行政指導とは、行政機関が、一定の行政目的を達成するため、法律上の拘束力を有しない手段により、特定の者に一定の作為・不作為を求めることをいい、多くは法律上の根拠なく、当該行政機関の任務ないし所掌事務の範囲内で行われている*1。したがって、一職員がその担当事務について行うこともよくあることである。
こうした行政指導について、法律として規定されるものもある。代表的なものは、「勧告」だろう。
勧告も行政指導である以上、法的拘束力を持つものではないが*2、行政庁の強い意思を示すものであり、医療法第30条の11の規定に基づく病院の開設等に関する勧告のようになかには処分性を認められるものもある(最高裁平成17年7月15日判決(民集59巻6号1661頁))。
また、次の「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(以下「化審法」という。)」第39条の規定のように、「指導及び助言」という形で行政指導を規定する例が見られる。
(指導及び助言)
第39条 主務大臣は、優先評価化学物質、監視化学物質、第二種特定化学物質、特定一般化学物質又は特定新規化学物質による環境の汚染を防止するため特に必要があると認めるときは、当該優先評価化学物質に係る優先評価化学物質取扱事業者、当該監視化学物質に係る監視化学物質取扱事業者、当該第二種特定化学物質に係る第二種特定化学物質等取扱事業者、当該特定一般化学物質に係る特定一般化学物質取扱事業者又は当該特定新規化学物質に係る特定新規化学物質取扱事業者に対し、その取扱いの方法に関し必要な指導及び助言を行うことができる。
化審法における「勧告」と「指導及び助言」の違いについて、化審法規研究会『逐条解説化審法』(P812)には次のように記載されているが、これは全ての法令に共通していると言えるだろう。
「指導及び助言」は、一定の方向への誘導に力点が置かれるものである。一方、「勧告」は、所期の目的を達するために個別具体的な事項を指し示すことに力点が置かれており、「指導及び助言」と比べ、その内容の具体性が明確であり、要請の強度において強いものとなる。
こうした「指導及び助言」は、法律の根拠がなくても当然できるものであるが、行政庁の意思を明確にするという点で意義があるだろう。
ここで留意すべきなのは、一般的な行政指導は、職員が口頭で行う場合があるのに対し、法定の行政指導は、行政庁の権限とされているのが一般的であるため、職員が行うには委任等を受けていなければいけないので、通常は文書で行うことになる。実務を行う上ではあまり意識しないことかもしれないが、法解釈上は結構重要なことのように感じる。