都民ファーストの会は29日、東京都議会の長期欠席議員を対象とした報酬の削減条例案について、立憲民主党と共同で議会運営委員会理事会に提案したと発表した。木下富美子都議が無免許運転で当て逃げ事故を起こして書類送検されながら、議会への欠席を続けていることが念頭にある。全会派の賛同を得た上で、現在開会中の定例会での制定を目指す。

 条例案では、都議が逮捕・拘留されたら支給を停止するほか、定例会を2回欠席した場合には報酬を半額にするとしている。毎月の報酬に加え、期末手当(ボーナス)も対象とする。都民ファ伊藤悠都議(政調会長代理)は「木下氏の長期欠席に都民の怒りは大きい。都議会の信頼回復のため一刻も早く条例を成立させたい」と述べた。

産経新聞 2021年9月29日配信

 法規担当だった頃、議会事務局から、議員が不祥事を起こしたことに対し、報酬を削減する条例を制定することは可能かという相談を受けたことがある。議会事務局の念頭にあったのは、不祥事があった際に首長が条例で給与削減を行うことがあったため*1、可能であれば同様な対応ができないかということであったが、私は、首長の給与削減の場合と同様の条例とするのであれば、本件は条例に議員個人の名前を記載することになるが、それは、次の理由により適当ではないのではないかと答えた。

  1. 条例はあくまでも一般的・抽象的な規範であり、特定の個人を対象とした条例を制定することは原則として想定していない*2
  2. 特定の議員を対象にした報酬カットは懲罰的な意味合いが出てしまうが、議員に対する懲罰として報酬の減額をすることができる規定は、地方自治法にはない*3

 そのため、木下都議の報酬を削減する条例案の提出を検討しているといった報道がなされたときは、どのような条例案にするのか関心を持っていたが、その内容は、上記新聞記事によると議員が本来行うべき活動を行っていない議員に対し、一定の額の報酬を減額するというものであるため、至って穏当で常識的な内容であると感じる。

*1:そうした事情に鑑みて、議員自身から申出があったということだったかもしれない。

*2:厳密に言えば、首長の給与削減も特定の個人を対象にしたものということになるが、条例で定めた首長という職の給与を減額するものであるため、違法ということにはならないと思われる。

*3:地方自治法第135条第1項は、議員に対する懲罰として①公開の議場における戒告、②公開の議場における陳謝、③一定期間の出席停止、④除名を定めるのみである。なお、懲罰を科することができる事由について、地方自治法第134条第1項参照